は駕にしがみ付泣をしらさじ聞さじと声をも立ずむせかへる情なくも駕舁上道をはやめて急き行母は跡を見送り〱アヽよしない事いふて娘も嘸悲しかろヲゝこな人わいの親の身でさへ思ひ切がよいに女房の事ぐづ〱思ふて煩ふて下さんな此親父殿はまた戻らしやれぬ事かいのふこなた逢たといはしやつたのアヽ成程そりやまあどこらで逢しやつてどこへ別れていかしやつたされば別れた其所は鳥羽か伏見か淀竹田と口から出次第めつぽう弥八種が嶋の六狸の角兵衛所の狩人三人連親父の死骸に蓑打きせて戸板に乗どや〱と内に入夜山仕舞て戻りがけ是の親父が殺されてゐられた故狩人仲間が連てきたと聞よりはつと驚く母何者の仕業コレ婿殿殺したやつは何者じや敵を取て下されのふコレ親父殿〱とよべどさけべど其かひも泣より外の事ぞなき狩人共口々にヲヽお袋悲しかろ代官所へ願ふて詮義して貰はしやれ笑止〱と打連て皆々我家へ立帰る母は涙の隙よりも勘平が傍へ指寄てコレ婿殿よもや〱〱〱とは思へ共合点がいかぬなんぼ以前が武士じやとて舅の死目見やしやつたら恟りも仕やる筈こなた道で逢た時金請取はさつしやれぬか親父殿がなんといはれたサアいはつしやれサアなんとどふも返事は有まい
は駕にしがみ付キ泣をしらさじ聞さじと声をも立ずむせかへる情なくも駕舁上道をはやめて急き行母は跡を見送クり〱アヽよしない事いふて娘も嘸悲しかろヲゝこな人わいの親の身でさへ思ひ切がよいに女房の事ぐづ〱思ふて煩ふて下さんな此親父殿はまた戻らしやれぬ事かいのふこなた逢たといはしやつたのアヽ成ル程そりやまあどこらで逢しやつてどこへ別れていかしやつたされば別れた其所は鳥羽か伏見か淀竹田と口から出次第めつぽう弥八種が嶋の六狸の角兵衛所の狩人三人連レ親父の死骸に蓑打きせて戸板に乗セどや〱と内に入夜山仕舞て戻りがけ是の親父が殺されてゐられた故狩人仲カ間が連レてきたと聞クよりはつと驚く母何者の仕業コレ婿殿殺したやつは何者じや敵を取ツて下されのふコレ親父殿〱とよべどさけべど其かひも泣より外の事ぞなき狩人共口々にヲヽお袋悲しかろ代官所へ願ふて詮義して貰はしやれ笑止〱と打連レて皆々我家へ立帰る母は涙の隙よりも勘平が傍へ指寄てコレ婿殿よもや〱〱〱とは思へ共合点がいかぬなんぼ以前が武士じやとて舅の死目見やしやつたら恟りも仕やる筈こなた道で逢た時金請取はさつしやれぬか親父殿がなんといはれたサアいはつしやれサアなんとどふも返事は有まい
キン:聞さじと声キン
フシ:声をも,中:声をも,ノル:声をもフシ/中/ノル
ハル:立ずむハル
地:情なくも駕,ウ:情なくも駕地/ウ
ハル:駕舁ハル
フシ:道をフシ
地:母は,ハル:母は地/ハル
中:〱アヽ中
ウ:よしないウ
ハル:嘸悲ハル
詞:ヲゝ詞
地:口から,ウ:口から地/ウ
ハル:種が嶋のハル
色:角兵衛色
ウ:どや〱と内ウ
色:内に色
詞:夜山詞
地:聞よりは,ハル:聞よりは地/ハル
ウ:何者のウ
ウ:婿殿ウ
詞:コレ詞
地:よべど,ハル:よべど地/ハル
キン:其かキン
フシ:泣より外,ハル:泣より外,中:泣より外フシ/ハル/中
ハル:外の事ハル
地:狩人共口,ウ:狩人共口地/ウ
色:口々に色
詞:ヲヽ詞
地:笑止,ハル:笑止地/ハル
フシ:皆々フシ
ハルフシ:母はハルフシ
ウ:隙よりも勘ウ
ウ:勘平がウ
中:指寄てコレ中
詞:コレ詞