姿宿殿殿殿
しばらくと平右衛門押なだめそばに寄つく〲思ひ廻しますれば主君にお別れなされてよりあたむくはんと様々の艱難かんなん木にもかやにも心を置人のそしり無念をばじつとこたへてござるからは酒でもむりにまいらずば是迄命もつゝきますまいさめての上の御分別ふんべつと無理に押へて三人を三人伴ふ一間は善悪のあかりをてらす障子しやうしの内かけを隠すや⊗月の入山しなゟは一里半いきを切たるちやく子力弥内をすかして正たいなき父が寝姿ねすがたおこすも人の耳ちかしと枕元に立寄くつわにかはる刀の鍔音つばおとこい口ちやんと打ならせば⊗むつくとてヤア力弥かこい口の音ひゝかせしは急用きうようてかひそかに〱友只今御臺かほよ様ゟ急のお飛脚ひきやく蜜事みつじの御状⊗外に御口上はなかつたか⊗敵高師直帰国きこくの願叶ひ近々本国へ罷帰る委細いさいの義はお文との御口上⊗よし〱其方は宿へ帰り夜の内に迎かごいけ〱はつとためらふ隙もなく山しなさして引返す先様子氣と状のふうしを切所へ⊗大星殿由良殿おの九大夫でござる御意得ませうと声かけられ⊗是は久しや〱一も逢ぬ内よつたぞや〱ひたいに其しはのばしにお出かアノ爰な莚破むしろやぶりりめが⊗イヤ由良殿大功たいこう細瑾さいきんをかへり見ずと申が人のそしりもかまはず遊里ゆうりの遊び大こうを立るもとひあつぱれの大丈夫ぢやうふ末頼もしう存るホヲヽ是はかたい

ウ:押な

色:傍に寄

詞:つく〲思

地:醒ての上,中:醒ての上地/中

ハル:御分別とハル

ウ:無理に

中:伴ふ,ウ:伴ふ中/ウ

ハル:善悪のハル

ウ:あかりを

中:かけ

トル:隠すやトル

上:月の

地色:山科ゟは一,ハル:山科ゟは一地色/ハル

中:力弥

ウ:内を

ウ:起すも

ウキン:枕元にウキン

ウ:立寄て轡に

ハル:轡にハル

ウ:こい

色:打ならせば⊗

ハル:むつくとハル

色:ヤア

詞:こい口

地:はつと,ハル:はつと地/ハル

フシ:山科フシ

地:先様,ウ:先様地/ウ

ハル:状のハル

中:切所

詞:大星殿

地:御意,ハル:御意地/ハル

色:声

詞:是は久