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研究活動

研究プロジェクト

日米印の社会資源とビジネス発展の可能性

計画書

研究代表者
(所属)
Gautam Ray教授 (京都大学経営管理大学院)
研究関係者
(所属)
Prof. Kiyoshi Kobayashi, Prof. Michael Santoro, Rutgers Business School, USA, and Raymond Dezzani, University of Idaho, USA
研究期間 2011年4月~2012年3月
研究概要

アジアの新時代における日米印の連携とビジネス発展の可能性
 社会学、人類学、心理学、政治学、ビジネスや経済学などの分野で、社会的政治的資源の経済やビジネス機会への影響が注目されるようになっている。ここで社会的政治的な資源というのは、信頼・人的および知的なネットワーク・法の支配・教育による知識プールへのアクセス・平等性・司法機関の独立性・報道の自由、そして人権や環境問題への社会的な活動なども含まれている。
 米国は民主的な自由体制により豊富な社会的政治的な資源を発展させてきた。米国の高等教育機関は多くの人的な資本を集め、革新的な技術を創出してきた。高度な知識社会はしかし所得や富の分配、そして雇用機会における不平等も引き起こしている。
 日本は中間階層の勃興と雇用と所得分配が平等な社会が経済発展に貢献できることを示している。日本社会は企業の従業員への信頼と終身雇用によりもっとも平等な社会の一つを作り上げてきた。信頼と忠実そしてチームワークの精神が日本の企業を支えてきた。しかし日本社会は壁に突き当たっている。
 インドは12億人の多様な民族構成の人口を抱えており、人口の30%は未だ貧困のなかで生きているものの、民主的な枠組みのなかで、人的な開発が行われるかを示してきた。報道の自由、司法の独立性、公正な選挙、そして着実な中流階級の教育普及である。インドは日米の企業にとってもっとも重要なビジネスチャンスを提供出来る国となっている。
 この研究プロジェクトの目的の一つは日米のような先進国において社会的政治的な資源の衰退(erosion)が起こっているかである。我々の仮説は、先進国、特に米国において利益誘導(Pork-Barrel )型の政治を引き起こすようなシステムがあるかである。知識社会では、知識ネットワークであり、教育研究機関を通じてのアクセスが重要であるが、知識の増大そして国際化とともに知識へのアクセスは難しくなる。そこにある非対称性と経済取引の非透明性が日本と米国の社会的政治的資源の衰退を招いている可能性がある。
 これに対して、どのような対応が可能なのだろうか。政府の規制の限界が明確になるなかで、人的・知識ネットワークと国境を越えたネットワークの存在が信頼を醸成し、利益誘導型のシステムを是正できるのだろうか。知識へのアクセス改善や透明な企業ガバナンスの構築がこれに貢献できるだろうか。この研究は3つの民主主義国の間のシナジーと地政学的な連携を探るものとなる。そのための共通した社会的政治的な資源をいかに発展させるのかが大きなテーマである。

報告書

研究代表者
(所属)
Gautam Ray教授 (京都大学経営管理大学院)
研究関係者
(所属)
Prof. Kiyoshi Kobayashi, Prof. Michael Santoro, Rutgers Business School, USA, and Raymond Dezzani, University of Idaho, USA
研究期間 2011年4月~2012年3月
実績概要

 米国・インド・日本ビジネスアライアンス(USINJA)に関するワークショップが、USJI week(2012年3月5日~9日)中の2012年3月8日に、USJIの桜植林100周年祝賀の一環として、ワシントンDCのEmbassy Rowホテルにて開催された。ワークショップの目的は、これらの3つの最大の民主主義国家間の業務提携において、その予備的思考やアイデアを交換するために様々な分野から参加する専門家を対象として学術研究のためのプラットフォームを提供することであった。ワークショップの最後に開催されたパネルディスカッションは "民主主義国家におけるビジネスアライアンスの発展的役割"に関するものであった。Gautam Ray教授はワークショップやパネルディスカッションの司会を務めた。

