石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 第1回から第13回までの授賞作

第1回(2001年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:阪神・淡路大震災からの復興に向けての論説、評論活動
  • 受賞者氏名:三木康弘(みきやすひろ=故人)と神戸新聞論説委員室
  • 発表媒体名:神戸新聞
  • 発表年月日(期間):1995年1月18日~現在
  • 作品概要:1995年1月17日の阪神・淡路大震災で神戸新聞社の社屋は全壊した。当時の論説委員長三木康弘氏は、自宅瓦礫の下から震災3日後に亡くなった実父が見つかるという体験をもとに翌日の社説「被災者になってわかったこと」を執筆し、被災者支援を考える大きな反響を呼んだ。以降、2001年4月29日に亡くなるまで、6年間に渡り、被災者と目線を同じくして論説、評論活動を展開し続けた。
  • 授賞理由:阪神・淡路震災に長期間にわたり正面から取り組むことによって、時間の経過と共に変化する住民のニーズを、たえず一歩先んじて示し続けた。新聞の論説として市民の視点を強く保持し続けて、市民にとっての「われわれの新聞」となっている。この言論活動により、神戸新聞が「県民と地域社会の新聞」という原点へと立ちかえり、地方紙の本来的あり方を示している。

草の根民主主義部門 大賞

  • 作品名:『島の墓標』
  • 受賞者氏名:曽根英二
  • 発表媒体名:山陽放送
  • 発表年月日(期間):2001年5月20日放送
  • 作品概要:瀬戸内海に浮かぶ緑豊かな小島、豊島(てしま=香川県)に、1980年代の始めから産業廃棄物が不法投棄されはじめた。過疎の島の住民たちは元の島を返せと中坊公平弁護士とともに立ちあがった。責任回避を続ける行政、横暴な産廃業者に対する闘いの半ばで多くの島民たちが亡くなっていった。四半世紀にわたる豊島の人々の過酷な闘いと、その意味合いを伝えるドキュメンタリーである。
  • 授賞理由:長期間に渡る取材により、住民と取材チームとの間に深い信頼感が醸成されており、住民の変化のプロセスや個々の住民の表情がよくとらえられている。住民の間での世代間の引継ぎも的確に描かれている。本州側からの問題提起がユニークであるのみならず、先見性に富んだ報道でもある。日本の社会の動き方の特色をよくとらえている。

文化貢献部門 大賞

  • 作品名:旧石器発掘ねつ造問題の一連の企画ならびに『発掘捏造』の出版
  • 受賞者氏名:毎日新聞旧石器遺跡取材班 代表 真田和義
  • 発表媒体名:毎日新聞
  • 発表年月日(期間):連載企画『検証・旧石器発掘ねつ造』は2000年11月と2001年3月の2回、計10回。『発掘捏造』は2001年6月中旬に出版
  • 作品概要:2000年11月5日、毎日新聞は東北旧石器文化研究所の副理事長が、石器を自ら埋め、発見を装っていたことをスクープした。考古学には素人の記者たちが、1本のメールから疑問を感じ、チームを組んで追跡調査を続けた結果である。これは、また、日本の学界の閉鎖性や、遺跡における日本の科学的検証の未熟さ、遺跡発掘の発表を鵜呑みにして報道してきたマスコミの問題点も追求した作品である。
  • 授賞理由:日本の歴史学の根幹を揺さぶる優れた報道活動であるのはもとより、本来、学者・学会がなさねばならなかったことをジャーナリストが果たしたという意味で、わが国の学会の問題性を端的に突いている。一通信員の得た情報が組織を動かして歴史的報道を実現した典型的な例である。単行本にまで結実する息の長い報道活動により、自らの足元を深く自省する視点を保持している。

第2回(2002年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:『21世紀 核時代 負の遺産』
  • 受賞者氏名:田城 明(たしろ あきら・54歳・中国新聞編集委員)
  • 発表媒体名:中国新聞
  • 発表年月日(期間):2001年9月16日~2002年7月7日
  • 作品概要:核兵器製造、原子力エネルギーの開発により、「核の時代」と形容された20世紀には膨大な量の放射性物質が生み出された。ヒバクシャ、汚染地域という次世代に残された「負の遺産」、その重荷にあえぐアメリカ、旧ソ連を取材し、実態を探ったルポルタージュである、本特集は中国新聞2001年9月16日号から毎週日曜日に掲載された。
  • 授賞理由:20世紀最大の負の遺産である<核>という巨大な問題について、長年にわたって蓄積された知識と経験を駆使しつつ、一人の記者が、文字通り世界中の現場を取材した成果として、この連載は大いに評価に値する。中國新聞社に所属する田城明記者という個人のジャーナリズム活動がこのような水準で結実していることは、今後のわが国のマスメディアにおけるジャーナリストの活動の新たな可能性を示すものである。

 

  • 授賞作品名:『パレスチナ 新版』並びに雑誌などへの発表
  • 受賞者氏名:広河 隆一(ひろかわ りゅういち・59歳・フォトジャーナリスト)
  • 発表媒体名:岩波新書など
  • 発表年月日(期間):2002年5月20日(岩波新書)
  • 作品概要: 『パレスチナ 新版』は、60年代後半からの長期にわたる膨大な取材によりイスラエル・パレスチナ問題をペンとカメラで伝え続けてきた著者が、イスラエル建国から現在までの両国の歴史と背景、そして自らの目で見た現状を、ユダヤ人研究やイスラエル国内の論争などを踏まえながら伝えている。
  • 授賞理由:60年代後半以来、パレスチナの地に入り取材活動を続けてきた広河隆一氏は、欧米人の視点でもなくアラブ人の視点でもない日本人としての視点からパレスチナ問題を扱って、本質を鋭くえぐり出すジャーナリスト活動を実現している。まったくの個人として長年にわたり世界各地の紛争地域に、他に先駆けて取材をすすめてきた氏の活動は賞賛に値する。雑誌への発表と並んで、近著「パレスチナ 新版」(岩波新書)の完成度は、きわめて高いものがある。

草の根民主主義部門 大賞

該当作なし

文化貢献部門 大賞

該当作なし

第3回(2003年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:「鉄路 信楽列車事故」の長期連載を中心とした鉄道の安全を考える一連の報道
  • 受賞者氏名:鈴木哲法(すずき・てつのり)
  • 発表媒体名:京都新聞
  • 発表年月日(期間):2002年7月16日~8月9日(第9章)、2003年5月1日~5月13日(エピローグ)
  • 授賞理由:事故報道は、どんな大惨事であれ、一過性のニュースで終わってしまうことがほとんどである。その「常識」を破り、事故の十年後からスタートし、三年余りの断続的連載を経て完結をみたこの記事には、同じレール上の正面衝突という信じられない鉄道事故を二度と起こしてはならない、風化させてはならないという記者の執念がにじみでている。事故直後、現場に入りレポートした者として、裁判に通い、遺族に会って、事故の全貌をこれほど実りある記録として歴史にとどめた記者魂を高く評価したい。

 

  • 授賞作品名:一連の「C型肝炎シリーズ」及びその特別番組
  • 受賞者氏名:C型肝炎取材班 代表・熱田充克(あつた・みつよし)
  • 発表媒体名:フジテレビ「ニュースJAPAN」及び特別番組
  • 発表年月日(期間):2002年10月16日、2003年6月27日
  • 授賞理由:フジテレビのC型肝炎シリーズと特別番組は、わずかに一人の医者の手に残っていた血液製剤フィブリノゲンの貴重な発見、入手とそのDNA分析によって因果関係をつきとめた。薬品類と病気の因果関係は、メーカーや厚生省当局から否定されるのが定型となっている中で、ここまで追求した取材グループの真実への意欲と取材力を高く評価したい。特に特別番組は画期的スクープとして称揚されてよい内容だが、今後も引き続き、医療問題の監視にテレビの力を発揮して欲しい。

