殿退
倉殿の御詮義せんぎつよく身の置所なかりしに東光たうくはう坊の弟子河連法眼にかくまはれ心ならざる春を向へしばらくの命をつぐ我姓名せいめいゆづりし其方命まつたく有事我うんのまだつきざる所頼もししよろこばし其みぎりたる静はいかゞ成しぞと御尋有ければ忠信いぶかしげにうけたまりコハ存がけなき御仰八嶋の平家一時にほろび天下一たう凱哥かちどきを上給ふ折からつげ来る母が病氣聞し召及ばれ御いとま給はつて本国出羽へ帰りしは去年三月程なく別れし母が中陰ちういんちう合戦かせんきず口おこづき破傷風はしやうふうと云病と成すでに命もあやうきなかば御兄弟の御中さけ堀川の御所没落ぼつらくと承はる口おしさ胸をいるおもる病氣無念さ余つて腹切んと存ぜしかどせめては主君の御顔ばせ今一はいし奉らんと念願ねんぐはんかなひて本ぶくとげうゐ旅忍びの道中つゝがなく此やかたに御入と承はり只今参つた忠信に姓名せいめいを給はりし静御前を預しなんど御ぢやうおもむかつ以て身に覚へ候はずと云せもあへず氣早きばやの大将ヤアとぼけな忠信堀川のやかたを立退のきし時折よくなんぢ国より帰り静が難義なんぎすくひし故我着長きせながを汝にあたへ九郎義経といふ姓名せいめいゆづり静を預別れし其方世になき我を見かぎつて静を鎌倉へ渡せしな義経が有さがしに来たか只今国より帰りしとはまざ〱敷いつはり表裏ひやうり漂泊へうはくしてもうつけぬ義経たばからんとは推参すいさん也不忠二心の人外にんぐはいアレ引

地色:心,ウ:心地色/ウ

ハル:春をハル

ウ:暫の

詞:我

地:頼もしし,ハル:頼もしし地/ハル

中:悦ばし

ウ:其

ウ:成しぞ

ハル:御尋ハル

ウ:忠信

色:承り

詞:コハ

地:云せも,ハル:云せも地/ハル

色:大将

詞:ヤア

地:不忠,ハル:不忠地/ハル

ウ:二心の

色:アレ