駿殿
駿殿
たのおもりこたへ兼て居たりしがしほれし眼くはつと見ひらきハア我ながらあやまつたり八嶋の戦ひ義経を組とめんとせし所船八さうを飛こへ味方の船へ引たるは計略けいりやくそこをさぐらん為きやうではなかりしか今又奥へ逃こみしも我計略を知たる故竜顔りやうがんあはせ奉るは武士の情で有たよなアムウ今は助る勝負しやうふかさねていで帰らんそれ迄は教経が隠家へ遷幸せんかうあれふたゝ廣き世となして御母君にも逢せませんいざや御幸みゆきの御供とかきいだき奉る馬手めては長柄の大長刀浮世を牛の車共しろしめされとそうしつゝ立出んとする所にゑいと切声三ふりの太刀音すはやと長刀引そばめ見返る間もなくかけ出る亀井駿河川連法眼めん々血刀首引かゝへ卑怯ひきやうに候能登殿一味の衆徒等一々に此ごとく討取たり天皇をおとりにしてうしろぎたなき足門打たればのがれなしサア勝負しやうぶ降参かうさんか二つに一つの返答へんたうと詞をそろへて云せも果ずぐつとねめ付おとがいのあがくまゝ降参とは儕等が性根しやうねにくらべてぬかしたりな汝等が首一ひつさげていなん事何の手間隙入へきや帝を我に渡したる義経が寸志を思ひ助を有がたいとはぬかさいで逃るなどゝは案外あんぐはい千万供奉ぐぶけがれ思はずばにらみころしてくれんず奴原やつばら飛しさつて三はいよヤア人もなげなる廣言くはうけん組留くみとめはな明さんと三人ぐのてに追取巻すなふみちらしてつめば上には教経韋駄天ゐだてん見下す眼角立てにらみ合たる其中に帝はこはさ玉のきゆる計の御風情

フシ:懲,ノル:懲フシ/ノル

中:居たりしが

地:しほれし,ハル:しほれし地/ハル

色:見

詞:ハア

地:再び,ウ:再び地/ウ

ウ:御母君にも

ハル:逢せませんハル

ウ:かき抱

中:奉る

ウ:馬手は

ハル:浮世をハル

フシ:しめされと奏しフシ

地:立出んと,ハル:立出んと地/ハル

色:太刀音

ウ:すはやと

ハル:かけ出るハル

ウ:亀井

ウ:面々

色:引かゝへ

詞:卑怯に

地:詞を,ハル:詞を地/ハル

色:ねめ付

詞:頤の

地:三人,ハル:三人地/ハル

色:詰寄ば

コハリ:上にはコハリ

ウ:教経

ウ:韋駄天立

下:見下す

ウ:眼

ハル:睨合たるハル

ナヲス:其ナヲス

ウ:帝は

フシ:消る計のフシ