
ゼミ紹介
日中関係は複雑だからこそ、研究対象としては興味深い! 劉ゼミ
公開日:2014/02/14
日中関係という視点から、日本の近代外交史と中国地域研究を行うゼミです。ゼミの活動は、専門書を読み込んだり日中関係史に関わる史料を調査・研究したりという書籍研究・史料調査と、各自が設定したテーマに関する研究とその成果を発表するという2本立てで進められます。例年、留学生も在籍しているため、ゼミでの議論や研究発表を通して自国と相手国に対する理解を深めていくこともゼミの目的のひとつです。
研究室DATA
劉 傑 教授
日本外交史・中国地域研究演習(社会科学研究科 地球社会論専攻)
所在地:早稲田キャンパス14号館

書籍講読や史料調査で日中関係を深く学んで、論文制作に生かす
遠い昔から現代まで、政治的、文化的、経済的などさまざまな面で密接かつ複雑な関係にある日本と中国。その長い歴史の中でも、特に19世紀後半から現代にかけての日中関係について研究しているのが劉先生のゼミです。
ゼミは、修士課程と博士課程の学生が合同で行います。参加者は全部で20名弱。教室を覗くと、年齢層が非常に広いことに驚かされます。それもそのはず、社会人で40~50代の院生やさらには70代の聴講生もいるからです。また、留学生も数名います。「中国や台湾のほか、今年度はタイからの留学生もいますよ。タイの立場から日中関係を研究したいと言っています」(劉先生)。毎年平均して、修士課程には2~3人の留学生が入って来るとのこと。
「若い大学院生だけでは、どうしても考え方や発想に限界がありますので、多様な参加者がいることはゼミの活性化につながるよいことだと考えています」と劉先生。また、留学生の存在も、日本人学生・留学生の双方がお互いの国について理解を深められて、日中関係を学ぶこのゼミにとっては非常に意味があることだそうです。
さて、実際のゼミはどのように進められているのでしょうか。大学院のゼミというと、それぞれが自分で決めたテーマについて研究して論文にまとめるというスタイルを思い浮かべる人もいるでしょう。劉先生のゼミでも、論文作成・発表が中心ですが、それに加えて一冊の研究書や史料を全員で勉強する時間も設けています。
「今年度は『思想課題としてのアジア』(岩波書店)を読んでいます。今の日本とアジア各国との関係や、アジアが共通で抱えている問題は何なのか、アジアとはそもそもどういう存在なのかをみんなで考えてみようということで選びました」。みんなで同じ本を読むのは、ひとつの大きな問題意識を育てて共有し、その上で独自の視角を模索することが目的です。
また、日本と中国に関する歴史的な史料については、読んだ後に自分で問題点を発見して調査し、調査の結果をゼミで発表しています。「史料の基本的な読み方を学ぶと同時に、そこから問題点を発見する能力を訓練するためです」。こうして、基礎的な力をしっかり高めた上で、自分たちの論文作成を行っているんですね。史料調査の際は、博士課程の人が修士の人を教えるなど、院生同士の交流も盛んだそうです。


最年長の参加者は、軍人の父親が保有していた太平洋戦争時代の史料を提供してくれたのが縁で、ゼミに聴講生として通っている方だとか。「いろいろな経歴を持つ人がいることは、多様な意見を聞くチャンスでもあります」(劉先生)。
歴史上の人物からテレビの中国特集まで、研究テーマは多彩
ある日のゼミでは、前半は史料調査を基にした研究発表を行い、後半は博士課程の学生が博士論文について現段階での研究計画書(これからどのように論文を進めていくかをまとめたもの)を発表していました。発表者の博士論文のテーマは、「昭和戦前期日本ジャーナリズムと中国」。当時の日本では中国がどのように認識されていたのかを、新聞の社説などから分析するというものです。
発表後は、「中国で出されていた邦字紙は取り上げないんですか?」「中国論調っていう言葉が何度も出てくるけど、わかりにくい」「何らかの数値的な分析は入らないんですか」など、質問や意見がかなりズバズバと飛んでいました。と言っても、ギスギスした雰囲気ではありません。「発表者の研究内容がよりよいものになるように」という、ゼミ生たちの強い思いが伝わってきました!
劉先生によると、論文の研究テーマは非常に多岐にわたっているとのこと。いわゆる歴史上の人物や事件だけでなく、一人っ子政策に代表される人口問題や教育問題など現代の中国が抱えている問題に注目して研究している学生もいるそうです。またユニークなところでは、「ここ20年間、NHKのドキュメンタリー番組で中国はどのように伝えられてきたかを研究している学生もいますよ」。そんな意外な角度からも中国、そして日中関係を研究できるんですね。
ところで、最近の日中関係は決して良好とは言えないようですが、ゼミには何か影響はあるのでしょうか? 「うーん、何らかの形では影響はあるのかもしれません。でも、学生たちは日中の歴史を学んでいて、現在の関係がさまざまな要素から成り立っていることも理解していますから、非常に冷静に現状をとらえていると思います」と劉先生。その上で、現状をどう打開していけばよいのかという、大きな問題意識を持っているとのこと。
「ゼミには留学生もいますし、意見の違いはそれぞれあると思います。ただ、ゼミの中では国籍の違いよりも、同じ研究者、同じ人間として互いに尊重、尊敬し合うことが大切だと感じているのではないでしょうか」。日中関係を深く学び、お互いの国に理解を持つこのゼミから、日本と中国の新しい関係につながる研究が生まれることを期待したいですね。

「ジャーナリズムの検証なら、雑誌も取り上げたほうがよかったのでは?」「新聞のほうが部数が多いし、雑誌記事は著者や編集者の意見に左右されやすいので今回は取り上げていません」。ゼミ中は、常に活発な議論や意見交換が行われます。

院生の発表に、内容から話し方まで的確なアドバイスをする劉先生。「劉先生は、人柄はもちろんですが知識や教養がものすごい! 本当に尊敬できる方です」(修士2年吉塚さん)。
このゼミを目指すキミに先生おすすめの本
『中国の強国構想 ─日清戦争後から現代まで』劉 傑/著(筑摩書房)
日清戦争から現代まで、中国の歴史の流れを追いながら、中国がどんな国家を目指し模索してきたのかを解説しています。歴史の教科書に出てきた事件や人物の背景なども、この本を読むことで理解が深まるでしょう。高校生にも読みやすい本だと思います。
『国境を越える歴史認識 日中対話の試み』劉 傑、三谷 博、楊 大慶/編(東京大学出版会)
日本と中国がぶつかり合うのは、歴史に対する認識がお互いに違うから。日清戦争や満州事変、戦後の補償問題などの事件や問題を日中それぞれがどのように認識してきたのかを学び、日中関係を冷静に考えるための一冊です。中国でも同時出版されています。