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研究活動

研究プロジェクト

東アジア共同体と日米関係

計画書

研究代表者
(所属)
大賀哲(九州大学大学院法学研究院准教授)
研究関係者
(所属)
杉田米行(大阪大学)、勝間田弘(金沢大学)、酒井英一(関西外国語大学)、大井由紀(南山大学)、樋口敏広(京都大学)
研究期間 2014年4月~2015年3月
研究概要

 本研究の目的は、東アジアの総合的安全保障における日米同盟の役割を伝統的安全保障と非伝統的安全保障(人間の安全保障、経済、エネルギー政策)など隣接分野の知見を含めたかたちで架橋し、今後の日米関係の展望を考察することにある。非伝統的安全保障、とりわけ人間の安全保障分野については既に数多くの先行研究が存在しているが、それを伝統的安全保障との関係において、且つ日米関係や東アジア共同体との関係において考察した研究はほとんど行なわれていない。
 本研究では、伝統的安全保障と非伝統的安全保障の両者の交錯を、主として日米関係と東アジア共同体の位相から検討するものである。とりわけ、人間の安全保障や経済・エネルギー政策と伝統的安全保障分野との関係を探ることで、東アジア共同体の構築に日米関係が資する部分、および東アジア共同体の形成が日米関係に与える影響を精査するものである。
我が国にとって日米関係は現在最も重要な二国間関係のひとつであり、同時に東アジア共同体は2000年代以降歴代政権が模索してきた外交アジェンダである。したがって、日米関係と東アジア共同体の関係を再検討することはわが国の対外政策において非常に重要な領野を構成しており、その意義も大きい。とくに同課題については、政策論議や時事評論の類は蓄積されてはいるが、具体的な研究成果が包括的・体系的なかたちではいまだ構築されていないので、本研究を通じて、日米関係と基軸とした東アジア共同体についての総合的研究を行なうことの意義は極めて大きいものであると考えられる。研究手法としては、研究メンバー内で日米中安全保障・東アジア安全保障共同体・朝鮮半島問題・人間の安全保障・経済安全保障・エネルギー安全保障・国際テロリズムなどイシュー別に分担を決め、それぞれのイシューにおける東アジア共同体と日米同盟の役割を考察する。

報告書

研究代表者
(所属)
大賀哲(九州大学大学院法学研究院准教授)
研究関係者
(所属)
杉田米行(大阪大学)、勝間田弘(金沢大学)、酒井英一(関西外国語大学)、大井由紀(南山大学)、樋口敏広(京都大学)
研究期間 2014年4月~2015年3月
実績概要

本年度は安全保障と経済分野における東アジア共同体と日米関係の相互関係を考察することを目的とし、とりわけその相互関係を北東アジアと東南アジアを事例としてそれぞれ考察、比較を行った。2014年9月のUSJI Weekにおいて、"The Challenges of Japan-U.S. Relation in East Asian Community: Toward Northeast and Southeast Asia,"というセッションを開催し、北東アジアと東南アジアそれぞれの国際関係を考察し、東アジア共同体における日米関係の課題について報告した。

活動内容・
研究成果

 2014年9月のUSJI Week(9月8日:3:00pm-4:30pm)において、"The Challenges of Japan-U.S. Relation in East Asian Community: Toward Northeast and Southeast Asia,"というセッションを開催した。このセッションでは東アジア共同体構築における日米関係の役割を考察した。
 このセッションでは北東アジアと東南アジアそれぞれについての事例検証が行われた。日米両国はアジア太平洋、東アジア地域において影響力のある二国家であり、東アジアの政治、経済、安全保障などの領域における日米関係は極めて重要である。このことは政治的および安全保障上の緊張関係が存在する北東アジアにおいても、緊密な経済関係が維持されている東南アジアにおいても同様である。このセッションでは北東アジアと東南アジアにおける日米関係の課題と重要性を確認し、これらの考察を通じて二つの地域の課題と困難を明らかにし、その上で日米両国が如何にして東アジア共同体構築に貢献することができるのかを考察した。
 国防大学のJames Przystupがモデレーターを務め、佐藤洋一郎(立命館アジア太平洋大学)が北東アジアについて、大賀哲(九州大学)が東南アジアについての報告をそれぞれ行った。最後にカーネギー国際平和財団のJames L. Schoffが討論を行った。今年度は北東アジアと東南アジアを比較し、その上で東アジアの地域統合や地域協力を政策論的に考察するものであった。来年度以降は具体的な地域統合を見据えて、東アジアの統合政策について日米両国がどのように関与するのかといった点を検証していきたい。

関連イベント
のURL

https://www.waseda.jp/usji/week/sep2014#event9

Policy Paper

研究代表者
(所属)
大賀哲(九州大学大学院法学研究院准教授)
研究関係者
(所属)
杉田米行(大阪大学)、勝間田弘(金沢大学)、酒井英一(関西外国語大学)、大井由紀(南山大学)、樋口敏広(京都大学)
研究期間 2014年4月~2015年3月

