Home Working Paper 袋小路状態の業界の経営戦略
Working Paper Working Paper

袋小路状態の業界の経営戦略

-「やるも地獄やらぬも地獄」の研究- 根来 龍之(早稲田大学大学院商学研究科教授/IT戦略研究所所長)
河原塚 広樹(デジタル経営研究センター)

要旨

デジタル技術の目覚しい発展などをトリガーとした産業構造の大きな変化が起こっていることを背景に、「ビジネスモデルを革新してもしなくても必ずしもうまくいかない状況」に陥っている業界がある。

本稿は、このような袋小路状態を「やるも地獄やらぬも地獄」問題というメタファで捉え、そのような業界に属する企業を、「地獄」の深刻度の観点から分析を行い、理念型としての分類(類型)を提案すること、および類型別の原因と打ち手(可能な対応策)の特性と限界について示唆を得ることを目的とする。

類型分けにおいて、根来 (2005) の「製品代替」の概念に「プロセス代替」という新しい概念を組み合わる。プロセス代替とは、製品・サービスの提供のために使用される資源(人・設備・技術・ノウハウ、取引先)の代替(置換え)のことである。製品代替の「完全・部分」とプロセス代替速度の「速い・遅い」を組み合わせたマトリックスにより、袋小路状態を4つに分類し、各類型(理念型)を「断崖地獄」、「ゆで蛙地獄」、「真綿地獄」、「他人事地獄」と名付ける。各分類の代表事例として、フィルム業界と密接に関わるデジタルカメラの登場、新聞業界におけるデジタル新聞対応、ワープロ業界におけるパソコンの登場、百貨店業界における新興チャネルの登場の4事例の分析を行う。
事例研究の結果、それぞれの類型において次の示唆を得る。

「断崖地獄」においては急速に完全代替が進むことから、ソフトランディングする方法はなく、早い段階で人員と関係取引先、設備といった内部資源の整理をせざるを得ない。

「ゆで蛙地獄」では、完全代替ではあるが、その進行速度がゆるやかであるため、新技術への移行の道を検討し、内部資源を徐々に組み替えることができることがある。

「真綿地獄」においては、部分代替が急速に進むため、既存ビジネスとして残る機能と需要を見極めながら、他事業との複合モデルを目指し、内部資源の振り分けを追求していくことになるが、複合によるコスト増を解決するために、雇用や取引先の部分的削減は避けられない。この削減にはスピードも必要である。

一方、「他人事地獄」においては、部分代替がゆるやかに進むため、市場地位の強い企業においては、現行事業に対する再投資を行うことで付加価値をつけ、代替の進行の状況を見極める受身の対応をとることも場合によって可能である。

キーワード

袋小路状態、代替品の戦略、製品代替、プロセス代替

掲載

2011年9月掲載

PDFファイル

PDF

Working Paper 一覧へ戻る

Page Top