調殿
調殿
ぞやかほど業因ごうゐんふかき身も天道様の御めぐみでふしぎにも初音の鼓義経公の手に入内裏だいりを出れば恐れもなしハツア嬉しやよろこばしやと其日より付そふは義経公のおかげ稲荷いなりもりにて忠信が有合さばとの御くやみせめて御おんおくらんと其忠信に成かはり静様の御難義をすくひました御褒美ほうびと有勿躰もつたいなや畜生ちくしやう清和せいわ天皇の後胤こうゐん九郎義経といふ御姓名せいめいたまはりしは空恐そらおそろしき身の冥加めうか是といふも我親に孝行かう〱つくしたい親大事〱と思ひ込だ心がとゞき大将の御名を下されしは人間のくはを請たる同前どうぜんいよ〱親が猶大切片時へんしはなれず付そふ鼓静様は又我君を恋した調しらべの音かはらぬ音色ねいろと聞ゆれ共此耳へは二親がものいふ声と聞ゆる故呼かへされて幾度いくたびもどつた事もござりました只今の鼓の音は私故に忠信殿君の御不しんかうむつてしばらくも忠臣をくるしますは汝がとが早々帰れと父母がおしへの詞に力なくもと古巣ふるすへ帰りまする今迄は大将の御目をかすめし段お情には静様おわびなされて下さりませとゑんの下よりのび上り我親鼓に打むかひかはす詞のしり声も涙ながらの暇乞いとまごひ人間よりはむつまじく親父様母様お詞をそむきませず私はもふお暇申まするとは云ながら御名残おしかるまいか二親に別れたおりは何にもしらず一日〱立に付しはらくもおそばに居たいうみおんおくりたいと思ひくらし泣しこがれた月日は四百年雨乞あまこひ

ナヲス:かほど,詞:かほどナヲス/詞

地色:ふしぎにも,ウ:ふしぎにも地色/ウ

ハル:初音のハル

ウ:義経公の

ウ:内裏を

中:恐れも

ハル:ハツアハル

ウ:嬉しや

ウ:其

ウ:義経公の

色:おかげ

詞:稲荷の

地色:是と,中:是と地色/中

ハル:盡たいハル

ウ:親

ウ:大将の

ウ:人間の

ウ:親が

ウ:片時も

中:添

ウ:静様は

ウ:恋慕ふ

ハル:音ハル

ウ:かはらぬ

中:聞ゆれ共

詞:此

地色:縁の,中:縁の地色/中

ウ:延上り

ハル:我ハル

ウ:かはす

上:しり声も

中:人間よりは

フシ:睦じくフシ

詞:親父様