はじめに

本研究プロジェクトでは、東アジア共同体構築における日米関係の役割を主として安全保障と経済という二つの領域から考察した。分析にあたっては北東アジアと東南アジアについてそれぞれ事例検証を行い、安全保障と経済という二つの領域における日米関係の役割を評価した。日本およびアメリカはアジア太平洋、東アジア地域において最も影響力のある国家であり、東アジアの政治、経済、安全保障などの領域における日米関係は極めて重要である。このことは政治的および安全保障上の緊張関係が存在する北東アジアにおいても、緊密な経済関係が維持されている東南アジアにおいても同様である。したがって、北東アジア、東南アジアのそれぞれにおいて日米関係がどのような役割を担い、如何なる影響を与えているのかを検証することは、東アジア共同体の課題と可能性を評価する上で重要な意義を有していると考えられる。

また、日本にとって日米関係は最も重要な二国間関係のひとつであり、同時に東アジア共同体は2000年代以降歴代政権が模索してきた外交アジェンダである。したがって、日米関係と東アジア共同体の関係を再検討することは日本の対外政策において非常に重要な領野を構成しており、その意義も大きい。とくに同課題については、政策論議や時事評論の類は蓄積されてはいるが、具体的な研究成果が包括的・体系的なかたちではいまだ構築されていないので、本研究を通じて、日米関係と基軸とした東アジア共同体についての総合的研究を行なうことの意義は極めて大きいものであると考えられる。以下、北東アジアよ東南アジアの個別事例を踏まえて、両地域における日米関係の重要性を検討していく。

 

北東アジア

近年の北東アジアは、日中関係や日韓関係の悪化に伴って政治的には緊張状態にある。竹島や尖閣諸島など、日韓間および日中間での領土紛争も未解決である。また北朝鮮の核開発や対外的な示威行動も地域の安定性を損なっていると考えられる。

こうした北東アジア情勢において、とりわけ政治および安全保障の領域において、日米関係は地域の安定性を維持するための重要や役割を担っている。ポスト冷戦期の北東アジアにおける安全保障環境の変化にはいくつかの要因が挙げられる。冷戦構造の崩壊以降、アメリカは日本により積極的な役割を求めるようになってきている。しかしながら、憲法上の制約もあることから、当面は非軍事的部門での協力関係が考えられる。また人間の安全保障など非伝統的安全保障分野の拡大といった要因もポスト冷戦期のひとつの特徴である。日米両国は東日本大震災における人道的支援や民軍協力など幅広い分野での協力が見られることから、非伝統的安全保障分野での協力が現実的な選択肢であると考えられる。

北朝鮮などの半島情勢は一層緊迫化している。北朝鮮は核開発について譲歩することなく対話を求めている。韓国は日中関係が悪化する中で、領土紛争や歴史認識問題では日本に対して強硬な姿勢を維持しているが、対北朝鮮の関係では日米と歩調を合わせている。北朝鮮などの半島情勢については安定的な日米韓関係が必要不可欠である。

他方で、中国は海軍力を近代化するなど、日米同盟へ対抗する構えを見せ始めている。中国は、在日米軍によって日本の再軍備を阻止するという「ビンの蓋」論ではなく、むしろ日米による集団的封じ込めへの懸念を大きくしている。台湾海峡の問題も地域の不安定要因となる可能性があり、地域の安全保障における日米関係の重要性は高まっていると言える。また尖閣諸島の問題もいまだ未解決の問題である。しかし、アメリカは2012年と13年のCRS(米議会調査局)の報告書において、尖閣諸島の領有権に関しては中立の立場を堅持すると表明していることから、尖閣諸島と東シナ海の情勢については日米同盟の役割は限定的なものに留まっていると考えられる。

さらにモンゴルは従来の中国とロシアとの二国間関係に加えて、日本との「第三の隣国」関係を発展させようとしている。重要な隣国である中国とロシアとのバランスの取れた外交関係を展開しながら,両国に過度に依存することなく「第三の隣国」との関係を発展させることに注力している。また日本からの経済支援も重要である。ロシアも同様に、東アジアにおける多国間のバランスのとれた勢力均衡秩序を望んでおり、また日本との良好な経済的関係を維持するようにつとめている。

以上のことから、日米関係は朝鮮半島情勢や対北朝鮮との関係では有効な役割を担っていると言えるが、日中韓の政治的緊張や領土紛争については、アメリカの役割は限定的であり、日中韓の政治的緊張が将来の地域の安定を損なう恐れがある。しかし、より包括的に、安全保障だけではなく経済的な関係から東アジア情勢を俯瞰すれば、良好な日米関係が地域の安定に寄与する側面は大きい。

 

東南アジア

東南アジアに目を向けると、国際関係はより穏やかである。日米両国共にASEAN諸国に対しては緊密な関係を保っている。交渉や経済的な利害調整に困難はあるものの、TPPは日米とASEAN諸国の経済関係を強化するものと考えられる。日米はARFや東アジアサミットを通じてASEANとの関係を強化し、地域においてより大きな経済的な役割を果たそうとしている。

