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未知の「がん遺伝子」を探せ! 最新テクノロジーで医療を支える仙波研究室

ゼミ紹介

未知の「がん遺伝子」を探せ! 最新テクノロジーで医療を支える仙波研究室

公開日:2011/07/22

がんにかかわる遺伝子が発見されて約30年が経過し、一部のがんでは、がん遺伝子が作るタンパク質を標的とする薬が誕生しました。私たちの研究室では、ゲノミクスやプロテオミクスといった最新のテクノロジーを用いながら、まだ見つかっていない「がん遺伝子」を発見し、その働きを知ることで、がんの診断や治療に貢献することを目標に研究に励んでいます。

研究室DATA

仙波 憲太郎 教授
仙波研究室(先進理工学部 生命医科学科)
所在地:先端生命医科学センター(TWIns:50号館)

医学部・病院との連係プレーでがんの遺伝子情報を解明

 不治の病と恐れられてきたがん。今では治療できることも多くなりましたが、それでも2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで亡くなると言われ、深刻な病気であることには変わりありません。「がんは、できる場所が違うだけのひとつの病気だと思われるかもしれませんが、乳がんや肺がんといった異なる臓器にできるがんは、それぞれ異なる遺伝子がかかわる、別の病気といってもいいんです」。がん遺伝子の発見をテーマとする仙波研究室。病の原因はすでに我々の遺伝子の中にある――がんは感染症とは異なり、「内なる敵」との闘いなのです。

 病気の研究は医学部、薬の研究は薬学部と考えがちですが、「生命医科学科は新しい学科なので、特定の色に染まっていない分、どのようなアプローチも許されると思います」と先生が説明してくれました。「しかし、私たちだけではがんという巨大な難敵に立ち向かうことはできません。たとえば、がん研究では、患者さんのがん組織で起こっている現象を捉えることが不可欠ですが、こうした研究は私たちだけではできないんです。そこで、私たちはがんの組織を扱う福島医大を中心とするチームや、ヒトの全遺伝子をもつ産総研のチームなどと研究グループを組織して、得意な分野を生かして研究を進めています。がんは遺伝子の病気である以上、その原因となる遺伝子を見つけ出し、その機能を理解することが最も重要です。私たちの研究室では、乳がんを一つの例としてとりあげ、体系的にがん遺伝子を発見する実験手法を構築しようとしています」。

 がん遺伝子とは、発がんや転移にかかわる遺伝子のこと。学生のみなさんはそれぞれ、このがん遺伝子を見つけ出す新しい手法の開発に取り組んでいます。それと平行して、福島医大と連携してがん遺伝子と疑われる遺伝子を絞り込み、自分たちの実験手法を用いてがん遺伝子を追いつめていく。がん遺伝子を見つけて働きを調べ、最終的には治療に役立てたいという気持ちで取り組む研究室メンバーたち。では、具体的にどんなことを学ぶのかうかがってみましょう。

ゼミは通常、自分の実験の紹介&ディスカッションと、新しい概念に関する文献や論文の詳しいデータの紹介とを1名ずつで行います。こちらは最新の実験データを英語で発表中。

仙波先生は、大学院生のときに乳がんのがん遺伝子を見つけた人なのだそう。「失敗していいから自分で考えて実験しなさい」というのが先生の方針です。「研究室にはモチベーションが高い学生が集まってくれました。お互いの切磋琢磨でどんどんレベルアップしていきますね」

情報は、すべて遺伝子の中に書き込まれている

 生命医学科に入ると、1年生から3年生の間に生命科学の基礎的な授業を受けますが、その中で仙波先生の分子細胞生物学で学んだ「細胞内のシグナル伝達」に興味を持って仙波研に入ったという柴田奈緒さん(4年)。シグナル伝達とは、細胞をひとつの工場と考えると、細胞が別の細胞に手紙を渡してやることを指示し、受け取った細胞が別の部署にまた手紙を渡して...と、最終的に工場長、つまり細胞の「核」まで情報をリレーしていくことだと、斉藤諒さん(修士1年)が説明してくれます。

「主に手紙に書いてあるのは、増えなさいとか死になさいとかそういうことなんですが、本当は手紙なんて来てないのに『手紙来たからお前コレやれよ』って言う悪い奴がいて、増えちゃいけない細胞がどんどん増えちゃった。これが、がんだったりするんですね」。

 説明上手な斉藤さんに、研究室で扱うテクノロジー「ゲノミクス」についても教えてもらいました。「ヒトゲノム」なんて言葉は耳にしますが...。「病気って、基本的に細胞がおかしくなるから起こるんです。がんはもちろん、アルツハイマーは神経の細胞が、肝硬変なら肝臓の細胞が。細胞は遺伝子に書かれた情報を読むことで働くので、遺伝子に書いていないことは起こらない。つまり、遺伝子に書いてあることがわかれば、病気のことがわかる。ゲノムというのは、遺伝子の情報の総体のことなんですが、この中に、ある意味人間の病気すべてを知る手がかりが詰まってるんですよ」。病気になるということは細胞がおかしくなること、細胞がおかしくなるということは、おかしくなるための情報が細胞の中の遺伝子に書いてあるということなのですね。人類の歴史はすべて未解読の古文書にすでに書かれていた!なんてオカルト的な連想をすると怒られそうですが、未知への興味がわき起こってきます。

 「簡単にいえば、遺伝子の情報で、がんになるように設計されているものを攻撃する薬を作ればがんは治る。これが僕たちの試みですよ」(斉藤さん)

実験器具がぎっしり。飼っている(!)細胞の面倒をみるのは1日1回程度で大丈夫とのこと。実験がうまくいかないと悔しくて、徹夜してでも、という気持ちになるのだそうです。

先生からのメッセージ

 がんの研究から細胞の増殖や分化といった、生命の基本的な現象の仕組みが発見された例も少なくありません。これからの10年もがん研究は、発症の仕組みを明らかにし、優れた治療薬の開発に向けて大きく発展していくでしょう。私たちができることは小さな一歩かもしれませんが、一緒にがんに挑んでみませんか。

先輩からのメッセージ

 生命医科学科では学生6~7人に対して1人の先生がついてくださるんですが、仙波先生にすごくよくしていただきました。実験は失敗ばっかりなんですけど、先生も先輩も優秀な方ばかりで、毎日新しいことを知れるような充実した環境で勉強できています。

4年・柴田 奈緒さん

先輩からのメッセージ

 実際に起きている病気に触れられるのは医学部ですが、生命科学の分野では、物理や化学など理工学的な見地からわかること、理工学部でないとできないことも多いんです。広い意味で、医学と理工学をつなぐ部分が見られて、楽しいと思いますよ。

修士1年・斉藤 諒さん

このゼミを目指すキミに先生おすすめの本

がん研究レース――発がんの謎を解く――』ロバート・A.ワインバーグ・著/野田 亮、野田洋子・訳(岩波書店)

 ワインバーグはがん研究のパイオニアであると同時に、今も世界のがん研究を牽引する第一人者。単独で、膨大ながん研究の成果を一つの教科書―「がんの生物学」(南江堂)にまとめあげた力量は見事ですが、この本では「がん遺伝子の発見」という歴史を作った研究者たちの生き様をあますところなく伝えています。私たちは教科書を読んでその事実だけを機械的に覚えようとしてしまいがち。この本を読むと、一つひとつの発見はどのような着想や実験によってもたらされたのか、そこに秘められた研究者たちの熱い心にもう一度触れたくなります。