 ワークショップは、森純一教授の就任演説から始まった。彼はワークショップの参加者にUSJIの役割を説明し、このワークショップや研究活動に参加するために来られた米国と日本の学者達に感謝を述べた。また森教授は、先進国の金融危機と世界有数の大国としての中国の台頭の余波で変化する経済や地政学的な背景を踏まえてインドの重要な役割を強調した。小林潔司教授は基調演説において、21世紀の新たな世界の知識社会における時間と空間を越えたある集団(協働)と他の集団(協働)の相互依存関係について話した。加えて、新興世界の知識社会における技術革新により複数の集団を跨いで相互に協働体制を敷くことは、独立した二つの集団の協働体制の正の外部効果を内部化するだけでなく、人間のあり方を変化させるための道具となりえると説いた。

 Gautam Ray教授はUSINJAを様々なレベルにおける国境を越えた提携として構想していると述べた。USINJAには政府関係者、産業のリーダー、公共政策立案者、学術研究者と市民社会の提携が含まれている。国境を越えた企業レベルでの提携は、それぞれの主体における代表者あるいは代理人のいずれもメディアを通じたビジネス価値創造の最適化におけるホスト国の社会的、政治的あるいは文化的資源重要な役割について十分な知識を持っていないために、決して容易には形成されていない。そしてそのような知識がなくては、各企業がホスト国や地域社会とのアライアンスを形成し、全ての利害関係者に関して効果的かつ効率的にビジネス価値の創造を持続させるのに重要な正統性資本を発達させることは困難となってしまう。彼は、正統性資本はホスト国と社会/コミュニティを含む全ての資源供給主体に対する義務と責任を提示し、そして効果的にすべての利害関係者の正当なニーズと要求を管理することにより、多国籍企業によって増大させられていくことを仮定した。
Ray教授は彼のUSINJAビジョンの実現には、これら3カ国において支配的な社会的、政治的、経済的、文化的な知識のプールを構築するための共同研究を伴うと述べた。この知識は、多国籍企業がより多様な地域の生態系を理解してホスト国とコミュニティとの提携を行い、正統性資本を開発し、全てのステークホルダーのために高い価値を創造するのに有用なものとなる。

 特別講演においては、Arvind Virmani博士がUSINJAのような戦略的業務提携によりインドの生態系に関する知識の不足を補うことができると述べた。インドの人口的優位性と教育水準の高い労働力は、R&D、エネルギー、医療など多くの分野でビジネスチャンスを開発する機会をUSINJAに提供する。彼は老年層の日本人は、寒い季節には日本を離れインドの特別養護老人ホームで質の良い医療を受け、暖かい季節のインド全土の旅行を楽しむことができるとも述べた。

 ポスト•ランチセッションは、マルチパートナービジネスアライアンスの管理についてのニューヨーク市立大学のT.K.Das教授のプレゼンテーションと共に開始された。Das教授はマルチパートナーアライアンスは非常に不確かな結果の中で社会的交流から生じる信頼と相互利益について、2つの企業間の提携以上に高い水準が求められるということを強調した。しかしながら、固有のリスクをマネジメントするのに2つの企業それぞれの有する資源だけでは不十分な場合における巨大建設プロジェクトにおいては、とりわけマルチパートナーアライアンスの成功例が散見されることについても触れた。USINJAのコンテクストでは、日本が技術とR&Dを提供し、アメリカがマーケティングネットワークと資源を提供し、インドが生産拠点を提供するというビジネス提携を実現することが可能である。そして、そのような提携を機能させられさる領域のひとつが、製薬業界におけるジェネリック医薬品部門とされる。

