仏教美術の研究にあたって、大事にしていること
大学院文学研究科博士後期課程 2016年3月修了
樋口 美咲(ひぐち・みさき)
私は平安時代の仏画、とりわけ院政期の密教絵画に興味を持ち、勉強をしています。
仏画の勉強を始めたのは大学院に進学してからです。きっかけは「自分の好きな仏画を見つけなさい」という指導教授の一言でした。私が選んだのは京都・醍醐寺(だいごじ)にある閻魔(えんま)天画像。豊満で張りのある肉身に、優しさと色っぽさが混じり合った目元、しなやかな指先…まさに一目ぼれでした。それから仏画の基礎を学び、修士論文はこの醍醐寺所蔵の閻魔天画像をテーマにしました。その後、第67回美術史学会全国大会でも、この作品について口述発表しています。
一つの作品を考察するためには、その他多くの作品を知らなければなりません。仏画の場合、描線や彩色、文様、技法などの様式を比較することで、制作時期が推定できます。またその作品が作られた目的や背景を明らかにするために、密教の教学や寺院史なども併せて学ぶ必要があります。
これらを自分一人の力ですることができれば、すでに一人前の研究者ですが、私はまだまだ駆け出しの青二才です。そこで勉強していく上で次の3点を大事にしています。①外に出ること、②素直であること、③断らないこと。
「① 外に出ること」とは、大学以外の研究会や勉強会に積極的に参加することです。関東の大学で仏教美術を専攻する院生やOB・OGが集まる研究会は、大切な勉強の場です。他大学の先輩や同輩に厳しい意見をいただき、自身のふがいなさに涙することもありました。
そして「②素直であること」とは、研究会や学内のゼミ、研究指導の場でいただいた助言を全て受け止め、反省し、研究に反映するよう心掛けることです。かたくなな態度にならず、謙虚な姿勢で研究に臨みたいと考えています。
最後に「③断らないこと」とは、どんな仕事でも調査でも、何でも引き受けることです。研究機関のアルバイトや地方の悉皆(しっかい)調査のお話をいただければ、自身の研究分野に関わらなくても必ずやります。一人で勉強していては得られない知識を学べる貴重な機会であり、不思議と自身の研究分野に関する情報が集まってくるのです。
一つの仏画にはたくさんの歴史が詰まっています。描かれている仏様の種類は何か。何を意味するポーズなのか、いつ、誰が、どこで、何の、誰のために作ったのか、など多くの問題をはらんでいるのです。これらが仏画の勉強をしていく上で、難しいところであり、また面白いところでもあります。
まだ仏画の勉強を始めて4年という未熟者ですが、いつか私の研究によって、仏教美術界に一石(それがどんなに小さい石でも)を投じられたら、そして仏教美術の研究と保存が進む一助となればと願い、日々精進しています。
【ある日のスケジュール】
- 06:30 起床
- 08:30 登校 午前中にメールチェックや郵便物の整理、助手の仕事を片付けます。
- 12:00 昼食と予習
- 13:00 授業
- 16:15 4限終了後、おやつとお茶 先輩や友達と最近出版された論文や展覧会についておしゃべりをしながら、情報交換をします。
- 18:00 図書館
- 21:30 下校・夕食
- 22:00 勉強
- 23:30 入浴・就寝 展覧会図録の図版を眺めたり、解説を読んだりするとよく眠れます。