OB・OGインタビュー

讀賣テレビ報道局解説委員
 辛坊治郎さん


報道の最前線に聞く!

 創立125周年を迎える記念すべき年のOB・OGインタビュー。今回は日本テレビ「ズームイン!SUPER」や「ウェークアップぷらす」でおなじみ、讀賣テレビ解説委員の辛坊治郎氏にご登場いただいた。報道という、マスコミの最前線を舞台に活躍している辛坊氏の今、そして学生時代の思い出を大いに語っていただいた。

辛坊治郎さん
辛坊治郎(しんぼう・じろう)
1956年生まれ。早稲田大学法学部卒業。讀賣テレビ報道局解説委員・芦屋大学客員教授
 現在のレギュラー番組
 ・「ズームイン!!SUPER」・「たかじんのそこまで言って委員会」
 ・「ウェークアップ!ぷらす」
 主な著書
 ・『ふらっとアフガニスタン七泊八日』・NTV出版
 ・『TVメディアの興亡 ―デジタル革命と多チャンネル時代―』・集英社新書

優秀だった(?)学生時代

 学生時代の成績は、自慢じゃないけれどほとんど「優」でしたよ。でも学校に行った記憶はほとんどないんだよね。

 当時はマージャンのメンツ集めのためだけに大学に行ってたようなものだから。ただ、西武池袋線で通学していたんだけれど、朝は池袋でよく挫折したね。あんまり眠いんで、パルコの屋上のベンチで午前中よく寝ていたよ。それから昼に大学に行って、マージャンのメンツ集めて、雀荘行って、家には帰ったり帰らなかったり。これでよく全優だったよね(笑)。当時はいいノートに恵まれたんだね。

リスク回避はしていた

 何で「優」ばっかり集めたのかというと、民間企業を受けるためにはその方が良かったから。でも就職試験ってミズモノだから、成績だけじゃ分からない。そうすると一番確実なのは公務員試験でね。国家公務員上級試験は難しくて、そこまでする根性もなかったから、地方公務員に受かっておこうと思った。

 そうやってリスクマネジメントをしながら、最小限の努力で最大限の効果を生むには何をすべきかを考えていたよね(笑)。臆病で用心深いものですからね。まぁ、根性としては曲がっているよね。

チャンスに乗れるかどうかの 最低限の準備は要る

 地方公務員試験の採用結果が出るのが四年生の十二月。ちょっと不安でしょう。だからとりあえず就職活動もしようと。

 当時は就職協定があったから、十月一日から民間企業を回り始めて、商社から内々定をもらったんです。さてどうしようかな、と思っていた時、ふらりと立ち寄った就職課の掲示板に、レポーター・司会者を募集しているフジテレビのチラシが目に入ったんです。それに日当千円くれるって書いてあったんだ。大学から近かったし、お金くれるっていうから受けに行って、最終試験まで残った。最後の面接で初めてアナウンサー試験って分かったんだよ。それでラスト三人まで残ったんだけど、結局落っこちた。けれどそれを聞いた讀賣テレビから連絡が来たんだ。それで試験を受け、受かりましてね。今にいたるわけです。

 私がフジテレビに最終まで残ったのは、ペーパー試験が良かったからだと思う。三カ月前から新聞ジャーナル系の本を集中的に読んでいたんです。当時はほとんど時事問題にも興味がなかったけれど、四年分くらいの時事問題はとりあえずそれでどうにかなる。結局どこも同じようなテストですし、「時事問題には強い」と間違った錯覚を与えてしまったみたいですね。

 だから今はこんな仕事をしているけれど、当時は放送局で働こうとか、ジャーナリズムとは何かとか、そんなモチベーションはこれっぽっちもなかった。

 人生ってどう転ぶか分からないよね。だから決めてかからない方がいいよ。たぶんいろいろな機会がいろんな人に訪れる。だけど機会が自分のところに来た時に、チャンスに乗れるかどうかの、最低限の準備は要ると思いますよ。

人生に迷っていた時代

 学生時代は何となく時間を過ごしていて、何をしたらいいのか分からない、結局人生に迷っていた時代だよね。大学に入るまでは目標があるし、就職したら悩む間もなく毎日仕事があるわけだけど、大学では時間がありすぎて何をしたらいいか分からなかった。

 その時間で僕は旅に目覚めてね。今では海外旅行なんて当たり前だけど、当時は珍しかった。渡航自由化されて間もなかったし、金額も今とは段違い。夏休み前後を使って、ほとんどアンダーグラウンドな格安航空券で三カ月くらいヨーロッパから北アフリカを旅して回ってた。今で言うバックパッカーの走りだね。それからバイトをしては外国をふらふらして。結局旅の面白さに目覚めて、結婚するまでは旅の資金集めに働いているといった感じだったね。今は子育てのために生きているけれど。

毎朝の勝負

 今は、朝五時二十分スタートのニュースに出ているから、会社に行くのが朝の三時半。私が担当している三、四分のコラムがあるんだけど、それは毎朝自分で作らなければいけないから、朝起きたときに「さて今日はネタがあるかな」と。なかったらコーナー四分間がとんじゃうからね。前の日に作ると鮮度が落ちるから、当日勝負なんです。

