教育・総合科学学術院助教授
本田 恵子
(ほんだ・けいこ)
 国際基督教大学卒業後、コロンビア大学大学院修士課程、博士課程修了(教育学博士)。ニュージャージー州公立高校ガイダンスカウンセラーなどを歴任して帰国。国際基督教大学カウンセラー、玉川大学文学部助教授等を経て、2004年から現職。『キレやすい子の理解と対応―学校におけるアンガーマネージメント』(本の森出版)など著書多数。ソーシャルスキル教育教材『SSTのゆかいな仲間達』(クリエーションアカデミー)などの制作も手がける。
 コミュニケーションを学問する

心と言葉を結び付ける コミュニケーションのコツ
―教育臨床論―

教育・総合科学学術院助教授 本田 恵子

「伝えたいこと」を見失い、 伝える言葉と術を持てなくなった現代の子どもたち。
その心のありかを探り当て、 コミュニケーションの力を引き出す秘訣を紹介する。

まず「愛着心」を育てること

 教育臨床論とは、「いじめ」、「学級崩壊」、「不登校」、「虐待」、「自殺」「教員の心身症」などが生じる要因を臨床的に見立てた上で、対応のための教育的なかかわりを立案し、実践する学問である。例えば、先の問題をコミュニケーションという要因で見立てる場合、教員、保護者、生徒間のコミュニケーションを阻害する要因が何かを探るために、子どもの感情・言語・ソーシャルスキルの発達に何が生じているかを理論的に分析していく。その上で、気持ちを伝えるには、自分や他者にどのような力が必要なのかを見立て、未発達な要素を育てる教育を行っていくのである。

 コミュニケーションが滞る場合、以下の要因を見立てていく。(1)何を伝えたいのか理解できるか、(2)伝える手段があるか(言語・非言語の表現のための能力・技術)、(3)相手の状況が理解できるか(向社会的判断力)、(4)相互に会話が続けられるか(コミュニケーション能力、ソーシャルスキル)、(5)関係の修復ができるか(対立解消)。

 このうち、何を伝えたいかを理解するためには、自分の内外のものに対する「愛着心」が育っている必要性があり、またそれを説明する「ことば」が必要になる。コミュニケーションを育てる基本である「愛着心」の発達過程を説明したのが図である。


図:愛着心の発達と他者理解のプロセス
図:愛着心の発達と他者理解のプロセス

五感によるすべての情報を 言葉に置き換えてみる

「自分が伝えたいこと」を理解し、分かりやすく「伝える」ためには、語彙力と構文力が必要になる。お互い自分にしか分からない言葉を使っていたのでは、伝えたいメッセージが伝わらないからである。

 中学生とカウンセリングをしていると「びみょー」という答えが返ることが増えた。「何がどんなふうにびみょーなのか、説明してくれる?」と言うと、口ごもってしまう。びみょーに何かは感じているし、びみょーに見ているけれども、説明できるほど対象とかかわっていない、あるいはかかわろうとしないので、言葉にならないのである。

 このタイプは、いじめの傍観者や親に不満を持っていても感じないようにしている子に多い。一方、キレる子と対応していると、「うぜーんだよ」、「消えろ」、「死ね」、というようなはっきりとしたひと言で片づけられることが多い。苛立っている感情は分かっても、感情そのものが分化していないか、対応のパターンが限られているため、感情や行動を表す語彙が少ないのである。

 両者とも対話を続けるのは容易ではない。説明しようとしても言葉がないので、落ち込んだり怒り出したりしてしまうためである。したがって、絵画、遊び、運動、作業など言葉以外の方法でコミュニケーションを取りながら、その時に彼らが示す表情や行動に一つひとつ「なまえ」を付けていく。

 このように、語彙力を上げるには、日常生活の中で目(視覚)、耳(聴覚)、手、舌などの感触(触覚)から入手した情報を「ことば」にしていく練習を重ねるとよい。例えば、見たもの(自然の色、形、しぐさ、行動の一連の流れなど)や聞いたもの(自然の音、声の抑揚、音楽、静けさなど)、感じたもの(食べ物の微妙な味わいの違い、感情など)の一つひとつに言葉を付けていくのである。また、絵を言葉で説明したり、抽象的なことを言葉で説明する力も必要になる。

 ある学生が写メールに京都のお寺の写真を貼り付け「^o^」という顔文字とともに送ってきた。これでこと足りてしまう社会であるからこそ、あえて、心や考えを言葉にする練習をしていないと、言葉の使い方を忘れてしまうのではないだろうか。

会話を続けるためのコツ

 自分のことが伝えられる準備ができたら、次に、基本的な日常会話(おはよう、こんにちは、ありがとうなど)や、会話を続けるための構文、つなぎ言葉なども習得する。例えば、「おはよう。昨日の○ドラマ、面白かったね」「おはよう。そうだね。でさ、みっちゃんは、あれどうなると思う?」といった具合である。

 ここで「うん。そうだね」で終わってしまうと、会話は切れる。不登校やキレる子と面接している先生たちが陥るパターンが、質問攻めである。一つの話題で会話を深め、続ける方法が分からないので、相手の返事が切れたら、次々と話題を変えてしまうからである。結果、生徒は、先生と話すと疲れるから面接を拒否するようになる。

 どんな話題であれ、相手の話に興味を持ち、会話が続けやすくなる投げかけを返すスキルが必要なのである。「へえ。面白いね」「例えば?」「それって、どんな感じなの?」「もう少し、○の部分を話してくれる?」などである。

 実は、ここには論理的な思考が働いている。したがって、会話を続けるには、話の変数を決めたり、質や量を調整したり、比較したり、原因・結果を考えたり、例を当てはめたり、という論理思考も同時に育てなければならない。

 コミュニケーションを進めるための基本の流れは、自分の感情や考えを把握する、相手の伝えたいことに共感する、具体的な対応策を一緒に考える、である。さまざまなことについての会話を楽しめるようになれることを願っている。

 Book Review 教育臨床論を知るための入門書

臨床教育学入門
河合隼雄 著/岩波書店
子どもの内面を読み解き、創造的で個性的な教育を実践するにはどうすべきか。臨床心理学者の著者が、その経験と教育現場との交流をもとに分かりやすく解説。

(2005年10月29日掲載)




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First drafted 2005 October 29.