草の根民主主義部門 大賞

該当作なし

文化貢献部門 大賞

  • 作品名:「生きる者の記録」
  • 受賞者氏名:佐藤健(故人)、生きる者の記録取材班 代表・萩尾信也(はぎお・しんや)
  • 発表媒体名:毎日新聞
  • 発表年月日(期間):2002年12月3日〜2003年1月22日
  • 授賞理由:末期ガン闘病記はとくに珍しいものではない。現役の新聞記者が自分自身の病いを題材にして同時進行ルポを書くという企画に疑問がないでもない。しかし、これが単なる感傷的な読物に終わらなかったのは、当人をサポートする取材班の客観的な視点と多くの読者からの反響と後押しであった。読者をも巻きこんで死生観について考えてみるという双方向的な紙面作りは、新聞の新しい可能性を探ったものといえる。一人の死が生へのエネルギーをも揺り動かすということでこの企画は充分に意味を持った。

草の根民主主義部門 奨励賞

  • 作品名:「ずく出して、自治―参加そして主役へ」
  • 受賞者氏名:「ずく出して、自治」取材班 代表・畑谷広治(はたや・こうじ)
  • 発表媒体名:信濃毎日新聞
  • 発表年月日(期間):2003年1月5日〜2004年6月30日
  • 授賞理由:「地方の時代」といわれながらも、逆に地域の統合と中央集権化がすすめられている。その中で、住民を主体とした、住民自治の試行錯誤がはじまっている。すでにそれは、「実験」の段階を越えて「実践」の段階になってきた。住民投票などの直接民主主義による議会政治の補完の動きなど、全国的な胎動のルポルタージュとなっている。

文化貢献部門 奨励賞

  • 作品名:「さんばと12人の仲間―親沢の人形三番叟の一年」
  • 受賞者氏名:塚田正彦(つかだ・まさひこ)
  • 発表媒体名:長野放送
  • 発表年月日(期間):2003年4月28日
  • 授賞理由:山村の解体がすすんでいる。それでも、人々は集落を維持して暮らしているところも多い。その中心に祭りが据えられ、若者たちが生活の場で伝承芸能を積極的に担っている。 先輩から後輩へと伝えられる人形遣いの伝統が、地域の解体を防ぐやわらかなコミュニケーションになっていることを納得させる。いまだ滅びざる地域のネットワークの一例である。

第4回(2004年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:日米地位協定改定キャンペーン「検証 地位協定~不平等の源流」
  • 受賞者氏名:琉球新報社地位協定取材班 代表 前泊博盛(まえどまり・ひろもり)
  • 発表媒体名:琉球新報
  • 発表年月日(期間):2004年1月1日~2004年6月30日
  • 授賞理由:沖縄国際大学への米軍ヘリコプターの墜落事故が、日米関係の不平等さを歴然とさせたが、事故発生以前から、その「源流」を追求してきたキャンペーンである。「秘無期限」と記載された日米合意の文書「地位協定の考え方」では、ほかの国に例をみないまでに、米軍の治外法権的な地位が容認されている。沖縄国際大学墜落事故での、米軍の信じがたい主権無視の行動は、この「考え方」に基づいたものだったのだ。日常の対応ばかりか、基地の撤去後をも射程に入れた、沖縄の将来を考えた好企画である。

 

  • 作品名:NHKスペシャル「東京女子医科大学病院~医療の現場で何が起きているか~」
  • 受賞者氏名:NHK「東京女子医科大学病院」取材班 代表 影山博文
    (山元修治 北川恵 落合淳 竹田頼正 山内昌彦 角文夫)
  • 発表媒体名:NHK総合テレビ
  • 発表年月日(期間):2003年6月7日、2003年11月25日
  • 授賞理由:東京女子医大病院といえば、心臓手術の権威ある医療機関として知られている。そこで、信じられない医療ミスが相次いで発生、それを隠ぺいするため記録を改ざんするという不祥事までおきた。これを契機に病院をあげて情報公開に踏み切り、NHKのカメラが初めて医療現場に入り、新設された医療安全対策室のリスクマネージャーがミスの原因究明と対策に取り組む姿を克明に追った。医療ミスが社会問題となっている時、その意義は大きい。

草の根民主主義部門 大賞

  • 作品名:「わしも‘死の海’におった~証言・被災漁船50年目の真実~」の報道
  • 受賞者氏名:「わしも‘死の海’におった~証言・被災漁船50年目の真実~」取材班 代表 大西康司(おおにし・こうじ)
  • 発表媒体名:南海放送
  • 発表年月日(期間):2004年5月29日
  • 授賞理由: これを見るまで、ビキニ環礁の水爆実験で被爆したのは、第五福竜丸だけだと思っていた。それ以外に多くのマグロ漁船が被爆したことを明かしただけでも、受賞に値する。米国から口封じの金が出ていたこと、それが乗組員には一銭も払われていなかったことまで突きとめた業績は、はかりしれない。あったことがないことになってしまうこの国の恐ろしさ。船長の妻の顔に張りついた人間不信の表情は、見る者の心をとらえてはなさない。

文化貢献部門 大賞

該当作なし

公共奉仕部門 奨励賞

  • 作品名:「断たれた正義」-なぜ職員が殺された・鹿沼事件を追う-
  • 受賞者氏名:鹿沼市職員殺害事件取材班 代表 渡辺直明(わたなべ・なおあき)
  • 発表媒体名:下野新聞
  • 発表年月日(期間):2003年8月13日〜2004年3月30日
  • 授賞理由:ジャーナリストの要件のひとつは勇気であろう。栃木県鹿沼市で起きたごみ行政をめぐる市職員殺人事件を取りあげた本連載記事には、まさしくそうした記者魂を感じさせる迫力がある。構成も事件の経緯を丹念に追いながら、被害者の仕事ぶり、人となりに光をあて、あわせて鹿沼市の政治風土にもメスを入れるという骨太で立体的なものになっている。このねばり強さと勇気をもって今後も、地域の問題に果敢に取り組んでもらいたい。

文化貢献部門 奨励賞

  • 作品名:石川テレビ放送ドキュメンタリー「奥能登 女たちの海」
  • 受賞者氏名:赤井朱美(プロデューサー兼ディレクター あかい・あけみ)
  • 発表媒体名:石川テレビ放送
  • 発表年月日(期間):2003年10月11日
  • 授賞理由:能登に生きる海女の映像は必ずしも目新しくはないが、1年間にわたる撮影を通じて、親から子へ子から孫へ受け継がれる心と技、大自然への畏敬の念、地域の絆など、海女の町に育まれた伝統的な生活文化を紹介した点が評価された。日本の原風景をみる思いがする。それはけっして過去への郷愁ではなく、これからの日本人のライフスタイルを考える上で示唆に富んだ風景である。

第5回(2005年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:「少年事件・更生と償い」シリーズ
  • 受賞者氏名:西日本新聞「少年事件・更生と償い」取材班 代表 田代俊一郎
  • 発表媒体名:西日本新聞
  • 発表年月日(期間):2004年12月~2005年7月
  • 授賞理由:この作品は、昨年六月の佐世保市でおきた十一歳の小六女児の殺人事件などについて、被害者の親たちのやり切れない心情や加害者の更生と償いという重いテーマに取り組んでいる。第一部の「僕は人を殺めた」は凶悪な事件を繰り返す少年の生活環境や少年院の贖罪教育のあり方など、問題を投げかけている。いま国会で少年法の改正論議が高まっている時だけに時宜をえたキャンペーンとして、選考委員の高い評価をえた。(小池唯夫)

 