 でも基本的にニュースは継続しているものだから、朝起きて全く新しいことなんて滅多にない。基本的には、新聞の一面記事の見出しを見ただけでほぼ内容は分かる。でも詳しく読んでみると、一面だけでは見えてこないことが一つや二つはある。まず、朝に新聞を見る時間がない視聴者に新聞の見出しを見せること、そして「ここはちょっと違うんですよ」とアドバイスをする。これが一番のポイントのような気がしますね。

 ニュースを分かりやすく作るのは当たり前なんだけれど、皆がそろって錯覚していることもあるんですよ。そこを「違うよ」と指摘する。例えば、地球温暖化で海面が上昇するのは本当のことだけど、それを氷が溶けるからだと思ってる人は多い。本当はそういう、ニュースのちょっとした違うだろう、ということや、情報の表面の向こう側には本当はこんなことがありますよ、と見せてあげるのが私の仕事だろうなぁと思いますね。

異邦人として臨む現場取材

 どうしても現場を自分の目で見なければ分からないときには実際に行きます。それは趣味として行く。仕事だと思うとつらいからね。この五年間でもアフガニスタン、イスラエル、パレスチナ、イラン、9・11直後のアメリカ…。ホットポイントには全部行った。 

 例えばアフガン、イラクに関しては思想のバイアスがかかっていない書物はない。それならば自分で見ようと。やっぱり自分の目で見るのと本を読むのとは全然違いますよ。パレスチナに行って、建設中の壁を見ると、いかがなものかと実感するよね。実際地域が分断されていて、そこに住んでいる人を見ると、たまったもんじゃないなって思うし、そういう実感は本を読んでも分からないからね。

 でも、基本的に現地の取材対象者たちとは、濃密な関係は築かないね。結局どこまでいっても異邦人なんだなって思う。そこの住民にはなれないし、なろうと思うのは失礼でしょうね。こちらも向こうを観察してるけど、向こうもこちらを観察しているからね。その感覚は実は学生時代に旅を繰り返して芽生えたもの。でも、お互いに異邦人だからこそ築ける関係があって。親密だと言えないけど、知らない人になら話しちゃうか、ということもある。

 基本的に私は人間嫌いなんだけど、珍しいもの、変わったものは好きなんです。そういう意味では世界中どこに行っても面白いよね。

「面白いこと」を探す日々

 振り返ると、「なんか面白いことない?」のずっとその一点を追いながらここまで来てしまって、これからもずっとそうやって一生終わっちゃうのかなって気が最近してきましたね。日常にそんな面白いことってないんだけれど、でももしかしたら、一歩外に出て、何かにつまづいたら、その先に何か見つかるかもしれない。家の中でずっと座っているだけでは、面白いことって起こりようもないし、家と会社の往復だけでもそうだね。私は今、新橋・汐留で働いているけれど、帰りは必ず東京駅までいつもルートを変えて歩いていますよ。道をぽんっと変えて歩くと、見えるモノが皆違う。電車で同じ景色を見るよりも、歩いて三、一本ずつちょっと道を変えていくと、けっこう面白いよね。

 「なんか面白いものないかなあ」、それ以外のことは、実はほとんど考えてない。それが人の役に立とうが立つまいがあまり関係なくてね。私は素材は提供しますから、面白くなかったらごめんね、後は好きにしてねって。

学生時代は最大限自分の ために時間を使える

 後輩の学生たちへのメッセージとしては、学生時代はいいぞ、どうぞ自分のために時間を使ってね、と。卒業したら、自分のために使える時間っていうのは、確実にものすごく少なくなりますから。自分のためにどこまで時間を使えるかっていうのが一生の中でひとつの勝負どころだと思う。会社に入ったら会社のために時間を使い、結婚したら家族のために時間を使うことが多くなる。自分自身が楽しんだり勉強したりする時間というのが、実は大学を卒業したらほとんど取れない。だけどその自分自身のための時間をどう使うかが、それぞれの人の豊かさを左右する。学生時代は、最大限自分のために時間を使える時期。一生の中で本当にまれな時代です。人のために尽くすのは自分に厚みができてからでもできるから、まずとにかく自分のために時間を使ってほしいですね。

 あと卒業してからも、自分のためだけの時間を一日一時間でも作った方が良い。全部が会社のためだったり家族のためだったりしてしまうと、人間痩せちゃうよ、というのが私からのアドバイスとして言えるかもしれないね。

早稲田での四年間は 貴重だった

 四年間遊ばせてくれなかったら、こんなことにはなってなかったと思うね。あのころに旅の楽しさに目覚めて、「ああ一生は旅なんだな」って思ったところがある。今住んでいるのも、長い人生の長い旅の一場面だと心のどこかでやっぱり思っている。しょせん旅人なのよ。旅としてはどこかの旅先でぱたっと果てるのが理想型なんだ。そんな冷めているところが私の中にはあって、その原点は学生時代に作られたのかな、と。そうでなかったらもっと真っ当な人生を歩んでいたかもしれないね(笑)。 私自身、非常に豊かな四年間だったなと思います。


「ウェークアップ!ぷらす」毎週土曜あさ8時放送中

(2007年5月31日掲載)

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First drafted 2007 May 31.