理工学術院教授
加藤 諦三
(かとう・たいぞう)
 理工学術院教授。専門分野:心理学、精神衛生学、哲学。1963年東京大学教養学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了。早稲田大学理工学部助教授を経て、77年より現職。現在、ハーバード大学ライシャワー研究所準研究員、日本精神衛生学会理事、産業カウンセリング学会理事。近著『無名兵士の言葉―人間を幸せにするものは何か』(大和書房)など、四十数年間の著書は共著や文庫をあわせると四百数十冊を数える。
 みんなの疑問にズバリ回答!

[対人関係]
どうすれば 好かれる人間に なれるのですか?

この先生に聞きました
加藤 諦三 理工学術院教授

誰でも人に悪く思われたくはない。
できれば、いつも好かれていたいと思う。
だから自分の振る舞いに気を付けているはずなのに、
仲良くできない、好かれないことがあるのはなぜだろう。
そんなとき、自分自身の心の中に目を向けてみよう。
気付かなかった問題の芽が見つかるかもしれない。


加藤語録に学ぶ
自分を知り、相手を知るヒント

 加藤先生のWebサイトには、先生がこれまでに著作物で語ってきた言葉の数々がずらりと並び、その要旨を読むことができる。登録数、実に500余り。どれもコミュニケーションのコツを知る手がかりになるものばかり。最近の言葉から、いくつかセレクトした。
http://www.kato-lab.net/ ● “傷ついた心”にばかり注目していると、ほんとうに大切なことを見失う
●離れるが勝ち、逃げるが勝ち
●幸せな人ほど“自分の努力”は意識していない
●愛は求めても得られない
●すぐに手に入るものはすぐ失われる
●人をうらやむほど愚かなことはない
●自分を信じ、自分を許し、自分を愛する
●弱いのに強いふりをするから疲れる
●尊敬でなくコミュニケーションを求めよう
●今手元にあるものを活用して生きる、これが元気になるコツである
●つまり嘆いていることが最もエネルギーがいらない。最も楽な生き方である。
●もし話しかけられないなら、話しかけられないで良い
●元気でないときに、誰とつきあったらよいか?
●無気力を治すには人間関係を変えること

好かれる人と好かれない人 その狭間にある無意識の世界

  同じように振る舞っているのに、あの人なら好かれて、この人だと好かれない。そんな例は身近にないだろうか。人に好かれる条件があるとすれば、そこにはどんな基準があるのだろう。「人間の悩み」について多面的に研究している加藤諦三先生によれば、「こうすれば好かれる、ということを行動として挙げることはとても難しい」という。

「私はよく、教室で学生たちに目をつぶってもらい、『もう一度会いたいと思う先生の名前を挙げてごらん』と言います。すると、出てくるのは必ずしも教育熱心な、いつ見ても立派な行いをする先生ばかりではないんですね。一度だけ一緒にスポーツをして楽しかった先生だとか、話したこともないのに、花に水をやる姿が印象に残っている先生だとか。ふとした瞬間に心の琴線にふれたことがある、そんな教師が多いのです」

 仲間うちでも確かにそうだ。真面目で非の打ちどころがない学生がみんなに好かれているとは限らない。しかもそのような若者が、心の内側にたいへんな問題を抱えていたりもする。世間を騒がせた青少年の犯罪事件を思い出してみよう。加害者の人柄をめぐり、「あんなにおとなしくて手のかからない子がなぜ」、「勉強のできる模範的な生徒でした」といった声がよく聞かれる。そうしてテレビのコメンテーターや学校の先生たちは、普段の印象と起こした行動との格差の大きさに頭を悩ませている。

「加害者のことが理解できないのは、その行為ばかりに目を奪われているからです。たとえ、どんなに品行方正に見える人であっても、心の中に憎しみや敵意が隠されていると、決して他人の心とふれあうことはありません。つまり、人に好かれることはないのです」

 人は相手の無意識に反応する―。加藤先生が教えてくれた、オーストリアの精神科医ベラン・ウルフの言葉である。自分の無意識の中にマイナスの感情が宿ったとき、それは表に見せる行動を素通りして、図らずも相手に伝わってしまうものだという。

「もしも友人や家族との関係がうまくいっていないとすれば、それはあなた自身にも気付かない敵意や憎しみが、自分の中に横たわっている証拠です」

対人関係を司る 暗黙のルールがある

 ここで疑問は最初に戻る。好かれる人と好かれない人、その行動が表面上は同じに見えることが多々あるのはなぜなのか。加藤先生の答えは明解である。

「本当にその人に好意を寄せ、思いやりの気持ちから親切にする行為と、淋しいから相手に悪く思われるのが恐い、だから親切に振る舞ってみせること。両者の行動は同じように見えていて、その実、心のあり様は全く異なります。もっと具体的に言いましょう。子どもが母親に好かれたい、認められたいと思って手伝うのと、母親のことが好きだから手伝うのとでは、全く意味合いが違うのです。後者の子どもは、すすんで手伝ってあげることで好きな気持ちがもっと高まっていく。逆に、無理をして手伝う前者の子は、それが報われないかもしれない不安や苛立ちから、いつしか憎しみの感情を募らせていく。どちらが人に好かれるかは明白でしょう」

 肝心なのは、問題の火種が自分自身の無意識の中に存在するがゆえに、本人には好かれない原因がよく分からないということである。だからこそ、なぜ仲良くできないのか、どうすれば好かれるのかと、思い悩むことになる。加藤先生のもとには、そうした悩める人たちからの相談を求める手紙が後を絶たないという。