  • 授賞作品名:「沖縄戦新聞」
  • 受賞者氏名:琉球新報「沖縄戦新聞」取材班 代表 宮城修(国吉美千代 志良堂仁 小那覇安剛 宮里努 高江洲洋子)
  • 発表媒体名:琉球新報
  • 発表年月日(期間):2004年7月~2005年9月
  • 授賞理由:ブランケット版という新聞の「型」にこだわって、これまでの新聞がもっていた常識の「型」を根こそぎくつがえして衝撃的である。狙いは、報道管制が敷かれて伝えられなかった六十年前の事実を、現在の時点で、という言葉に言い尽くされている。この紙面を見て、やられたと思った新聞社は多かったはずである。戦後六十年の節目を飾るにふさわしい記念碑的事業といってよい。信頼感が揺らぐ新聞メディアの復権を祈りながら真実を報じる姿勢に目頭が熱くなった。(佐野眞一)

草の根民主主義部門 大賞

該当作なし

文化貢献部門 大賞

  • 授賞作品名:キャンペーン企画「沈黙の森」
  • 受賞者氏名:北日本新聞「沈黙の森」取材班 代表 棚田淳一
    (朝日裕之 片桐秀夫 村上文美 谷井康彦 浜浦徹)
  • 発表媒体名:北日本新聞
  • 発表年月日(期間):2004年12月~2005年6月
  • 授賞理由:「沈黙の森」は語らぬ森、クマ、山あいの農民たちに代わって、なぜ日本の山林が荒廃し、クマが人里をうろつき、山間地の農民たちがふる里を去らねばならないのか。克明な現場検証にもとづいてジャーナリストが代弁しようと試みた意欲作である。日本の産業構造がもたらした地域社会衰退の構造が、現場からあぶり出されている。地球温暖化の森林への悪影響とケニアでの植樹運動を紹介した世界的な視点も的確である。(原剛)

草の根民主主義部門 奨励賞

  • 作品名:「ルポ諫早の叫び~よみがえれ 干潟ともやいの心」
  • 受賞者氏名:永尾俊彦
  • 発表媒体名:岩波書店
  • 発表年月日(期間):2005年6月
  • 授賞理由:戦後の食糧難の時代に計画された「大干拓計画」が、コメ余り時代になってもまだ撤回させられていないのは、官僚とゼネコンと御用学者による「土木一家」の利益のためである。著者は97年4月の「ギロチン」落下以来、八年間、この「世紀の愚考」としての自然破壊を取材し、「上からの公共事業」に対置する「下から創りあげていく公共事業」のあり方を提案している。中央からの強権の行使では解決できなくなったのは、もはや諫早ばかりではない。(鎌田慧)

第6回(2006年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:「検証 水俣病50年」シリーズ
  • 受賞者:西日本新聞「検証 水俣病50年」取材班代表 田代俊一郎
  • 発表媒体:西日本新聞
  • 発表年月日(期間):2006年1月~2006年7月
  • 授賞理由: 半世紀に及ぶジャーナリズム史上空前の水俣病公害と報道の経過を、新たな事実、隠されていた事実に基づいて批判的に検証し、国家と企業が作った病としての水俣病の構図を緻密に分析総合している。 発表ものに依存しがちだった過去の怠惰な客観報道の失敗を顧みて、独自の調査報道により、基本的人権の核心である生命と個人の尊重を、かけがえのない価値として擁護し、提唱する取材手法と編集方針は、 ジャーナリズムに求められる社会的機能とは何か、を明確に主張して共感を呼ぶ。(原剛)

 

  • 作品名:「ガーダ -パレスチナの詩-」
  • 受賞者:古居みずえ
  • 発表媒体名:全国の劇場にて公開
  • 発表年月日(期間):2006年5月~現在公開中
  • 授賞理由: はじめてのドキュメンタリー映画の応募であり、受賞である。その鮮烈な主張が、早稲田ジャーナリズム大賞にふさわしいかどうか、との意見もあったが、すぐれた作品としての評価では一致した。 ガザ地区に住むパレスチナ人の女性を主人公にして、インティファーダ(民衆蜂起)の場面もふくめて、イスラエル軍に包囲されているひとびとの日常生活が濃密に描かれている。 平和を希む女たちの想いが強くにじんでいて、すでに古典的な作品といえる。(鎌田慧)

草の根民主主義部門 大賞

  • 受賞作品名:連載「地方発 憲法を考える」
  • 受賞者氏名:熊本日日新聞「地方発 憲法を考える」取材班代表 山口和也
  • 発表媒体名:熊本日日新聞
  • 発表年月日(期間):2004年12月~2006年5月
  • 授賞理由: 熊本は西部方面隊の総監部が置かれる”軍都”である。その舞台にイラク復興支援の派遣命令が出た。この記事は派遣前夜の揺れ動く隊員の葛藤から始まり、憲法改正の動きが急速に進むなか、私たちの暮らしはどうなるかを「地方発」の視点で過不足なく描ききっている。”大文字”で語られることが多い憲法問題を細かい網目で掬いとったところにジャーナリストの”地熱”を感じた。人間のにおいがする大人の憲法論議がやっと現れたことを喜びたい。(佐野眞一)

文化貢献部門 大賞

該当作なし

第7回(2007年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:「偽装請負」追及キャンペーン
  • 受賞者:朝日新聞編集局特別報道チーム 代表 市川誠一
  • 発表媒体:朝日新聞および朝日新書
  • 発表年月日:2006年7月~継続中
  • 授賞理由: 『偽装請負』は、日本の経済界を代表する大企業の違法な雇用関係を告発している。この問題を放置することは、労使関係の基盤を揺るがせ、経済格差を拡げ、 ひいては日本の社会構造の根底に係わってくると思う。新聞社の経営は、購読料だけではなく、広告収入が大きな割合を占める。その広告主である企業を具体的 に名指し、経団連会長を務める社長の個人名までも出している。非常に勇気ある記事であり、本である。(ゲプハルト・ヒールシャー)
  • 受賞コメント: 調査報道の専門部署として昨春、朝日新聞編集局内に設けられた特別報道チームが最初に力を注いだのが「偽装請負」追及キャンペーンでした。それだけに今回 の受賞は喜びもひとしおです。理不尽な格差の象徴である偽装請負の実態を明らかにすることで、若年労働者らの未来を開きたい。そう考えてこの報道に取り組みました。

草の根民主主義部門 大賞

  • 作品名:『鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反「でっちあげ事件」をめぐるスクープと一連のキャンペーン』
  • 受賞者:朝日新聞鹿児島総局 代表 梶山天
  • 発表媒体:朝日新聞
  • 発表年月日:2006年1月~継続中
  • 授賞理由:過去にいくつかの冤罪事件が明るみに出たが、これほどまで克明に警察による「でっち上げ」の手口を洗いだした報道はなかった。 警察発表のコピー報道が横行する中で、若い記者たちは地域住民の「冤罪」の叫びに耳を傾け、良心的な警察官を説得して内部資料を入手し、長期にわたる困難 な取材に耐え抜いた。事件を疑問視する一連の『朝日』の記事がなければ、警察・検察の調書を鵜呑みにしがちな裁判所の無罪判決はなかっただろう。(竹内謙)
  • 受賞コメント: 中央から遠く離れた鹿児島で若い記者を中心とした私たちが、警察権力の暴走と対峙し、必死に続けてきた報道を認めていただき、心からうれしく思います。私 たちの報道は、事件をでっち上げた県警の内情を話してくれた捜査当局の協力者や無罪を勝ち取った元被告、取り調べを受けた方々、その他多くの方々に支えら れてきました。みなさんに深くお礼を申し上げます。

