2016 年6 月30 日(木)から7 月3 日(日)、早稲田小劇場どらま館で「ドキュメンタリーが語る原発と戦争」をテーマに「Wasedocu フェス2016」(早稲田大学ジャーナリズム研究所主催、ジャパンドック協力)が開催されました。
初日は、2015 年に放送された秀作ドキュメンタリーを女優・樹木希林氏が多彩なゲストとともに新たによみがえらせた、東海テレビ制作の画期的な作品『戦後70 年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』(全6 回)を初上映。午前10 時から10 時間にわたる長時間作品にも関わらず、 熱心な観客が全編を見ました。途中、樹木氏、東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーや 土方宏史ディレクターのトークも行われ、会場からの質問を受けながら、制作背景やエピソードが語られました。
2 日目は、瀬戸内海放送制作の『クワイ河に虹をかけた男』(2016)特別試写会と劇場公開中の『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』(2016)など 2 本の新作ドキュメンタリーを、 それぞれの作者である満田康弘監督と古居みずえ監督らのトークを交えて上映しました。
3 日目は、「アーカイブを見る」をテーマに、『戦ふ兵隊』などで知られる、亀井文夫監督の戦後の代表作『生きていてよかった』(1956)、『流血の記録 砂川』(1957)の2 本が上映 された後、中国電力が放送後に「圧力」をかけたとされる広島テレビの『プルトニウム元年・Ⅲ 隠される被ばくヒロシマは…』(1993)、そして『天皇と軍隊』監督の渡辺謙一監督が制作し た『ヒロシマの黒い太陽』(2011)、さらにチェルノブイリ関連の2 作品が上映されました。
最終日は満席の会場で、「原発は戦争の顔をしている」と題してチェルノブイリとフクシマ の原発事故に向き合った、3 本のNHK のドキュメンタリー作品を上映後、3 人の制作者と 早稲田大学ジャーナリズム研究所の金平茂紀招聘研究員が議論しました。2015 年のノーベ ル文学賞受賞者スベトラーナ・アレクシェビッチの世界を描いたNHK スペシャル『ロシア ・小さき人々の記録』(2001)を作った鎌倉英也氏(NHK名古屋)は「対ドイツ戦争にせよアフガン戦争にせよ、戦争とチェルノブイリ原発事故は、被害を押し付けられる、最底辺の小さな人々にとっては全く同じものだった」と語りました。 2016 年3 月放送のBS プレミアム『赤宇木』は放射能汚染で100年は帰れなくなった山村の太古から移民や戦争にまで連なる歴史を描いた作品で、担当した大森淳郎氏(NHK放送 文化研究所)は「土地に生きる村人にとって出征して異国で戦死することも、放射能で村を追われることも同じように違和感の塊。誰も責任をとらないところも一緒だ」と指摘しました。
真の事故原因を国家ぐるみで隠ぺいした実態を検証したNHK スペシャル『チェルノブイリ ・隠された事故報告』(1994)の制作者・七沢潔招聘研究員は「戦争体制の中で生まれた原子力を抱える社会は、秘密主義や異論の排除を行うなど軍事社会と同じ構造を持つ」と言い、金平氏は「ソビエトが行った隠ぺいは今、東電や日本政府がやっているのと同じ。真実に迫ることで作品は普遍的な価値を持つ」と評しました。「国家の作る神話にどう対抗するか?」という会場からの問いには、「やんちゃものを紹介し、個人の自由を拾い上げる」 (金平)、「編集過程を透明化して圧力に抗する」(鎌倉)、「転勤が怖いという自分たちの卑小さに抵抗する」(大森)、「事実を無かったことにする力に対し、記録すること、伝えることで戦う」(七沢)と答えました。
4 日間に渡って、17 作品の映画・テレビドキュメンタリーの上映とトークが行われ、市民や学生、ドキュメンタリー映画の監督やテレビの制作者など延べ 600 名を超える方が参加しました。
■ チラシ