婿殿殿殿殿便椿
義と白髪しらがの此首婿殿に進ぜたさ女房娘を先のぼこびへつらひしを身の科においとまを願ふてな道をかへてそち達より二日前に京ちやく若いおりの遊藝ゆうけいが役にたつた四日の内こなたの所存を見ぬいた本蔵手にかゝれば恨をはれ約束やくそくの通り此娘力弥にそはせて下さらば未来永劫みらいゑうこうおんは忘れぬコレ手を合して頼入忠義にならでは捨ぬ命子故に捨る親心推量すいりやうあれ由良殿といふも涙にむせ返れば妻や娘は有にもあられずほんにかうとは露しらず死おくれた計にお命捨るはあんまり冥加めうがの程がおそろしいゆるして下され父上とかつぱとふして泣さけぶ親子が心思ひやり大星親子三人もともにしほれて居たりしがヤア〱本蔵殿君子は其罪をにくんで其人にくまずといへばゑんは縁うらみは恨と格別かくべつ沙汰さたも有べきにとさそ恨に思はれん所詮しよせん此世を去底意そこゐを明て見せ申さんと未前みぜんさつして奥庭おくには障子しやうしさらりと引明れば雪をつかねて石塔せきたうの五りんの形を二つ迄つくり立しは大星が成行果を顕はせりとなせはさかしくムヽ御主人のあたを討て後二君に仕へずきゆるといふお心のあの雪力弥殿も其心で娘をさつたのどうよくは御ふ便びん余つてお石様恨たがわしや悲しいとなせ様のおつしやる事玉椿つばきの八千代迄共いははれず後家ごけに成嫁取た此様なめでたいかなし

上:白髪の

ウ:婿殿に

中:進ぜたさ,フシ:進ぜたさ中/フシ

詞:女房

地:力弥に,ハル:力弥に地/ハル

ウ:未来

詞:コレ

地色:忠義に,ハル:忠義に地色/ハル

上:子

ウ:妻や

ウ:有にも

ウ:ほんに

ウ:死おくれた計に

ウ:捨るは

ウ:冥加の

ウ:恐ろしい

ウ:赦して

スヱ:かつぱとスヱ

中:泣

地:親,ハル:親地/ハル

ウ:大星

フシ:倶にフシ

地:ヤア,ハル:ヤア地/ハル

色:本蔵殿

詞:君子は

地色:未前を,ウ:未前を地色/ウ

ハル:障子ハル

色:引明れば

ウ:雪を

ウ:五輪の

ハル:二つ迄ハル

ウ:造り立しは

フシ:成行フシ

地色:となせは,ハル:となせは地色/ハル

色:さかしく

詞:ムヽ,ノリ:ムヽ詞/ノリ

地:此,上:此地/上

色:悲い