文化貢献部門 大賞

  • 作品名:ふるさとの海 ~水崎秀子にとっての祖国にっぽん~
  • 受賞者:RKB毎日放送報道部 代表 竹下通人
  • 発表媒体:RKB毎日放送
  • 発表年月日:2007年5月
  • 授賞理由:中国残留孤児の問題を描いて出色の作品が誕生した。中国人密入国ブローカーを粘り強く追跡した点も評価できるし、厚労省の事なかれ主義を声高でなく告発しているところにも、却って静かな怒りがこめられていて説得力があった。この種の作品は主人公の表情もさることながら、脇役や風景が決め手になるが、そのお手本のような丁寧な作りとなっている。この問題の枠を大きく広げた秀逸なドキュメンタリーとして受賞を強く推した。(佐野眞一)
  • 受賞コメント:戦後60年以上が経過した現在でも中国に残留したまま何らかの理由で帰国できない日本人が存在します。しかしそうした中国残留日本人は時間とともに忘れさられる存在でもあります。この番組が評価され、一人でも多くの方がこの問題に関心を寄せることで、一人でも多くの中国残留日本人が祖国の土を踏むことができることを願います。

公共奉仕部門 奨励賞

  • 作品名:検証「同和行政」報道
  • 受賞者:毎日放送「同和行政問題」取材班 代表 東田尚巳
  • 発表媒体:毎日放送
  • 発表年月日:2005年12月~継続中
  • 授賞理由:同和問題は東京などの感覚とは違って、関西では日常生活での関心が深いのに、メディアも含め目を逸らせ、関わりたくたくないとしてきた。その関西の地元局が大阪・京都・奈良の同和行政と解放同盟の関係にメスを入れたことは高く評価される。奈良市職員の病休のスクープなどは全国的に強い関心を集めた。
    しかし今回の調査報道は根底の差別解消の出発点にすぎない。人種差別など広い視野での今後の報道の継続に期待する。(岡村黎明)
  • 受賞コメント:私どもの「同和行政」検証報道を高く評価していただき、誠にありがとうございます。行政の「弱腰」によって歪められた同和行政の問題点を指摘し続けた活動が、受賞の対象となったことは、今後の取材活動への大きな励みになるものと思います。
    最後に、取材に協力していただいた多くの方々に、この場をかりてお礼申し上げます。

草の根民主主義部門 奨励賞

  • 作品名:連載「お産SOS-東北の現場から」
  • 受賞者:河北新報社「お産SOS」取材班 代表 練生川雅志
  • 発表媒体:河北新報
  • 発表年月日:2007年1月14日~6月26日
  • 授賞理由:今もっとも身近で緊急を要するお産をめぐる問題、妊婦があちこちの病院をたらいまわしにされ、失われずにすむ子供の命が失われる。産婦人科の医師不足は全国で、特に東北では深刻だ。
    しわ寄せは、残された医師の不眠不休の働きを強制する。
    そんな無理はいつかは崩壊する。助産婦の役割も制限され、少子化対策をうたう国の施策が足許から崩れていく現実を一つ一つの実例を細かく追い、それでも光を見つけ解決策につなげる姿勢に共感した。(下重暁子)
  • 受賞コメント:「お産SOS」は東北の産科医療現場から発せられる切実な訴えです。医師不足の加速で負担が増大する医療者。産む場が狭まり、不安を募らせる妊婦。危機的な状況は深刻さを増しています。打開への第一歩は、より多くの人に実態を伝えることにあります。これからも丹念にSOSのは発信元をたどりたいと思います。

第8回(2008年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:連載「新聞と戦争」
  • 受賞者:朝日新聞 「新聞と戦争」取材班 キャップ 藤森研
  • 発表媒体:朝日新聞
  • 発表年月日:2007年4月2日~2008年3月30日
  • 授賞理由:かつて日本が戦争にむかったとき、新聞がなにをしたのか、なにをしなかったか、それへの痛烈な自省がおなじ過ちを防ぐ、との記者と読者の想いが一致した連載記事である。先輩の仕事を検証し、過去を剔抉しようとする真摯さが行間に滲んでいて、「なにをいまさら」との批判を封じた。いざとなったら命を懸けて戦 争に反対する、との戦前の「大覚悟」は不発に終わっている。いますでに、各社が「筆を揃え」て戦争を食い止めるような状況にもない。過ちの記憶を引き出し 点検するこの作業を、「最初にして最後」の禊ぎとせず、日常の「小覚悟」と強靱な歴史意識によって、私たちは書き続けるしかない。(鎌田慧)
  • 受賞コメント:新聞はかつて、なぜ戦争に加担してしまったのか。それを検証する中で、「あの時代、仕方がなかった」という安易な結論に逃げ込む誘惑といつも闘いました。 「仕方なかった」と思考停止した瞬間に、自省の緊張は失われます。
    いや当時も「別の道」はあったのだ。そう確信させてくれるのは、植民地放棄を敢然と主張していた石橋湛山の偉大な存在でした。連載にも書かせてもらいました。その名を冠した賞をいただけることは、私たちにとって光栄なことです。有り難うございました。

草の根民主主義部門 大賞

  • 作品名:「やねだん~人口300人、ボーナスが出る集落~」
  • 受賞者:南日本放送 「やねだん」取材班 代表 山縣由美子
  • 発表媒体:南日本放送
  • 発表年月日:2008年5月29日(木)
  • 授賞理由:「明るい」「痛快だ」「お年寄りをはじめ、300人の皆さんが見えてくる」・・・審査員の大多数の口から自然な声がほとばしりでてきた。10年間の継続取材の成果だろう。
    欧米で常識の「草の根民主主義」。日本では国や行政への要求自治、予算獲得が当たり前。それを逆手にとった自分たちの力、ビジネス感覚は立派。
    いま”民放”に対する社会の目は厳しい。「やねだん」の受賞は在京キー局などへの、強い批判の裏返しでもある。(岡村黎明)
  • 受賞コメント:私たちローカル局の使命……それは、地方の小さな取り組みの中に大きな可能性を見つけ、それをより多くの人に紹介することです。進む過疎・高齢化を自分 たちの知恵と工夫、そして地域の力で吹き飛ばそうというやねだんの取材がまさにそれでした。10年にわたるローカルニュースの積み重ねが評価され喜びにたえません。

文化貢献部門 大賞

  • 作品名:探検ロマン世界遺産スペシャル「記憶の遺産~アウシュビッツ・ヒロシマからのメッセージ~」
  • 受賞者:日本放送協会「探検ロマン世界遺産」取材班 代表 寺井友秀
  • 発表媒体:日本放送協会 探検ロマン世界遺産スペシャル
  • 発表年月日:2008年3月29日
  • 授賞理由: 石橋湛山賞にふさわしい大きな構えをもった作品である。アウシュビッツの収容所から奇跡的に逃れたポーランド人と、ヒロシマで被爆した韓国人の目を通し て、二十世紀が残した「負の世界遺産」を描いた力業は、見るものを圧倒せずにはおかない。この作品を貫いているのは、記憶と記録の関係である。人間は、記 録されたものでしか記憶できない不確かで、危険な動物である。それを静かに訴えたこのドキュメンタリーは、激賞に値する。(佐野眞一)
  • 受賞コメント: 現在878件ある世界遺産は、輝かしい文明が生み出したものだけではありません。アウシュビッツ強制収容所と広島原爆ドームという人類の「負の歴史」を物 語る二つの世界遺産を舞台に、「悲劇を記憶し後世に伝えることの意味」を真摯に問うたこの番組が、高い評価をいただいたことは、スタッフ全員にとって至上の喜びです。