 Michael Santro教授は、Steve Jobsが世界中の顧客とアップル製品との間に共生関係を形成するために、仏教とヒンドゥー教の教義からそれぞれ派生した禅資本主義とカルマの資本主義とシリコンバレーの資源創造における提携をもたらした“アップル・コネクション”に言及した。彼は最近出版された伝記からSteve Jobsの言葉を引用し、彼が示した製品開発の先見の明は、インドにおける幼少期の生活への精神的探求の過程で培われる直観を、一般的なインドの人々がいかに利用するかを理解した後の直観的知識を彼自身が習得した後に形成されたと述べている。Santoro教授は、顧客と企業の間のそのような共生関係が、ヒンドゥー教の神聖な戒律にあるBhagavad Gitaという処世訓からいかに発生するかを示したケロッグビジネススクールのMohanbir S. Sawhneyの研究を引用した。さらにここから創造的なビジネス発展の機会は社会的、文化的あるいは経済的資源の3カ国間での交換により実現することを指摘した。

 Raymond Dezzani教授は、世界システムの枠組みの中で経済の相互接続性とインドのような半島国の実証分析の結果を発表した。彼はアメリカや日本などの主要国の資本蓄積は、主要国によって行われたその他の投資のリターンを増加させる半島国のインフラへの投資を通じて発生する可能性があることを主張した。若林直樹教授は産学の研究開発提携と日本のバイオの領域での国際化の可能性について話した。彼は現時点ではアメリカと日本の間にいくつかの提携関係があると言ったが、バイオテクノロジー産業におけるインドとの提携が非常に少ないことを指摘した。彼は、ジェネリック医薬品部門で、特にインドと米国との間での国際共同開発には大きな可能性があると述べた。

 T.R.Lakshmanan教授は、ワークショップの第三セッション開始にあたって、日本のハードウェア開発とインドのソフトウェア開発のように専門知識の相互補完性が存在するITなどの分野で、インドと日本のビジネスにおける協力に可能性があると述べた。同様に、医薬品とバイオテクノロジー、機械と医療機器などの知識集約型産業におけるインドと日本の協力体制の有する大きな可能性についても触れた。インドのインフラ開発における日本の協力は、Delhi Mumbai industrial Corridor project(DMIC)を通じて勢いを増しているが、インドの直面している次の二十年での巨大な都市化の課題についてもさらなる協力が求められている。彼はそのような大規模な都市化の挑戦は、地方自治体にとっても中央政府にとっても大きな課題になるという。

 William P. Anderson教授は、米国とカナダの間でのビジネスアライアンスにおける商品取引の経験を話し、USINJAはこれらの経験からいくつかの教訓を学ぶことができると主張した。特に、彼は安全保障問題をいかに米国が強調しているかについて触れ、両国間の貿易関係を落ち着かせる方法について説明した。また、彼はむしろ、彼らが自動車産業と石油・天然ガスに焦点を当てたとして、米国とカナダの業務提携のケースであったように産業分野を選択して貿易や投資をその枠内でのみ行うよりも、さらに広範な契約が必要であると話した。USINJAにも米国とカナダの間のビジネス提携に悪影響を与えた為替レートの変動の問題に対処する必要があると伝えた。

 Lata Chatterjee教授は、これらの国ではBOP市場における下層集団の発展的なニーズに対処するために高度な技術、低コスト、高効率のビジネスソリューションが必要であることを強調した。また彼女は、日本の中小企業は、インドに住んでいる人々を中心とする世界中の約40億人にも上るBOP人口のニーズに対応するために、高度な技術力と高効率な経営資源を駆使して有用な役割を果たすことができると主張した。インドと日本は、その企業自身の社会的責任を果たすべく投資を行うことについて、アメリカの経験から学ぶことができる。重本明子氏は、デリー地下鉄プロジェクトにおける日本の金融および技術面でのサポートが、それまで存在しなかったインドの交通システムの安全規格の開発をもたらしたことを説明した。

