理工学術院教授
橋本 周司
(はしもと・しゅうじ)
 理工学術院教授。工学博士。早稲田大学ヒューマノイド研究所所長。1970年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。東邦大学助教授を経て現職。専門は計測工学。感性情報処理やヒューマンインターフェイスなどに関心を持ち、画像処理、ロボティクス、音楽情報処理などの研究を進める。
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[ロボット開発] 人の心が分かる ロボットは 誕生するの?

この先生に聞きました
橋本 周司 理工学術院教授

あの「鉄腕アトム」のように 人間と同じ空間で暮らして同じ言葉を話し、 人の気持ちを理解して働くヒューマノイド(人型ロボット)。
それはもはや、 SFの中だけの話ではなくなろうとしている。
ロボットはなぜ、人に近づく必要があるのだろうか。
ヒューマノイド研究所を牽引する 橋本先生に話を聞いた。

「人とロボットが共存する時代がやってきます」
「iSHA」1
「iSHA」2
▲ 「iSHA」
人間とロボットの自然なコミュニケーションの在り方を研究するための自律移動型ヒューマノイドロボット。両眼で物体を注視する、押された方向に身体を動かす、音がすれば振り返るなど、視覚、力覚、聴覚によるコミュニケーションを実現。
(ヒューマノイド研究所/応用物理学科・橋本周司研究室)
「ROBISUKE」
▲ 「ROBISUKE」
人間のジェスチャーや顔の向き、音声言語などを理解して、複数の人と対話ができるロボット。うなずきや表情、発話のニュアンスなどの非言語情報も理解し、人間に近い対話をすることができる。
(ヒューマノイド研究所/コンピュータ・ネットワーク工学科・小林哲則研究室)
「WE-4R II」
▲ 「WE-4R II」
人間の知覚・認識機能を工学的観点から解明し、人間との円滑なコミュニケーションを実現するために開発されたロボット。視覚、聴覚、触覚、嗅覚などのセンサーを搭載し、眉・口唇・顎・顔色・声による情動表出が可能。
(ヒューマノイド研究所/機械工学科・高西淳夫研究室)

ついに到来!― 人とロボットの共生時代

 未来のロボットはどんな形をしているか。そう聞かれたら、多くの人が「アトム」や「ドラえもん」のようなアニメ・キャラクターを思い浮かべることだろう。だが、一般の人たちが思い描くそうしたイメージと、技術者がこれまで追求してきたそれとは随分異なっていたようだ。

「エンジニアにとってのロボットは、工場の組み立て機械に代表されるような、いわゆる産業用ロボットでした。何に使うのか明確な目的をもって開発され、それに応じてさまざまな形と機能を持たされた。作業効率と生産性を飛躍的に高めてくれる機械。それだけでも十分に感動的な発明だったのです」と、理工学術院教授の橋本周司先生は話す。

 それが今、まさに人々の想像の世界にぴったりマッチするようなロボットが次々に開発されつつある。一世を風靡したソニーのイヌ型ロボット「AIBO」や、ホンダの二足歩行ロボットはその象徴だろう。ロボット活用の舞台は加工を主とする二次産業から農業などの一次産業、そしてサービス中心の三次産業へと広がりつつあり、生産の場から生活の場へと徐々に近づいてきた観がある。そこではロボットにどんな役割が求められるのか。橋本先生はこう説明する。

「ひと言でいえば、人間共存型のロボットです。産業の現場ではなく、人間の生活空間の中に入り込み、日常の暮らしを手助けするために働く機械、といえば分かるでしょうか。例えば、高齢者や病人、体の不自由な人のための介護や看護、健康管理、掃除・洗濯といった家事などを手伝ってくれるロボットです」

 それを考えると、形や機能もできるだけ人間に近いロボットが良さそうだ。日常の生活環境は人が暮らしやすいように設計されている。だから、そこで働くロボットも人並みに動き回れる方が良いのである。また、誰でも容易に使える操作性がほしい。自動車のように免許がなければ使えない、ということだと、生活支援ロボットと呼ぶには難がある。 「つまり、操作を意識することなく操作ができるロボットですね。ここでぜひとも必要になるのが、人間とのコミュニケーション機能というわけです」

人と機械の間をつなぐ インターフェイスとして

 機械が人間とコミュニケーションをとる。それはとても難しいことのように思えるが、コミュニケーションの意味合いを広くとらえれば、今でも普通に行われていることだと、橋本先生は言う。

「たとえば、スイッチです。人がオンとオフを切り替える動作をすれば、機械がそれに反応する。原初的な一方通行のやりとりではありますが、これもコミュニケーションの一種といえるでしょう。これが一歩進むとダイヤルのような入力装置になり、コンピューターの登場によって、キーボードやタッチパネル式の入力画面も作られるようになりました。ここでは人の動作に応じて、機械が文字や絵をアウトプットしてくれます」

 確かに最近では、人が入力した情報に対してコンピューターが質問を返してくるなど、ある種の対話をともなう双方向型のコミュニケーションも実現されている。しかし、それだけでは、人と人の間に成立するコミュニケーションにはほど遠い。

「要するに、人と機械の間をつなぐインターフェイスをどうするかが問題なのです。キーボードやタッチパネルの代わりに人間により近い形のロボットを介在させ、あたかも人間同士がコミュニケーションをとるかのように情報をやりとりし、その背後で高性能のシステムを稼働させる。つまり、インターフェイスとして使えるロボットを作る。これが、人間共存型ロボット開発における重点課題だといえますね」