受賞作品詳細(第9回)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:長編ドキュメンタリー映画「沈黙を破る」
  • 受賞者:土井敏邦(ジャーナリスト)
  • 発表媒体:東京ポレポレ東中野ほか全国各地の劇場
  • 発表年月日:2009年5月2日~
  • 授賞理由: イスラエル兵士としてパレスチナの民衆に攻撃を加えていた若者たちの、内省する声が全編を覆っている。自分たちは「占領マシン」だった、相手を人間としてみられなくなっていた、という事実を突き出して行かない限り、社会生活を送れない、との苦悩から、自分たちは一体何をしたのか、と沈黙を破って証言し始める。病んでいるイスラエル社会の内部告発が苦悩の表情とともに語られている。そこに希望がほの見える。ベトナムやイラクの米兵にも共通する問題として支持された。(鎌田慧)
  • 受賞コメント: 30年近くライフ・ワークとして追ってきた「パレスチナ・イスラエル問題」と、もう1つのテーマ「日本の加害歴史」との接点を、この映画の制作と、同名の拙著の執筆を通して、私の中にやっと見出した気がしています。イスラエル軍将兵の心理を伝えることで、旧日本軍将兵にも通じる普遍的な“加害者の心理”を描写したいと願った作品です。受賞は、私のその思いを受け止めていただいた結果なのだろうと解釈しています。そこが、私にとって最高の喜びです。

 

  • 作品名:①「在日米軍基地の意味を問う」一連の記事 ②「在日米軍最前線~軍事列島日本~」
  • 受賞者:東奥日報社 社会部付編集委員 斉藤 光政
  • 発表媒体:①東奥日報 ②単行本(出版:新人物往来社)
  • 発表年月日:①2008年7月20日~2009年6月1日 ②2008年9月10日
  • 授賞理由: 在日米軍の再編が知らぬ間に急速に進み、「テロとの戦い」とやらの最前線化、攻撃拠点化している──三沢基地の地元紙が取材・報告する力作、問題作だ。草の根から出発しながら、地元の狭い視野ではなく、アメリカ側、北朝鮮側など客観的な目で、Xバンドレーダー、総合戦術ステーションなど核心にふれる取材だ。政権交代後の民主新政権に大きな示唆を与えよう。書籍は元々記事の収載であり、記事に一本化したものとして評価する。 (岡村黎明)
  • 受賞コメント:日米の軍事融合。在日米軍再編の実態はこの一言で表されるのではないか。その本当の姿=問題点を読者に知ってもらいたい一心で、国内外をかけずり回り、一つずつ記事として積み上げていった。その結果を評価してもらえるのは大変うれしい。取材過程で、国内初の「基地出入り禁止」という代償を支払ったが、十分おつりがくる。

文化貢献部門 大賞

  • 作品名:写真集「ロマンティック・リハビリテーション」
  • 受賞者:大西 成明(写真家)
  • 発表媒体:単行本(出版:ランダムハウス講談社)
  • 発表年月日:2008年6月25日
  • 授賞理由: 生と死の間にあって限りなく生に向う力、健康と病の間を揺れながら、少しでも健康であろうと願う力。自らをいやし、新たな自分を作り上げるリハビリテーションは、人間の夢みる力の集結である。赤裸々に写されたリハビリの過程,アップで表現された一人一人の表情が眩しい。そこに添えられた言葉の重み……。高齢社会で医療費が削られる昨今、この写真集に力付けられる。生命や医療ととり組んだ人ならではの「ロマンティック・リハビリテーション」という視線が優しい。(下重暁子)
  • 受賞コメント:「リハビリテーション」というと、単調で暗くひたすら忍耐が必要な機能回復訓練だと思われがちです。しかしその逆境を前向きにとらえ、「夢見る力」が切り開いて行く「ロマンティックなリハビリ」を懸命に生きている人がいます。20のリハビリ群像をフォトドキュメントすることで、この時代の「希望と再生の姿」を見つめたいと思いました。母校が主催する栄誉ある賞をいただき、感慨ひとしおです。

第10回(2010年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:NHKスペシャル「日本海軍 400時間の証言」全3回
  • 受賞者:日本放送協会 大型企画開発センター チーフ・プロデューサー NHKスペシャル「日本海軍 400時間の証言」取材班 藤木達弘
  • 発表媒体:NHK総合テレビ
  • 発表年月日:2009年8月9日・10日・11日
  • 受賞理由:日本海軍の頭脳部というべき軍令部の元幹部たちが戦後集まって“反省会”を開いていた。その400時間におよぶ貴重な録音テープから、あの無謀な戦争はなぜ引き起こされたかを問いかける。そこから浮かび上がってくるのは、組織を守ることで個人の責任を免れようとする日本人の卑怯さと怯儒さである。それは日本海軍の病理というだけでなく、いまの日本に生きる私たちの病理でもある。繰り返し語られる「やましき沈黙」というキーワードは、あの戦争をひき起こしながら、何ら反省しない旧日本海軍軍人の自己保身と組織防衛の姿勢を批判しているだけではない。それは、前代未聞の不祥事を引き起こした大阪地検特捜部の腐敗を検証する視点にも通じる。「これは決して過去の戦争を告発するために作ったものではありません。」静かにそう語る司会進行役のナレーションは、視聴者に消費されるために作られたとしか思えないテレビ番組ばかりが横行する中で、圧倒的な存在感で“底光り”している。(佐野眞一)
  • 受賞コメント:開戦と敗戦の責任に迫りたいと、私たちは400時間のテープを聞き続けました。その結果見えてきたのは、今の日本社会にも通じる「組織」の罪、「官僚主義」とその無責任体質でした。ですから、公共奉仕部門が「日本の社会におけるあらゆる官僚主義を排するという明確な視点と問題意識」を対象とした作品に与えられるという点は、私どもにとってこの上のない喜びであり励みとなります。ありがとうございました。

草の根民主主義部門 大賞

  • 作品名:「境界を生きる」~性別をめぐり苦しむ子どもたちを考えるキャンペーン
  • 受賞者:毎日新聞社 生活報道部「境界を生きる」取材班 丹野恒一
  • 発表媒体:毎日新聞
  • 発表年月日:2009年9月28日から現在まで(継続中)
  • 受賞理由:「性同一性障害」。特例法が制定された成人と違って、18才未満は忘れ去られたまま。さらに出生後、身体上男女の別がきまらない境界線上にいる子供たち。いわゆる「性分化疾患」。さまざまな周囲の偏見と、自分自身の内面の苦悩をかかえたまま、生長する子供たち。いままでマスメディアで取上げられることの少なかった根源的な問題に取り組み、一人一人の事例によりそい、ルポを重ねるまなざしが、優しい。そこには、男か女かと二分することではなく、まず人間であることこそ大切ではないかという問いかけがある。あらゆる区別や差別を超越することは困難だが、それを乗りこえて人間性をとりもどすために、私たちは戦わねばならない。(下重暁子)
  • 受賞コメント:僕は男。私は女。自分の性別とは多くの人にとって何の疑いも持たない大切なアイデンティティー。でもその境界に生まれてきた子どもたちの言葉にできない苦しみを、取材を通して知らされました。身に余る賞をいただきましたが、受賞を機に性分化疾患や子どもの性同一性障害に光が当たることを願います。そして、勇気を出して取材に協力してくださった方々のためにも、当事者や家族が生きやすい社会を目指して今後も報道を続けたいと思います。

文化貢献部門 大賞

  • 作品名:単行本「ヤノマミ」
  • 受賞者:日本放送協会 報道局 社会番組部 ディレクター 国分拓
  • 発表媒体:日本放送出版協会
  • 発表年月日:2010年3月20日
  • 受賞理由:現代の「文明」とはどういう意味を持つのか。環境問題が深刻になり、エコが問われるいまの時代に根源的な問いをつきつける作品である。アマゾンの最深部に1万年以上も独自の文化、風習を守り、20世紀に入ってから始めてわれわれの社会と接触したヤノマミの人々の生活の中に同居する実体験の迫力である。取材は150日、連続したものではなく、3回にわたったものだが、体調をすっかり崩し、限界まで努力したことがわかる。同行のカメラマンが、彼らの生活の中に溶けこむ上ではたした役割も大きい。
    書籍と映像がマッチして訴求力を高めている。アハフーの声が聞えてくる。(岡村黎明)
  • 受賞コメント:分からないものを書いていいのか。本書を書いていて、いつも引っかかっていたのは、そのことでした。それでも、書きたい、書くしかないと思ったのは「ヤノマミは僕自身でもある」と、あの深い森の中で、直感的に思わされたからです。果たして、それは正しかったのか。正直言うと、今も分からないままです。分からないことを書いた罪を背負う覚悟はできていますが、ジャーナリストという自覚を持ったことのない自分が、ジャーナリストという冠のついた賞を頂いたことだけは、今後とも、重く受け止めていきたいと思っています。