 最後のセッションは "民主主義の国におけるビジネス提携の発展的役割"に関するパネルディスカッションであった。議論は世界銀行の日本のエグゼクティブ・ディレクターである林信光氏の基調講演を追う形で進められた。林氏は、企業が直面する現実的な問題に対処し、解決策を提案するために、このプロジェクトにおける学者達の行動に期待していた。例えば、どのようにすればソニーはその高いブランド価値を損なうことなくインドの巨大市場に食い込み、サムスンなどの企業と効果的な競争を行うことができるのか?Michael Santoro教授は2つのビジネス•ソリューションが存在すると述べた。ひとつは純粋なマーケティングによる解決策であり、もうひとつはインドなどの発展途上国における消費者向け製品の価格を減らす、“柔軟なブランド保護”戦略である。Lakshmananan教授は、最終的には他国や各所得階層に配分される利益に着目し、アメリカの消費者に利用されているインドの携帯用心電図機の開発の事例を引用して、イノベーションに基づいた貧困層向け解決策に焦点を当てた。小林教授はGautam Ray教授の論文において言及されている“正統性資本”の考えにはその解決策が内包されていると述べた。これを手がかりとして、Ray教授は、ソニーが厳格かつ高価な研究開発への投資により生産された新製品を高価格で販売することは完全に正当であると付け加えた。ただし、最初の生産の1、2年後にその価格は適正なものとなり、所得制約の厳しい消費者の大半にとって手頃な価格で入手でき、それを通じて製品の市場規模が大きくなると指摘している。彼はこのことが、ソニーが利害関係者に対してより高い価値を提供し、ソニーの製品をさらに利用したいというより高い水準の願望からソニー製品の消費限界効用が所得制約の強い層にとって富裕層のそれより大きいものとなるのに有効であると述べている。Das教授は、ブランド価値についての一般的な考えに再度目を向けることの必要性を強調した。彼はソニーのブランド価値は、適切な製品開発戦略の運用を通じて、所得制約の厳しい多数の消費者にとっても手頃な価格を実現すると同時に使いやすさを向上させることで高めることができると考えている。Lata Chatterjee教授は、Lakshmanan教授のイノベーションに基づいた解決策のアプローチを精緻化し、ソニーはその一方で、脆弱なインフラを有する一方で競争の激化に巻き込まれているインドなどの発展途上国の支配的な生態系を踏まえて、製品開発戦略を再検討する必要があることを述べた。

 パネルディスカッションの第二の議題は、USINJAのような国際的なビジネス提携により、必然的に生まれるであろう人々―日本の老年層や無気力な若者、インドと米国の貧困層など―のニーズに対して何ができるかという問題であった。Lakshmananによる、この問題は唯一教育システムの改革を含むより長期の解決策を有するという指摘を踏まえて、Ray教授は、より安価で効率的な英語媒体の学校教育システムが貧困層に分類されるアメリカの子供や日本の若者のニーズに合ったサービス(ビデオ会議やウェブを通じたツール)を提供できるかということについて疑問を持っている。Chatterjee教授は、元々はアメリカのニュージャージー州の学校で単位を取得し損ねた甥のためにウェブ上の教育プログラムを作成した、メリーランド州のバングラデシュ国民のKhan Academyの例について述べた。今、この教育プログラムはグローバルになったと彼女は言った。ワークショップは2012年4月より開始されるUSJI委託研究に関する先行タスクのより明瞭な理解と共に終了した。

活動内容・
研究成果

1、戦略的ビジネスマネジメント、国際的プロジェクトマネジメント、ビジネス倫理とCSR、経済学、政治学、地理学及び学際的分野を含む様々な領域から参加した10人の学者による論文のプレゼンテーション
2、“民主主義国家におけるビジネス提携の発展的役割”についてのパネルディスカッション
3、IMFのエグゼクティブ・ディレクター(インド)のArvind Virmani博士による特別講演及び世界銀行のエグゼクティブ・ディレクター(日本)の林信光氏による基調講演。

関連イベント
のURL

https://www.waseda.jp/usji/week/mar2012#event6

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