ASEANを含めた東アジア全体を俯瞰してみると、現在この地域には3つの地域主義が並立していることがわかる―東アジア、アジア太平洋、拡大東アジアである(拡大東アジアとは、ASEANを中心に東アジア諸国が加盟国となっているが域外国の加盟も妨げないという地域主義のあり方である)。東アジアレベルではASEAN、ASEAN+3、AFTA、EAFTAなど、アジア太平洋レベルではAPECやTPP、FTAAPなど、さらに拡大東アジアレベルではARF、東アジアサミット(EAS)、CEPEAなどの地域主義が存在している。東アジア、アジア太平洋、拡大東アジアなど多様なレベルの地域主義が重層的に絡み合っているのである。

ASEAN内部に目を向けると、グローバルな規範と地域的な規範との対立・齟齬がある。市民社会が主導する「人民中心のASEAN(people-oriented ASEAN)」という動きと、ASEANや加盟国政府が先導する「人民志向のASEAN(people-oriented ASEAN)」という枠組みが対立している。

こうした東南アジアの国際関係において日米関係はどのような働きをしているのだろうか。日本の基本的な姿勢はアメリカと東アジアのバランスを志向するということである。そのため「アジア太平洋」や「汎太平洋」という概念が生れた。その後、APECやASEAN+3を経て、小泉首相の「ASEAN+3の上に立つ東アジア共同体」という認識へと受け継がれていく。その後の東アジアサミットでは域外国を含めて共同体構築が進められていく。この間の日米関係を振り返ると、一方でアジア通貨危機以降、ASEAN+3や東アジアサミットなど東アジア地域主義に向けての動きが活発化していく。他方では日米防衛協力のための指針 (ガイドライン) 見直しや「周辺事態法」の施行など日米同盟強化の動きも具体化していく。すなわち、90年代から2000年代にかけての日本外交は、東アジア地域主義に積極的に関与しつつも、同時に日米同盟の枠組みも強化しているということになる。その意味では「『開かれた地域主義』を基礎とする東アジア共同体論」と「日米同盟を基礎とする東アジア共同体論」という二つのベクトルの間を揺れ動いていると言えよう。

日本とASEANの関係を見れば1977年の福田ドクトリンによって「心と心の触れあう信頼関係」を確認し、2002年の小泉ドクトリンでは「共に歩み共に進む」共同体を宣言した。さらに2003年の東京ドクトリンでは「躍動的で永続的な日本とASEANのパートナーシップ」を宣言。さらに2011年の日ASEAN首脳会談の後のバリ宣言では、ASEAN+3、EAS、ARFはASEAN共同体の協力を促進していく上での重要なプロセスであると規定した。

アメリカとASEANの関係では、オバマ政権の下で積極的なASEAN政策がとられている。アメリカはTACに加盟し、2009年以降には米・ASEAN Leaders Meetingを、2013年以降には米・ASEAN首脳会議を行っている。こうしたオバマ政権のアジア政策の重視はリ・バランス(rebalance)と言われている。しかしながら、リ・バランス政策にはいくつかの難点があることも事実である。第一にアメリカ的な自由民主主義とアジア的価値のような議論、更に言えば人権や民主主義といったリベラルな枠組みと社会・経済開発を重視するASEANの政策パラダイムとの間で抜本的な調整が必要とされる。第二にASEANは中国との間に多くの領土紛争を抱えており、必ずしも不安定要因も少なくはない。第三に経済面ではACFTAやRCEPなどがあり、TPPとは利害が反していること。第四に上述のような、東アジア/アジア太平洋/拡大東アジアの地域枠組みの対立が想定されることなどである。

すなわち、日・米・ASEANの関係は非常に安定しているが、民主主義や人権の分野で将来的に摩擦が起こる可能性があり注視する必要がある。また、東アジア/アジア太平洋/拡大東アジアなど重層的な地域枠組みの中で多国間関係が形成されており、地域主義の形成が国際関係に与える影響が非常に大きいということもこの地域の特徴である。

 

結語

以上を俯瞰すると、アメリカと日本の関係では「アジア太平洋地域主義」の下で日米同盟が強化されるという構図が見られる。その意味で日本の東アジア共同体論は「アメリカ化」していると言える。また日本とASEANの関係ではASEAN+3や東アジアサミットを通じた緊密な協力関係があり、「東アジア地域主義」が機能している。このコンテクストにおいては、日本や中国を取り込み、ASEAN中心型地域主義の拡大が志向されている。さらにASEANとアメリカとの関係では「拡大東アジア地域主義」の下で新しい協力関係が模索されている。リ・バランス、すなわちアメリカ外交の「アジア化」と呼ばれる現象が観察される。また、これらの枠組みには多かれ少なかれ、安全保障上のあるいは経済上の「中国の脅威」という認識があり、上述のように日米関係が機能的に役割を担える分野は限られていることもあり、アメリカ・日本・ASEAN・中国といった関係性の中で東アジアの多国間関係が形作られている。

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