「過去四十年間の研究を通じて、私はそこにある共通点を見いだしました。人間関係で苦しむ人たちの多くは、相手との『距離感』が分からないのです。たとえば、初対面の人と幼なじみとでは、自分との距離感が違って当たり前でしょう。人と人はだんだんと親しくなるものです。いきなり相手を呼び捨てにしたりはしない。ところが、ある種の人たちは、初めて教室で隣りに座った人に対しても、普通なら親しい間柄でしか話さないような愚痴をこぼしたりします。これでは、相手が離れていっても仕方がない」

 愚痴を言うのが悪いというのではない。それを言える環境と関係であるかどうかが重要なのだ。対人関係には、明示されない、いわば暗黙のルールのようなものがある。人が人と接するときは、必ずその枠組みの中で意味を共有し、物事を理解しているのである。

「コミュニケーションにとって大切なのは、実は内容よりも、この枠組みなのです」

非言語メッセージを 汲み取る訓練を

 コミュニケーションの枠組みは、共通認識と非言語メッセージによって形作られていると、加藤先生は言う。それを欠いたコミュニケーションの典型例を出そう。

 授業中、教室の中で騒いでいる学生たちがいた。先生はしばらく我慢をしていたが、一向に鎮まる気配がないので、ついに堪忍袋の緒を切らし、「出ていけ!」と叱りつける。当の学生たちは悪びれる様子もなく、「ああそうですか」とばかりに教室を後にした。

 この場合の「出ていけ!」はもちろん、「静かにしろ!」の語気が強められた怒声である。にもかかわらず、先生の言葉を真に受けて出ていった学生たちは、コミュニケーション能力に乏しい人間とみなされる。当然、状況によっては本当に出ていくべき場合もあるはずだが、要はその「空気」を読めるか読めないか、言外の意味を汲み取れるか取れないかが、コミュニケーションの成否を左右する要因なのである。

「コミュニケーションがうまくとれない人間は、その共通認識なり枠組みなりが、回りの人たちとどこかずれているのでしょう。人に好かれたいと思うなら、まずここを改めていくべきです」

 それにはどうするか。焦りは禁物である。枠組みが見えるようになるまで、時間をかけて少しずつ訓練を積み重ねていくしかない。

「人が発する非言語メッセージに注意を向け、なぜこの人はこうするのか、自分はどうしてこうしたのか、その動機を考えてみることです。そうすれば、いつか必ず他人との距離感がつかめるようになるはずです」

Extra Bits 〜もっと知りたい知識のヒント〜

「人間の悩み」を科学する

 加藤先生の研究テーマは「人間の悩み」について究明すること。心理学や精神衛生学など、さまざまな領域の知見をもとに総合的にアプローチする。

 その分析手法はまず、悩んでいる人の手紙や手記を無数に読み、それを類型化して原因と対処法を考えていく。そのことで、不安や甘え、心の傷などといった、既存の心理学や精神分析論ではもはや置き去りにされているような事象について考え直し、新たな視点から光を当てることに取り組んでいる。

 その際、悩みの深さは何らかの形を借りて必ず外側に現れるという仮説のもと、悩める人の表情や姿勢、声の特徴、手紙の書き方、自殺者の顔の表情についても分析し、関連性を見出す作業を続けている。加藤先生によれば、それは「苦悩する人が表す病理的表現の研究であり、また現代における新しい悩み症候群を発見する試みでもある」という。そこには、文学部で扱われる心理学とはひと味違う、工学的な発想が生かされるのである。

 そもそも、なぜ理工学部で心理学なのか。先生のWebサイトにはこう書かれている。

―「理学」という文字が含まれているように、(中略)心理学は人間の心と体の関係や行動を解明する学問であり、文科系の知識だけでなく、理科系の発想・技術も大いに有効となります。―

 そうした発想からコミュニケーションの在り方に取り組むのも面白そうだ。

Book Review
 ―コミュニケーションを知るために

やさしい人  ―どんな心の持ち主か
加藤諦三 著/PHP研究所
 多くの人が他人に対して、そして自分に対して求める「やさしさ」の本質とは何か。「やさしい人」とはどんな人物なのか。現代に求められる心の在り方や、やさしくあるための自分との向きあい方について知る一冊。

心の休ませ方 ―「つらい時」をやり過ごす心理学
加藤諦三 著/PHP研究所
 人生には頑張る時と、休む時がある。頑張り続けて疲れた人は、次の幸せに向けて準備をするためにも休む必要がある。「きっと春が来る。それまで休む」と加藤先生が説く、悩める人のための本。

人間関係の病理学
フリーダ・フロム=ライヒマン 著/誠信書房
 著者は精神病の心理療法的治療家で、人間洞察の深さにおいては極めて優れた人である。長いこと増加を続けているうつ病の問題においても「愛」の大切さや家族関係のゆがみなどを説いている。

Message
 ―学生生活を充実させるために

 恋愛上手はコミュニケーション上手
 青春時代に恋愛の悩みはつきもの。どんなに思いが通じあっている二人でも、しょせんは違う環境で育ってきた人間同士。ときにはすれ違いや誤解があるのは当然だ。「ケンカは一つのコミュニケーションだと思い、むしろ感情を表すことが大切」と加藤先生は言う。
 「恋人が自分の誕生日を忘れていたことに気を悪くした男性が、それを言わずに、相手の作った料理の味にケチをつけて気を紛らわそうとする。当然、二人の仲は険悪になり、やがては口論が始まります。でも、いくら『料理』をめぐってケンカをしても、原因は別のところにあるのだから問題の解決にはなりませんね。言いたいことはきちんと言う。こんな基本が大切なのです」

(2005年10月29日掲載)




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First drafted 2005 October 29.