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アントレプレナーが発信する「ストーリーテリング」は、 スタートアップ企業の「資金調達」に影響を与えるか?

〜Martin(2007)論文の追試を通して〜 軸屋 泰隆(早稲田大学大学院経営管理研究科)
根来 龍之(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 / IT戦略研究所所長)

スタートアップ企業は創業初期の脆弱性を乗り越えて、どのように事業成長していくのか。近年多くのスタートアップ企業が創業され、一部の企業は多額の資金調達に成功し、事業を大きく成長させている。スタートアップ企業は、一般的に既存企業に比べれば資金や設備、技術といった経営資源をほとんど持っていない企業が多い。そのため、設立まもない企業に対してリスクマネーを供給し、事業成長の過程において巨額のキャピタルゲインを狙うベンチャー投資家の役割が指摘されている。この際、「資産価値を大きく上回る事業評価」を獲得する一部のスタートアップ企業の存在がある。また、「イグジット」においても、「資産価値」以上の価値評価がなされることがある。このような価値評価に与える要因のうち、本研究は、アントレプレナーの「ストーリーテリング」に着目する。
本研究では、スタートアップ企業のファイナンスの方法を整理し、スタートアップ企業のファイナンスには大きく「イグジット前」と「イグジット時点」のタイミングがあり、それぞれに「ストーリーテリング」による影響があると考える。その上で、「資金調達」を目的変数とした「ストーリーテリング」に関するいくつかの先行研究を参照する中で、Martin(2007)論文に注目した。この論文は、いわゆる著名ジャーナルに発表されたものとしては、アントレプレナーの「ストーリーテリング」と「IPO時点の資金調達」との関係を、1995年?2000年の5年間に米国証券市場に上場したバイオ産業、半導体産業、インターネットサービスプロバイダー産業168社の目論見書を使って分析した、初めての大規模な実証研究である。また、「ストーリーテリング」という概念の数量化を試みた初めての論文となっている。本研究は、Martin(2007)論文を、2016年―2019年の4年間に東証マザーズもしくはJASDAQに上場した「情報・通信セクター」95社のデータを使って追試し、日本市場でも同様の主張が成立するのかを明らかにするとともに、「ストーリーテリング」と「資金調達」との関係性に関する今後の研究への示唆を得ることを目的とする。
追試の結果、本研究はMartin(2007)論文の3つの仮説のうち、起業家のナラティブの中で、企業のために構築された「アイデンティティ」は、「事実の資産情報以上」に、外部資源の獲得に影響を与えるとした仮説が部分的に支持されたことについて注目する。具体的には先行研究と同様、アンプレプレナーのナラティブの中で伝えられるアイデンティティの一部が、既存資源の事実情報を伝える代わりになることがわかった。この追試結果は、アメリカ市場と日本市場という空間軸、1995年-2000年と2016年-2019年の時間軸を超えて、起業家の「ストーリーテリング」による「アイデンティティ」を伝える効果が、スタートアップ企業の「資金調達」に影響を与えている可能性を示唆している。

キーワード

スタートアップ企業、ストーリーテリング、アントレプレナー、資金調達、キャピタルゲイン、Martin(2007)論文

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2021年3月掲載

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