用心はかたく申付たれば是以て御用心に及ばぬ事只おんびんに捨置れよそれとても隣家りんかの事聞捨ならず加勢あらば力なく一矢仕らんと高声にこたへたり両家の人々聞届御神妙〱我人主人持たる身は尤かくこそ有へけれ御用あらは承はらん挑燈ひけと一時にしづまり返つてひかへける一時計たゝかひに寄手はわづか二三人薄手うすでおふたる計にて敵の手負は数しれずされ共大将師直とおぼしき者もなき所に足軽あしかる寺岡平右衛門やかたの内を飛めぐり部や〱は勿論もちろん上は天井下は簀子すのこ井の内迄やりを入てさがせ共師直が行衛しれず寝間とおぼしき所を見れば夜着よぎ蒲團ふとんのあたゝまり此寒夜にさめざるは逃て間なしと覚へたりの方が氣づかはしとかけ行をヤレ平右衛門まて〱と矢間重太郎重行師直を宙にひつ立コレ〱何れも柴部屋しばべやに隠れしを見付出して生捕いけとりしと聞より大勢花に露いき〱いさんで由良助ヤレ出来でかされた手柄てがら〱さりながらうかつに殺すなかりにも天下の執事職しつじしよくすにも礼義有と請取て上座にすへ我々陪臣はいしんの身として御館へふん込狼籍らうせき仕るも主君のあたほうじたさ慮外りよぐはいの程御赦し下され御尋常しんじやうに御首をたまはるへしと相のふれば師直も流石さすのゑせ者わるびれもせずヲヽ尤々覚悟かくこは兼てサア首取油断ゆだんさして抜打にはつしと切ひつばづしてうでねちハアヽしほらしき御手向ひサアいつれも日比の鬱憤うつふん此時と

地:両家の,ハル:両家の地/ハル

色:御神妙

ウ:我

ウ:尤

ハル:有へけれハル

ウ:御用

フシ:しづまり返つフシ

地:一時,ハル:一時地/ハル

ウ:薄手を

ウ:され共

ウ:足軽

ウ:館の

色:飛めぐり

詞:部や

地:表の,ハル:表の地/ハル

色:ヤレ

ウ:矢間

ハル:師直をハル

色:コレ

詞:柴部屋に

地:聞より,ハル:聞より地/ハル

ウ:花に

色:由良助

詞:ヤレ

地:請取て,ハル:請取て地/ハル

色:上座に

詞:我々

地:師直も,ハル:師直も地/ハル

色:ヲヽ

詞:覚悟は

地:油断,ハル:油断地/ハル

ウ:ひつばづして

詞:ハアヽ