失われた公演

東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎
『三人吉三』

公演団体

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場・アーツカウンシル東京/東京都

河竹黙阿弥

監修・補綴

木ノ下裕一

演出・美術

杉原邦生[KUNIO]

宣伝美術

外山 央

宣伝写真

吉次史成

公演日程会場
2020年5月30日(土)~6月1日(月)東京芸術劇場 プレイハウス
2020年6月4日(木)~6月7日(日)東京芸術劇場 プレイハウス
2020年6月20日(土)まつもと市民劇場 主ホール

コメント

稽古開始予定の五日前に緊急事態宣言が発令され、対面での稽古が不可能になってしまいました。この時点で、公演中止という選択肢がはじめて浮上したわけですが、木ノ下歌舞伎と演出の杉原邦生さん、東京芸術劇場さんと協議を重ね、できるところまでオンラインでの稽古を行うことにしました。

幸いだったのは、東京芸術劇場さんの主催事業であったこと。団体や演出家の意思を尊重しつつ、オンライン稽古の運営から予算的なところまで最大限に調整・配慮いただけたことは、今でも深く感謝しております。

この事態がもし、完全自主事業、所謂手打ち公演であったら……と想像すると、背筋の凍る思いがします。経済的なダメージだけでも、私たちのような小さな団体にとっては、二度と立ち直ることのできないほどの致命傷に充分になり得ます。同時に、もっと過酷な状況に立たされている演劇人が数多くいることに胸が痛みました。

なにせ、五時間越えの長尺物ですから、無事、緊急事態宣言が五月上旬に開けたとしても、圧倒的に稽古期間が足りないのは目に見えていました。公演期間を数週間ずらしてはどうか、リハーサル期間を長めにとって少人数での部分稽古を重ねて創作してはどうかなど制作部のみなさんが、常に様々な可能性を考えてくださっていました。結局、緊急事態宣言の延長によって中止の判断をせざる得なくなったわけですが、上演への希望を見失うことなく懸命に戦ってくださった制作部のみなさんが、私にとっては大きな支えでした。

パソコンの画面越しに、公演の中止とその経緯を座組全体に説明したあと、なんとも言えない脱力感と虚無感に襲われました。その数分後、演出の杉原さんから電話。ひとしきり互いにねぎらい合ったあと、「センセイ(私のニックネーム)、次、行こ!」という杉原さんの一言が忘れられません。「これからもお互い頑張ろう」とか「絶対どこかでまた『三人吉三』やろうね」とか「気を取り直して」とか、それら全てを含んだ「次、行こ!」だったように思います。そして、私たちが行かなければならない〈次の世界〉は、当分の間、まだ未知なウイルスが幅を利かせている世界だということも思い知らされました。その現実をどう引き受けるか。試行錯誤は続きます。

木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)/2020年11月20日



稽古開始予定日の5日前に当たる4月8日(水)、新型コロナウイルス感染拡大の状況を受け、話し合いがもたれました。東京芸術劇場プロデューサーの内藤美奈子さん、木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一さん、制作の本郷麻衣さんと共に、稽古及び公演をどうしていくのか、どうしていくべきなのか、どうしたいのか、それぞれの意見を交わし合いました。当時の僕は、公演中止を一刻でも早く決断すべきという姿勢でした。その前月、演出を担当していたスーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』京都公演が3度の初日延期を経て、全公演中止になったときのあの虚無感を、もう一度味わうことに、少なからず抵抗があったのかもしれません。

ですが、僕たちはゼロではない上演の可能性に懸けることにしました。一度目の緊急事態宣言の期限であった5月6日(水)までの間、読み合わせや作品レクチャーなど、リモートで可能な範囲の稽古を試行錯誤しながら進めました。しかし、緊急事態宣言の延長が決まり、その時点で全公演中止の決断をすることになりました。

当時、ベストだと思い選択したいくつもの決断が、結果としてベストであったのかどうか、いまはまだよく分かりません。なぜならまだ、舞台芸術の危機は終わっていないからです。けれど、あんな時間だからこそ感じられた希望も、少なくなかった気がしています。

杉原邦生(KUNIO主宰)/2020年11月20日

関連リンク

http://kichisa2020.com/

資料提供

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場

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