公共奉仕部門 奨励賞

  • 作品名:NNNドキュメント2009「法服の枷~沈黙を破った裁判官たち~」
  • 受賞者:中京テレビ放送 報道部 ディレクター 笠井千晶
  • 発表媒体:NNN(Nippon News Network)
  • 発表年月日:2009年9月13日
  • 受賞理由:裁判官の世界ほど、国民に閉ざされているものはない。法服で包まれた世界が、司法界の密室性と桎梏を象徴している。それをようやく内側から破った、勇気あるドキュメンタリーである。
    裁判官は憲法第76条3項に定められているように、「良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」はずであるが、もっとも官僚的な世界であって、国家権力の上意下達の意志に拘束されている。それが日本の民主主義の現状である。
    2008年4月、名古屋地裁がイラク戦場への「自衛隊派兵は違憲」との、実に35年ぶりの歴史的な憲法判断を下した。それに触発されて制作した地域のディレクターの問題意識と番組に登場した元裁判官たちの勇気は顕彰に価する。
    主人公は、北海道で提訴された「ナイキ基地建設反対訴訟」で、「自衛隊は武力」であって、憲法違反と明言して住民の訴えを支持した福島重雄元裁判長である。その後、彼は地方の家庭裁判所をまわって退官という半生だった。その鉄拳制裁は政府が任命する、最高裁長官を頂点とした、日本の司法官僚の裁判官に対する見せしめだった。
    それでも裁判官の良心と独立の精神は、35年たって、名古屋地裁の裁判長によってようやく復活させられた。憲法は組織のなかで、個人の良心的抵抗によってこそ守られる。課題は最高裁人事制度の改革である。(鎌田慧)
  • 受賞コメント:裁判員制度によって、司法と市民の新たな関わりが生まれた今、これまでになく裁判所のあり方が問われています。だからこそ「職業裁判官の良心とは何か?」を問い続け、裁判所組織の内部について語り始めた元裁判官たちの言葉には重みがあるのではないかと、取材に取り組みました。その結果を評価して頂き、大変嬉しく思います。

第11回(2011年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 作品名:ETV特集「ネットワークで作る放射能汚染地図 福島原発事故から2か月」
  • 受賞者:ETV特集「ネットワークで作る放射能汚染地図 福島原発事故から2か月」取材班
  • 代表 日本放送協会 制作局 文化・福祉番組部 チーフ・プロデューサー 増田秀樹
  • 発表媒体:NHK Eテレ
  • 発表年月日:2011年5月15日
  • 受賞理由:原発事故は人間を試す。多くのメディアは最も重要な時期の報道で、ジャーナリズムへの期待を損ない、東電と政府の言い分を追認し続けた。会見の情報に頼り、人々の被曝を広めることに手を貸してしまった。少数の例外はあるが、メディアの責任は大きい。そうした先陣を切っていたNHKの中で、良心の番組が現れ、人々に衝撃を与えた。それはジャーナリズムがまだ死んでいないことを示す証でもあった。
    この番組は、東電・国に、情報を開示させるきっかけにもなったと思う。本賞の大賞にふさわしい番組と言える。同時にもし局内の流れが淀んでいなければ、NHKニュースは、この取材で次々と発見される汚染の実態を報道し、もっと多くの人々を被曝から救ったのではないかとも思う。次はメディア自己検証の優れた番組を期待したい。(広河隆一)
  • 受賞コメント:このたびは栄えある賞にご選出いただき、まことにありがとございます。
    東日本大震災という歴史的な年にこのような賞をいただき、身の引き締まる思いであり、感慨無量でございます。その意味をあらためて胸に刻み、事実を正確に国民に伝えることに今後とも努力してまいりたいと思います。

 

  • 作品名:「大阪地検特捜部の主任検事による押収資料改ざん事件」の特報および関連報道
  • 受賞者:朝日新聞 大阪本社社会部・東京本社社会部 改ざん事件取材班 板橋洋佳
  • 発表媒体:朝日新聞
  • 発表年月日:2010年9月21日朝刊など
  • 受賞理由:さすがの検察庁も、「検察の理念」をあらたに掲げて発表するほどに、最近でも「足利事件」や「布川事件」など、冤罪事件の再審無罪がつづいている。ただ、これらは過去の不祥事としてあつかわれ、検察官捜査の根本的な改革には至っていない。
    そのなかでも、厚生労働省のエリート局長が狙われた、「郵便不正事件」捜索のプロセスのなかで、「証拠が改竄されていた」と暴露した調査報道は、検察官の人権無視の頽廃を暴いた、大スクープだった。ジャーナリズムでの権力批判の記事として、画期的である。 この報道は、すでに「新聞協会賞」を受賞しているのだが、ジャーナリスト魂を顕彰する石橋湛山記念ジャーナリスト大賞にふさわしい、との判断によって積極的に授賞作とした。
    権力の横暴を監視し報道することは、市民にとっての権利意識の向上につながり、証拠開示や取り調べの可視化にも道をひらく。市民の権利拡大に貢献する報道として、貴重である。(鎌田慧)
  • 受賞コメント:特捜部の捜査に問題はなかったのか――。検察を揺るがすことになる報道は、郵便不正事件で無実を訴えた厚生労働省元局長の公判取材で抱いた素朴な疑問がきっかけでした。事実を積み重ねる調査報道が実を結んだと受け止めています。今回の受賞を励みに、「権力への監視」というジャーナリズム本来の役割を果たせるよう、努力していきたいと思っています。

草の根民主主義部門 大賞

  • 作品名:報道特別番組「英霊か犬死か~沖縄靖国裁判の行方~」
  • 受賞者:琉球朝日放送 報道制作局 報道制作部 ディレクター 三上智恵
  • 発表媒体:琉球朝日放送
  • 発表年月日:2011年3月31日
  • 受賞理由:軍人、軍属として国に命を捧げた人々が“英霊”として祀られる靖国神社に、沖縄戦で死んだ一般住民約6万人がともに祀られている事実はほとんど知られていない。それを知らしめたことだけでも、このドキュメントの功績は大きい。沖縄の住民にとって加害者である日本人兵士と並んで“軍神”となり、太平洋戦争をともに戦った“英霊”とされるのは、はかりしれない苦痛である。
    “皇軍”のなれの果ての実態を知ってしまった沖縄戦の遺族たちから、肉親の名前を霊璽簿記から外してほしいという訴えの裁判が始まった。番組では、日本兵によって壕を追い出された母親が、日本軍に壕を提供した“軍属”として靖国に祀られ、スパイと見なされて日本軍に虐殺された住民が、日本軍の秘密を守るため自ら命を差し出したと解釈されて、軍人恩給に相当する援護年金を支給するなどの驚くべき欺瞞行為が、当事者たちの証言で洗いざらい暴露された。これは沖縄のテレビ局でなければ作れない執念のドキュメントである。(佐野眞一)
  • 受賞コメント:沖縄戦で死んだ民間人6万人余が「英霊」として靖国神社に祭られている。なぜ肉親が「戦闘協力者」なのか。削除を求め裁判を起こした遺族らは肉親の死を敢えて「犬死」と突き放し、再び先祖の地を差し出し、命を差し出す沖縄になってはいけないと叫んだ。勝訴せずとも、彼らの覚悟が何かを動かすということをこの受賞が証明してくれたと感激している。

