政治経済学部教授 船木由喜彦
政治経済学部教授
船木由喜彦
(ふなき・ゆきひこ)
東京工業大学理学部数学科卒、同大学院システム科学専攻修了、理学博士。現在、早稲田大学政治経済学部教授。ゲーム理論学会(国際学会)、日本経済学会、日本OR学会所属。趣味はゲーム一般(特にコントラクトブリッジ、モノポリー)、スキー、山小舎、インターネット資源の有効活用、研究会とその後の飲み会など。詳細はWEBページを参照のこと。
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ゲーム理論

相互依存関係における、人の意思決定や行動を研究する。

さまざまな分野の学問に応用される「ゲーム理論」

  ゲーム理論は最近いろいろな分野で脚光を浴びている。経済学はもちろんのこと、政治学、社会学、経営学、会計学、心理学、生物学、論理学、工学、オペレーションズリサーチ、コンピュータサイエンスなど、多くの分野で活用されている。現代の生活において誰とも関わりなく、孤島に流れ着いたチャック(トム・ハンクス)のようにすべてを自給自足で暮らすのは不可能である。世の中の経済、社会においては個人やグループの間で常に関わり(相互依存関係)があり、利害の対立や協調関係が現れる。このような状況をゲーム的状況と呼び、いわゆるボードゲームのような「ゲーム」として捉え、そこにおける人々の合理的な意思決定やその行動の結果を厳密に研究するのがゲーム理論である。

 例えば、あなたがある先生の出題したレポート課題に対し、友人の持っていた他人の詳細なレポートのコピーを写すか、独力で問題を解くかという選択に直面しているとしよう。当然、独力でレポートを作成するのは大変だし、他人のレポートの方が良くできているかもしれない。もし、他の学生と全く関係なしに、あなたのレポートだけを先生が評価するのであれば、あなたの選択は一切他の学生と関わりがないのでゲーム的な状況ではない(ただし、先生との間ではゲームである)。したがって、他人のレポートを写すことが賢い選択であるかもしれない。しかし、先生が多数のレポートを同時に採点し、相対的な評価を与えるのであれば、これはゲーム的な状況になり問題はそう簡単に解決しない。例えば、先生が同一のレポートを3通以上発見したらすべてを0点にすると宣言したとしよう。オリジナルのレポート作成者と友人、そして自分の3通が同一となる可能性が高いので、この場合には独自のレポートの方が良いであろう。それでは、先生が4通以上発見したらすべて0点にすると宣言したらどうだろう。オリジナル作成者と友人、自分の3通でセーフだろうか。しかし、もし別の人がそのレポートを写す可能性があればどうか。その可能性があるならば、自分は独力でやった方が良いかもしないが、もしその人が自分と全く同じように考えて写さない方が良いと考えるならば、裏をかいて自分は写した方が良いかもしれない。というように、他の人との関係が現れると問題はとたんに難しくなる。このような問題における合理的な選択とその帰結を考えるのがゲーム理論である(この問題の1つの解答はWebページに載せる予定)。

 ここで述べた問題は身近で小さな問題の1つのように思えるかもしれないが、実は経済における外部性の問題に関係があり、外部性の問題は通常の市場メカニズムではなかなか解決ができない。この問題は環境問題にも通ずる重要な問題であり、ここでもゲーム理論は有力な分析方法を与えてくれる。

協力ゲームの理論と非協力ゲームの理論

 ゲーム理論は数学・コンピュータサイエンス・量子力学等、現代の科学に多大な影響を及ぼしたフォン・ノイマンとオーストリア学派の経済学者モルゲンシュテルンの共著『ゲーム理論と経済行動』(Theory of Games and Economic Behavior)が出発点といえる。その後、ゲーム理論は大いに発展し、1994年にはハルサニ、ゼルテン、ナッシュがノーベル経済学賞を受賞した。彼らの主たる業績は非協力ゲームに関するものである。一方、ゲーム理論の出発点である『ゲーム理論と経済行動』では、かなりの部分が協力ゲームの理論に割かれていた。ゲーム理論は協力ゲームの理論と非協力ゲームの理論とに大別されるので、その違いにも少し触れておこう。

 非協力ゲームの理論はいかなる「手」(戦略)を取るべきかという分析が主要テーマとなるために、「ゲーム」という感覚に近いものであるが、協力ゲームではグループの形成とか、そこでの利益の分配、公平性の問題、費用分担の問題などが主要なテーマとなる。したがって、いわゆる「ゲーム」としては考えにくいかもしれない。最近の経済学で盛んに用いられているのは非協力ゲームで、最近発展した進化ゲーム理論も非協力ゲームに分類される。しかし、ゲーム理論の最初の発展期であった1960年代には協力ゲームが経済学への応用の中心だったし、その後も協力ゲームの理論とその応用の研究は続いている。いずれにせよ、両方の理論とも社会的、経済的問題を分析をするのに役立つことは間違いない。

 最近ではゲーム理論の応用は大変多いので、ここですべてを挙げることはできない。身近な問題への応用の一例としては、「オークションにおける最適戦略」「エスカレータにおける行動の規則性」「投票における投票者のパワー指数」「結婚するカップルの最適なマッチング」「破産者の財産を公平に分配する方法」などが挙げられる。興味を持たれた方は、次の入門書をご覧いただきたい。

 オススメ入門書

理論編
武藤滋夫著
『ゲーム理論入門』
日本経済新聞社、2001年

ステップアップ編
船木由喜彦著
『エコノミックゲームセオリー協力ゲームの応用』
サイエンス社、2001年

応用編
中山・武藤・船木編著
『ゲーム理論で解く』
有斐閣、2000年

(2002年1月10日掲載)




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First drafted 2002 January 10.