殿
へ行逃る迚逃さふかと追取まかれてはつととむね先も氣づかひ爰ものがれす七転八倒しちてんばつたう心は早がね時に時つくごとく也ヤアこいつ横道わうだう者儕に今日惟盛が事詮義せんぎすれば存ぜぬしらぬと云ぬける其まゝにして帰せしは思ひよら踏込ふんごまふ為此家に惟盛かくまひ有事所の者より地頭ぢとううつた早速さつそく鎌倉へ早打取物も取あへず来れ共油断ゆだんていは儕を取すまい為サア首討て渡すか但違背ゐはいに及ぶ返答へんたうせいとせめ付られかなはぬ所と胸をすへ成程一たんはかくまひないとは申たれ共あまり御詮義せんぎつよき故かくしても隠されず早先て首討たり御らんに入んお通ともなひ入ば母娘どふ成事と氣遣ふ中鮓桶ひつさげ弥左衛門しづ〱出て向ふになを三位惟盛の首御受取下されよとふたを取んとする所を女房かけ寄ちやつと押コレ親父殿此桶の内にはわしがちつと大事の物を入て置たこなさん明てどふするぞホわれはしるまい此桶には最前さいぜん惟盛卿のお首を討て入たイヤ〱〱此桶にはこなたに見せぬ物が有と引よすれば引もどし儕が何にもしらぬ故イヤこなたがしらぬ故とつまかねと心得てあらそひ果ねば梶原平蔵扨はこいつら云合せしばれくゝれ下知げちの下とつた〱と取まく所に惟盛夫婦がきめ迄いがみの権太が生捕いけどつたり

地色:追取まかれて,ハル:追取まかれて地色/ハル

ウ:先も

詞:ヤア

地:叶はぬ,ハル:叶はぬ地/ハル

色:胸を

詞:成程

地:御らんに,ハル:御らんに地/ハル

ウ:どふ

中:氣遣ふ

ウ:鮓桶

色:直し

詞:三位

地:蓋を,ウ:蓋を地/ウ

ハル:女房ハル

色:押へ

詞:コレ

地:引寄れば,ハル:引寄れば地/ハル

詞:儕が

地:妻は,ハル:妻は地/ハル

フシ:あらそひフシ

地:梶原,ハル:梶原地/ハル

詞:扨は

地色:しばれ,ウ:しばれ地色/ウ

ハル:捕たハル

フシ送り字/翻刻になし:フシ送り字/翻刻になし

詞:惟盛,ノリ:惟盛詞/ノリ