文化貢献部門 奨励賞

  • 作品名:ドキュメンタリー映画「ミツバチの羽音と地球の回転」
  • 受賞者:映画監督 鎌仲ひとみ
  • 発表媒体:渋谷ユーロスペース他劇場と全国約400ヶ所の自主上映
  • 発表年月日:2010年5月1日~現在
  • 受賞理由:一貫して原発建設に反対してきた祝島のおばさんたちの顏がまぶしい。自分たちの生まれた島に誇りを持ち、そこでの自然と文化を守るための戦いだ。美しい海で海藻や鯛をとり、無農薬のびわを作る地に足のついた戦いは折れることがない。島に住みついた若者がそれを支える。
    スウェーデンでの詳しい取り組みの紹介よりも、一人ひとりのおばさんの声をもっとききたかった。
    このドキュメントが3.11より以前に作られていることに意義がある。その先見性を高く評価すると共に、もしこの映画が、3.11以後に作られていたらどう展開したかを知りたくなった。(下重暁子)
  • 受賞コメント:栄誉ある賞をいただき感激です。29年にもわたり美しい海とふるさとを守りたいと上関原発に反対し続けていらした祝島の方々の取り組みと映画へのご協力があったからこその受賞だと受け止めています。国策や大きなプロパガンダに屈しないその反骨の精神をこそ大切にしていきたいと、スタッフ一同この賞を励みにしていきたいと思います。

第12回(2012年度)

公共奉仕部門 大賞

  • 受賞者氏名:「プロメテウスの罠」 取材チーム 代表 朝日新聞東京本社報道局特別報道部次長 宮﨑知己
  • 受賞作品名:連載「プロメテウスの罠」
  • 発表媒体名:朝日新聞
  • 発表年月日(期間):2011年10月3日~継続中
  • 受賞理由:個性的な記者たちの連作として、連載中から評判の高い企画であった。「客観報道の罠」を脱し、自分でテーマを決めた、独自な視点からの取材対象への果敢なアプローチは、調査報道の奥行きを深めさせた。
    最近冷たくなった新聞記事を、人間的な記事に復権させ、報道の可能性をひらき、原発報道を豊かなものにした。この記事が社内、社外記者に与えた影響と読者に原発への批判の視点を与えた功績は大きい。
    公共奉仕部門の受賞作にふさわしい、優れた作品である。(鎌田慧)
  • 受賞者コメント:孤高を恐れないジャーナリストであり政治家であったと評される、石橋湛山氏の名を冠する栄えある賞をいただき、喜びにたえません。原発をどうするか、電力会社をどうするか、放射能被害の問題をどうするか、国はまったく無策です。書かなければならないことが山のようにあります。「プロメテウスの罠」はこの先もずっと続きます。

草の根民主主義部門 大賞

  • 受賞者氏名:渡辺一史
  • 受賞作品名:『北の無人駅から』
  • 発表媒体名:書籍(北海道新聞社刊)
  • 発表年月日(期間):2011年10月31日発行
  • 受賞理由:かつて大自然を求めバイクに寝袋とテントを積んで北海道内をまわった著者が、印象に残った無人駅を改めて取材して見たものは何だったか。駅前から消え失せた賑わい、ニシン漁場の夢の跡の遊郭、便利さから隔絶された限界集落、無人駅を取り巻くのは大自然に憧れる人々の甘さを打ち砕く厳しい人間ドラマだった。タンチョウは守りエゾ鹿は殺せという自然保護の矛盾、温暖化で失われつつある観光目玉の流氷、日本一の米どころに育て上げた開拓農民を裏切る米価下落、平成大合併を巡る住民たちの駆け引き。過酷な環境の中で必ずしもきれいごとでは生きられない人間の営みの現実を、十余年にわたってそれぞれの土地に幾度も足を運び人々の話を根気よく取材し掘り起したこの北からの報告は、地方に共通する難題の根源を鮮やかに摘出する。出版ジャーナリズムの面目をここにみた。(新井信)
  • 受賞者コメント:北海道には、今の日本の「地方」が抱える問題の最前線ともいえるテーマがゴロゴロしている。にもかかわらず、私も含め、北海道に住む人間が、それらと真正面から向き合うことを、これまでしなさすぎたのではないか、との自責の念が強かった。と同時に、「北海道」というローカルな地域にとことんこだわった本書が、全国的にどこまで通用するのだろうとも思っていた。このたび、「地方からの発信」をこのような形で評価していただき、心より感謝いたします。

文化貢献部門 大賞

  • 受賞者氏名:NHKプラネット九州 制作部 エグゼクティブ・ディレクター 吉崎健
  • 受賞作品名:ETV特集「花を奉る 石牟礼道子の世界」
  • 発表媒体名:NHK Eテレ
  • 発表年月日(期間):2012年2月26日
  • 受賞理由:2012年7月、政府は水俣病特別措置法に基づく被害者の救済受付をついに打ち切った。だが、近代の病、文明の病としての水俣病問題は終わったわけではない。この番組はそのことを、パーキンソン病に冒されながらも童女の「こころ」をいまなお持ち続ける石牟礼道子という作家の「からだ」で訴えている。彼女が、不知火海の美しい風景の中で育った少女時代を振り返って、「私は狐になりたかったんですが、いくらそう思っても尻尾は生えてこないんですね」と語る言葉は、比類なく美しい。近代化が日本列島にどれだけ業病の爪痕を残したか。福島原発事故が起きてしまったいま、この番組が静かに語りかけてくることの意味をもう一度考えてほしい。(佐野眞一)
  • 受賞者コメント:大変名誉な賞を頂き、ありがとうございます。まずは、取材させて頂いた水俣病の患者さん達、作家の石牟礼道子さん、そして今年6月に他界された医師の原田正純さんに感謝し、心よりお礼申し上げます。半世紀に渡り水俣病に向き合う石牟礼さんの言葉は、震災後の今、一層大きな意味を持って私達に問いかけていると思います。

草の根民主主義部門 奨励賞

  • 受賞者氏名:三陸河北新報社 石巻かほく編集局 代表 桂直之
  • 受賞作品名:連載企画「私の3.11」
  • 発表媒体名:石巻かほく
  • 発表年月日(期間):2011年6月11日~2012年3月9日
  • 受賞理由:一人ひとりの3.11の実体験を積み重ねていく圧倒的な手法。これでもかこれでもか、と100人を下らない。この記事を読む人は、誰もが「あの時私も同じだった」あるいは「あの時私は何をしていたか」と自分を重ね合せて考えるだろう。犠牲者が5700人を超える最大の被災地、石巻地方に焦点を合せ、人々の体験を証言という形で残し、地域で共有することが今後の災害の備えになるという取材者と地方に密着した石巻かほくの姿勢に、心から敬意を表したい。(下重暁子)
  • 受賞者コメント:東日本大震災の被災地は、今も未曾有の災害と向き合っています。被災者100人の克明な証言を集めた連載は津波の恐ろしさを記録するとともに、体験を風化させず、今後の備えに生かしたいという思いを込めました。受賞は、地域紙の使命として震災報道を続けることへの激励であり、復興に一歩一歩進む被災地へのエールだと受け止めています。

