此通り法眼殿の御了簡承はらんと申けるイヤ〱まだ申されぬ法橋殿の御懇意有近比の客僧横川の禅師覚範此場へ参り合さず此了簡も聞ねば云れずなどや遅きぞ待久しといふ間程なく山道をしづ〱歩くる法師は名にしあひたる横川の覚範衣の纈高く取三尺五寸の太刀帯そらし末座にすはれど尺高く僧がらゆゝ敷見へにけるヤア待兼し覚範殿近ふ〱と招寄法眼ずんど立上りコレ〱覚範アレ見られよ霞の中に朧なる二つの山は妹兄山是合躰の哥名所川を隔て西は妹山東は兄山山は二つに別れたり妹は妹弟の義兄山は元より兄頼朝頼朝義経兄弟の中芳野川引わかれし姿は山に異ならずされば哥にも流ては妹兄の山の中に落る吉野の川のよしや世の中と詠だれば世を捨人の我々でも頼にひかぬか但は又浪の白刃で討取氣か手短き返答聞ん申されやつと云ければ思案に及ずずつと立打黙いて蔵王堂にかけ奉る奉納の弓と矢取て弦引し河連殿御覧有手短き我返答山と山との目通りに立たる二木は勝負の目当返答御覧と弦打つがひかたむる迄なくぱつしと放す白矢は兄山の印の木根深にゆつて立たりけり法眼きつと見頼朝に準たる兄の山に弓ひかれしは頼朝に敵対て義経の味方よなムウ〱と計以前の状ぐる〱巻て懐中し山科法橋梅本坊薬医坊も其通や皆一同に義経の味方〱と呼はればムウそれならば
此通り法眼殿の御了簡承はらんと申けるイヤ〱まだ申されぬ法橋殿の御懇意有ル近カ比の客僧横川の禅師覚範此場へ参り合さず此了簡も聞ねば云れずなどや遅きぞ待チ久しといふ間程なく山道をしづ〱歩くる法師は名にしあひたる横川の覚範衣の纈高く取リ三尺五寸の太刀帯そらし末座にすはれど尺高く僧がらゆゝ敷ク見へにけるヤア待チ兼し覚範殿近カふ〱と招寄法眼ずんど立上りコレ〱覚範アレ見られよ霞の中に朧なる二つの山は妹兄山是合躰の哥名イ所川を隔て西は妹山東は兄山山は二つに別れたり妹は妹弟の義兄山は元トより兄頼朝頼朝義経兄弟の中カ芳野川引わかれし姿は山に異ならずされば哥にも流レては妹兄の山の中に落る吉野の川のよしや世の中と詠だれば世を捨テ人の我々でも頼ムにひかぬか但シは又浪の白刃で討チ取ル氣か手短き返答聞ん申されやつと云ければ思案に及ずずつと立打黙いて蔵王堂にかけ奉る奉納の弓と矢取ツて弦引し河連殿御覧ン有レ手短き我返答山と山との目通りに立たる二木は勝負の目当テ返答御覧ンと弦打つがひかたむる迄なくぱつしと放す白矢は兄山の印シの木根深にゆつて立たりけり法眼きつと見頼朝に準たる兄の山に弓ひかれしは頼朝に敵対て義経の味方よなムウ〱と計リ以前ンの状ぐる〱巻て懐中し山科法橋梅本坊薬医坊も其通リや皆一チ同に義経の味方〱と呼はればムウそれならば
フシ:承はらんフシ
詞:イヤ詞
地色:などや,ウ:などや地色/ウ
ハルフシ:いふハルフシ
色:山道を色
ウ:しづ〱歩ウ
ハル:あひたるハル
中:覚範中
ウ:衣のウ
ハル:高くハル
ウ:三尺ウ
中:そらし中
ウ:末座にウ
ハル:尺ハル
フシ:ゆゝ敷フシ
詞:ヤア詞
地色:近ふ,ウ:近ふ地色/ウ
ウ:法眼ウ
ハル:ずんどハル
色:立上り色
詞:コレ詞
地色:頼朝,ウ:頼朝地色/ウ
ハル:芳野川ハル
ウ:姿はウ
中:されば中
ハル:流てはハル
ウ:妹兄のウ
フシ:中にフシ
地色:吉野の,ウ:吉野の地色/ウ
ハル:世のハル
中:詠だれば中
ハル:世をハル
色:我々でも色
詞:頼に詞
地:思案に,ハル:思案に地/ハル
ウ:蔵王堂にウ
ウ:奉る奉ウ
色:弦引し色
詞:河連殿詞
地色:山と,ウ:山と地色/ウ
ウ:勝負のウ
ウ:返答ウ
ウ:かたむる迄ウ
ウ:白矢はウ
ハル:根深にハル
フシ:ゆつてフシ
地:法眼,中:法眼,ウ:法眼地/中/ウ
ウ:頼朝にウ
ウ:頼朝にウ
ハル:義経のハル
中:ムウ,ウ:ムウ中/ウ
ハル:状ハル
ウ:ぐる〱巻ウ
中:懐中し中
詞:山科法橋詞
地:皆,ハル:皆地/ハル
色:呼はれば色
詞:ムウ詞