宿西
宿西
みづからや此子は何と成物ぞ情なや悲しやと泣入給ふ御声の耳に通つて手おひは顔を上コレ内侍様六代様あきらめて下さりませ心はやたけにはやれ共もふ叶はぬ我君惟盛様は兼て御出家のおのぞみ熊野浦にてあひ奉りしといふ者有故高野山へと心ざしお二方をお供したれど中々此手では一足も行れずコレ若君様よふお聞遊ばせや御臺様をともなひかみやの宿といふ所に内侍様を残しお前は人を頼んで山へのぼりとゝ様のお名はいはれぬ今道心だうしんの御出家と尋てお逢遊ばせ西も東も敵の中平家の公達きんだちさとられぬ様お命めでたう御成人せいじんの後はゞかりながら金吾めが事思召出されなば一てきの水一の花それが則めいどへ御知行ちぎやう成長せいちやう待ておりますお名残惜なごりおしいお別れといふもせつなきいきづかひ六代君は取すがり死でくれな小金吾そちが死るととゝ様にあふ事がならぬはと泣入給へば内侍はせき上アレ聞てたも子心でもそなた一人を力にする惟盛様に逢迄は死まいぞ〱となせ思ふてはたもらぬ御一は残らずほろひろい世界を敵に持いつ迄ながらへ居られうぞともに殺してたもいのとなげき給へばことはりと手負ておひはいとゞ涙にくれ先君小松の重盛しげもり様は日本聖人せいじん若君は其孫君諸神しよじん菩薩ぼさつめぐみのない事もござりますまい末頼みを思召かならす短氣たんきをお出しなされなあれ〱向ふへ挑燈ちやうちんかげ又も追手の来るも知ず若君ともなひ此を早〱イヤ〱深手ふかでのそな

地:情なや,ハル:情なや地/ハル

ウ:泣入給ふ

中:御声の

ウ:耳に

ハル:手負はハル

中:顔を

詞:コレ

地:憚りながら,ウ:憚りながら地/ウ

ウ:思召

ハル:一滴のハル

ウ:それが

中:御知行

ウ:御成長

ハル:お名残ハル

ウ:いふも

ウ:六代君は

詞:死で

詞:死る

地:泣入給へば,ハル:泣入給へば地/ハル

色:せき上

詞:アレ

地:御一門は,ハル:御一門は地/ハル

ウ:廣い

上:いつ迄

ウ:俱に

フシ:たもいの,キン:たもいのフシ/キン

中:歎き,ノル:歎き中/ノル

ハル:給へばハル

フシ:理りとフシ

地:手負は,ハル:手負は地/ハル

色:涙に

詞:先君