文化貢献部門 奨励賞

  • 受賞者氏名:「阿蘇草原再生」 取材班 代表 熊本日日新聞社 編集局地方部次長 花立剛
  • 受賞作品名:連載企画「草原が危ない」と阿蘇草原再生キャンペーン
  • 発表媒体名:熊本日日新聞
  • 発表年月日(期間):2010年10月~2012年6月
  • 受賞理由:「艸千里浜」の存在を知ったのは数十年前に学校の教科書で習った三好達治の詩、「大阿蘇」だった。達治が描いた阿蘇はゆったり広がる悠久の時間の中にあった。その阿蘇の草原は営々と続く「野焼き」によって守られてきた。しかし、近年になって一部の草原が放棄され始めた。畜産の低迷、過疎高齢化で地元の集落の担い手が不足し、草原の維持ができなくなったためだ。「草原が危ない」は、この危機克服のため若い記者たちが立ち上がった1年9カ月にわたる長期連載だ。今年の7月には阿蘇で大規模な豪雨災害が起きた。草原消滅の危機は目の前にある。「ふるさとを愛し、ふるさとの宝を守る」という記者の言葉は普遍的な意味を持つ。(後藤謙次)
  • 受賞者コメント:ふるさとの宝を守り、未来を担う子どもたちに引き継ぎたい。記者たちのそんなシンプルな思いから始めた連載企画でした。日々の暮らしの中で草原を守っている地元の人々や、ボランティアの方々のひたむきな姿を伝えたからこその受賞だと受け止めています。受賞を励みに、今後も地方の視点に立った報道を積み重ねます。

第13回(2013年度)

草の根民主主義部門 大賞

  • 受賞者氏名:「波よ鎮まれ」取材班 代表 沖縄タイムス社 特別報道チーム兼論説委員 渡辺豪
  • 受賞作品名:連載「波よ鎮まれ~尖閣への視座~」
  • 発表媒体名:沖縄タイムス
  • 発表年月日(期間):2012年11月18日~2013年7月4日
  • 受賞理由:見たくないものに目をつぶっているうちに、私たち本土の人間には、本当に前が見えなくなっているのかもしれない。そのひとつが領土問題である。沖縄の人々にとっての共生の島と海は、分断され、裏切られ、奪われてきたものだ。彼らから見える「尖閣問題」は違う姿を現す。そして今、そこに生きる人々の声をかき消し、開戦をあおる報道さえ現れ、対立の構図は激化している。翻弄される現地の人々は、沖縄が最前線となり、再び日本の「捨て石」にされる危機感を募らせる。彼らから見える日本国家の「偏狭な領土ナショナリズム」と、人々の内部に持ち込まれた亀裂をも報告する、優れたジャーナリズムの報告である。(広河隆一)
  • 受賞者コメント: 尖閣国有化以降、領土ナショナリズムをあおるメディア情報があふれ、平和的解決を求める声がバッシングを浴びる異様な世論状況を目の当たりにし、強い切迫感の中で企画を立ち上げました。国全体を一つかみで捉える「中央の視点」ではなく、日常の取材で触れることのできる「個」の権利や幸福を今後も大切に報じたいと思います。

文化貢献部門 大賞

  • 受賞者氏名:ETV特集「永山則夫100時間の告白」取材班  代表 日本放送協会 大型企画開発センター チーフ・プロデューサー 増田秀樹
  • 受賞作品名:ETV特集「永山則夫100時間の告白 ~封印された精神鑑定の真実~」
  • 発表媒体名:NHK Eテレ
  • 発表年月日(期間):2012年10月14日
  • 受賞理由:「永山則夫」はひとつの時代を刻んだ記号でもある。「貧困」「金の卵」「上京少年」「死刑制度」「永山基準」。ひとりの少年がどうして「連続殺人事件」を引き起こし、処刑されるに至ったのか。永山則夫を精神鑑定した医師が秘蔵していた録音テープに依拠して、彼が犯罪に追い込まれていった軌跡を再現した。絶望を語りながらも、永山のどこか自分をみつめている静かなモノローグは、鑑定医への信頼を表している。「永山事件」は、子どもと家庭、子どもと社会、「虐待」と「ネグレクト」を考えるためのもっとも極端な例題だが、鑑定医へのインタビューをかさねて、より重層的な構成になっている。厳罰主義が横行しているなかで、犯罪者の真実にせまり、人間的な回復を目指す姿勢が評価された。堀川恵子ディレクターは、この作品を『永山則夫-封印された鑑定記録』(岩波書店)として上梓している。(鎌田慧)
  • 受賞者コメント:この度は栄えある賞をいただき誠にありがとうございます。精神鑑定の録音テープは、少年を取り巻く人間関係の断絶、殊に現代に繋がる家族の問題を浮き彫りにしました。厳罰化が進む日本社会、犯罪へと至る心の闇に向き合う作業がおざなりにされる現実に一石を投じようと決断した石川義博医師とともに受賞を喜び、改めて今後の持続的な取り組みを決意しています。

公共奉仕部門 奨励賞

  • 受賞者氏名:朝日新聞東京本社報道局経済部 木村英昭 朝日新聞社デジタル本部デジタル委員 宮﨑知己
  • 受賞作品名:「東京電力テレビ会議記録の公開キャンペーン報道」
  • 発表媒体名:朝日新聞
  • 発表年月日(期間):2012年6月28日~継続中
  • 受賞理由:すべてを現場に投げる首脳陣、子・孫会社に頼りきった外部依存体質、バッテリーもなく運転手もいない無防備態勢~テレビ会議の映像は過酷事故に遭遇した特権企業の驚愕ぶりを臨場感、緊迫感たっぷりに伝えている。これは確かに「世界記憶遺産」に値する。それを公開しない隠蔽体質に突破口を開こうとするキャンペーンの執拗さと一定の成果を評価したい。そもそも国民と世界を震撼させる事故を起こしながら誰も責任をとらない不思議な国。真っ先に果たすべき責任は正確な情報公開だろう。テレビ会議の公開も肝心なところは伏せられたままだ。他にも東電と政府が公開すべき情報は山ほどある。これを一里塚に徹底した情報公開を迫るよう期待したい。(竹内謙)
  • 受賞者コメント:福島原発事故の検証に不可欠な最重要資料は隠され続けました。公開を拒む東電の姿勢を転じさせたのは報道の力でした。報道で得た成果物が、書籍や論文、記録映画として形を変えながら市民に活用され続けていることを最も嬉しく思っています。報道は誰のためにあるのか――本賞は改めてそれに光を当ててくれました。感謝します。

公共奉仕部門 奨励賞

  • 受賞者氏名:「原子力“バックエンド”最前線」取材チーム 日本放送協会 大型企画開発センター プロデューサー 林新 ディレクター 酒井裕
  • 受賞作品名:BSドキュメンタリーWAVE「原子力“バックエンド”最前線~イギリスから福島へ~」
  • 発表媒体名:NHK BS1
  • 発表年月日(期間):2013年3月9日
  • 受賞理由:日本のメディアの特徴の一つは、常に先頭に立って世論をリードしようとする点である。与党にモノを言える野党がない国にはこのような「立場のはっきりした」メディアは必要かもしれないが、有権者が主役の民主主義社会においてはなるべく多くの情報を提供するのがメディアの最も重要な役目の筈である。「原子力バックエンド」は、イギリスで数十年前に事故を起こした発電所の廃炉の進み具合および現在運転中の原子力炉から出てくる使用済み核燃料の再処理などに焦点を絞り、視聴者のインテリジェンスを尊重しながら原発の「目に見えないツケ」を紹介している。福島第一原発の後処理の参考となる外国の一例を、有権者および政策立案者に冷静な姿勢で提供することにより、番組制作者は民主主義社会におけるメディアの最も崇高な使命を果たしたと言える。これからも、パニックに惑わされないクールなドキュメンタリーをどんどん世に出してほしい。(アンドリュー・ホルバート)
  • 受賞者コメント:現在、日本最大の課題である東京電力福島第一原発の廃炉作業。導入が必須とされる諸外国の技術や知見とはどのようなものなのか。それを知るため、事故処理や廃炉といった「バックエンド」を先進的に進めているイギリスをルポしました。政府や企業が一体となった専門機関の創設や、廃炉への根本的な考え方など、日本が学ぶべき姿ばかりです。今回の受賞を経て、引き続き福島の廃炉作業の有り方を問うていきたいと思います。
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