 このことは、近未来型の情報家電ネットワークを想像してみると分かりやすい。テレビやエアコン、洗濯機、給湯システムなどの家電類をネットワークで結び、一元的に操作をコントロールする仕組みである。遠隔地からの集中操作が可能なリモコンなどの情報端末を使う方法が現実的だが、そのリモコンの代わりにロボットを使う。すると、「洗濯をしてから冷房を入れて、お風呂を沸かしておいて」とロボットに命じるだけで、その通りの作業が実行されるという寸法である。

感性さえも理解する 人型ロボットの誕生へ

 さて、そうなると人間の欲求はさらにエスカレートする。物言わぬ機械に向かって一方的に話しかけるのは辛い。言葉をかけたら、返事をしたりうなずいたりするロボットはできないか。目つきや顔の表情で意思を表すことができるロボットがあれば、人間とのコミュニケーションはさらに加速するはずだ。

 実際、このようなロボットの開発はすでに進められていて、早稲田大学はその研究成果で世界の先端を走っている。橋本先生が所長を務め、人間共存型ロボットの開発をテーマに掲げる「ヒューマノイド研究所」や、ロボットと共存可能な社会システム・技術・産業の創出を目指す岐阜県各務原市にある「WABOT-HOUSE研究所」(所長:菅野重樹理工学術院教授)は、その急先鋒である。

「ロボットが人間からのインプットを正確に受け取るには、人が話す言葉や気持ちを理解しなければなりません。そのための音声認識技術や、視覚・聴覚・触覚に関する機能、あいまいな表現が意味するところを経験的に理解していく学習能力に関する研究なども進められています」

 例えば、人間が「食事に行きたいなあ」と言えば、「ハンバーガーはいかがですか?」と提案し、「うーん、ハンバーガーか……」と返すと、その言葉のニュアンスから「(ハンバーガーでは嫌なのだな)では、寿司にしますか?」と微妙な判断ができるようなロボット。さらには、「ちょっと上、いやもう少し左」、「きれいにして」といった指示を与える場合の「ちょっと」、「もう少し」、「きれい」とはどの程度なのか、その人の感性や経験に裏付けられた肌感覚ともいえる情報を理解することができるロボット―。

 近い将来、早稲田の杜からそんな世界的な大発明が生まれるかもしれない。

Extra Bits 〜もっと知りたい知識のヒント〜

世界を牽引する
ヒューマノイド研究の最前線

 人間共存型ロボットの開発で、日本は世界のトップレベルにある。その最前線で活躍される橋本先生の研究テーマは多彩だ。

 例えば、ロボティクス。これは文字通り、ロボットを作り、運用するための基礎的な技術を追究する分野で、電気や通信、機械、材料、コンピューターなどの多様な知識と技術を動員して総合的にアプローチするほか、人間とのかかわり方や感性的な情報の処理についても扱う。具体的には、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった人間の五感を理解することができる機能を搭載し、画像や音響、言語、身振り、表情などのさまざまなモダリティ(様式)によって情報を表現することができるロボットの開発を目指す。すでに一九九九年には、このようなマルチモーダルコミュニケーションに対応した人型ロボットの試作にも成功しており、「人間とロボットの自然なコミュニケーションの在り方」を研究するためのプラットフォームとして力を発揮している。

 感性情報処理の面では、人間の脳の神経回路をモデルとした情報処理システム、いわゆるニューラル・ネットワークについて研究し、予測や学習、感性の数量化に基づく制御機能の開発に取り組んでいる。さらに、顔の表情などに見られる情報を画像的に処理する技術や、音楽を用いた人間と機械の情報交換など、人間共存型ロボットに応用できそうなテーマがあって興味が尽きない。

Book Review
 ―コミュニケーションを知るために

未来のアトム
田近伸和 著/アスキー
「アトム」のように人間並みの知能と心を持つロボットは果たして本当に実現するのか。フリーのジャーナリストである著者が取材と執筆に二年を投じ、人間型ロボット研究の最新事情や関連する現代科学をもとに書き上げた六百頁にもおよぶ力作。ロボット工学はもとより、人工知能や脳科学、認知心理学、言語学、生物学、哲学、複雑系科学などの知見が駆使されていて、読み応えがある。

ワボットのほん』(1〜6巻)
尾島俊雄 監修/中央公論新社
 橋本先生もメンバーとして参画する、早稲田大学WABOT-HOUSE研究所。人間とロボットとの共生について考えるこの研究所の研究員が執筆し、理工学術院の尾島俊雄教授が監修するシリーズ本(現在6巻まで出版)。人間型ロボット研究の最新事例を分かりやすく紹介している。早稲田大学芸術学校の藪野健教授によるイラストも味わい深い。

Message
 ―学生生活を充実させるために

ヒューマノイド・テーマカレッジに行こう!

「テーマカレッジ」は全学部共通の学際ゼミナール。さまざまなテーマの下に全学部から教員と学生が集まり、議論や発表を中心に学習する早稲田ならではのプログラムだ。その一つに、橋本先生がコーディネーターを務める「ヒューマノイド」テーマカレッジがある。
 高度情報化時代に向けて、人間とロボット、機械の関係はどう発展していくのか。そのための技術開発には何が望まれるのか。新世代ロボット開発の最新事情を知り、実際にロボットを試作する体験もできる刺激的な学びの場に、ぜひ参加してみよう。 「人と機械が接するところには、必ずコミュニケーションが存在します。そうしたことにも目を向けてほしいですね」

(2005年10月29日掲載)




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First drafted 2005 October 29.