殿付をなされてさりとては氣の毒やつぱり弥助どふせいかうせいとお心安ふナ申イヤ〱それは赦して下されソリヤ又なぜでござりますさればいの弥助といふ名は是迄連合の呼名殿付せずにどふせいかうせいとは勿躰なふて云にくい云馴た通殿付さして下されと実夫をば大切に思ふ掟を幸に娘へ是を聞がしの母の慈悲とぞ聞へけるお里弥助は明桶を板間へ並て居る所へ此家の惣領いがみの権太門口より乙声で母者人〱と云つゝ入ばお里は恟り又兄様かよふお出ともみ手するきよと〱しい其頬何じやよふ来たが恟りかわりや弥助とうまい事して居るそふながコリヤ弥助もよふ聞今追出されて居ても竃の下の灰迄おれが物けふは親父の毛虫が役所へいたと聞たによつて少母者人にいふ事が有て来た二人ながら奥へうせうと睨廻されうぢ〱と是にといふて立弥助娘も跡に引添て一間へこそは入にけれ跡に母親溜息つきコリヤ又留守を考無心に来たか性懲もないわんばく者其儕が心から嫁子が有ても足ぶみ一つさす事ならぬ聞きや此村へ来て居るげなが互にしらねばすれ合ても嫁姑の明瞽眼つぶれと人々に云れるが面目ないヘヱヽ不孝者めと目に角を立かはつたる機嫌にぐんにやり直ではいかぬといがみの権思案しかへて申母者人今晩参つたは無心
殿付ケをなされてさりとては氣の毒やつぱり弥助どふせいかうせいとお心安ふナ申イヤ〱それは赦して下されソリヤ又なぜでござりますさればいの弥助といふ名は是迄連レ合イの呼名殿付ケせずにどふせいかうせいとは勿躰なふて云いひにくい云馴た通リ殿付ケさして下されと実夫トをば大切ツに思ふ掟を幸イに娘へ是を聞がしの母の慈悲とぞ聞へけるお里弥助は明キ桶を板間へ並て居る所へ此家の惣領いがみの権太門口より乙声で母者人〱と云つゝ入レばお里は恟り又兄様かよふお出ともみ手するきよと〱しい其頬何ンじやよふ来たが恟りかわりや弥助とうまい事して居るそふながコリヤ弥助もよふ聞ケ今追出されて居ても竃の下の灰迄おれが物けふは親父の毛虫が役所へいたと聞たによつて少母者人にいふ事が有ツて来た二人リながら奥へうせうと睨廻されうぢ〱と是にといふて立ツ弥助娘も跡に引添て一間へこそは入にけれ跡に母親溜息つきコリヤ又留守を考無心に来たか性懲もないわんばく者其儕レが心から嫁子が有ツても足ぶみ一トつさす事ならぬ聞きや此村へ来て居るげなが互イにしらねばすれ合フても嫁姑の明瞽眼コつぶれと人々に云れるが面目ないヘヱヽ不孝者めと目に角を立テかはつたる機嫌にぐんにやり直ではいかぬといがみの権思案しかへて申シ母者人今晩参つたは無心
地:実,ウ:実地/ウ
ハル:大切にハル
ウ:掟をウ
ウ:幸にウ
ウ:娘へウ
フシ:母のフシ
地色:お里,ウ:お里地色/ウ
ウ:板間へウ
ウ:並てウ
色:所へ色
ウ:此ウ
ハル:門口よりハル
色:母者人色
ウ:云つゝウ
ハル:お里はハル
詞:きよと〱しい詞
地色:睨廻され,ハル:睨廻され地色/ハル
中:是に中
ウ:いふてウ
ハル:立ハル
ウ:娘もウ
フシ:一間へフシ
地色:跡に,ハル:跡に地色/ハル
色:溜息色
詞:又詞
地:互に,ハル:互に地/ハル
ウ:しらねばウ
ウ:嫁ウ
ウ:眼ウ
ウ:云れるがウ
ウ:不孝者めウ
ウ:かはつたるウ
中:ぐんにやり中
ウ:直ではウ
ハル:思案ハル
詞:申詞