綱がひかへたならばびく共動いて見よ素頭微塵にはしらかし命を取楫此世の出船と刀もぎ取宙に提持て出門の敷居にもんどり打せば死入計の痛をこらへ頬をしかめて起上り亭主めよつく覚て居よ此返報にはうぬが首さらへ落す覚悟せよまだほうげたたゝくかと庭なる碇をぐつと指上微塵になさんと投付れば暴風にあふたる小船のごとく尻に帆かけて主従は跡を見ずして逃失けるホヽウよいざま〱とたばこ盆引よせ何と女房奥のお客人も今のもや〱やお聞なさつたで有ふなと女夫がひそめく咄し声もれ聞へてや一間の襖押ひらき義経公旅の艱苦にやつれ果たる御顔ばせ駿河亀井も跡にしたがひ立出るこは存よりなやと夫も俄に膝立直し夫婦諸共手をさぐれば隠すより顕はるゝはなしと兄頼朝の不享を請世を忍ぶ義経尾形を頼み下らんと此所に一宿せしに其方よくも量知て時政が家来を追退け今の難義を救ふたるは業に似ぬうい働我一の谷を責し時鷲の尾といへる木こりの童に山道の案内させしに山賤には剛なる者故武士となして召つかひしが夫に勝た汝が働天晴昔の義経ならば武士に引上召つかはんに有にかひなき漂白の身と武勇烈敷大将の身を悔たる御詞駿河亀井も諸共に無念の拳を握りける是は〱有
綱がひかへたならばびく共動いて見よ素頭微塵にはしらかし命を取リ楫此世の出船と刀もぎ取宙に提持ツて出門の敷居にもんどり打せば死入計リの痛をこらへ頬をしかめて起上り亭主めよつく覚て居よ此返報にはうぬが首さらへ落す覚悟せよまだほうげたたゝくかと庭なる碇をぐつと指上微塵になさんと投ケ付クれば暴風にあふたる小船のごとく尻に帆かけて主従は跡を見ずして逃ケ失けるホヽウよいざま〱とたばこ盆引よせ何と女房奥のお客人も今のもや〱やお聞なさつたで有ふなと女夫がひそめく咄し声もれ聞へてや一ト間の襖押シひらき義経公旅の艱苦にやつれ果たる御顔ばせ駿河亀井も跡にしたがひ立出るこは存よりなやと夫トも俄に膝立テ直し夫婦諸共手をさぐれば隠すより顕はるゝはなしと兄頼朝の不享を請世を忍ぶ義経尾形を頼み下らんと此所に一ツ宿せしに其方よくも量知て時政が家来を追イ退け今の難義を救ふたるは業に似ぬうい働我レ一の谷を責し時鷲の尾といへる木こりの童に山道の案内させしに山賤には剛なる者故武士となして召つかひしが夫レに勝た汝が働天晴昔の義経ならば武士に引上ケ召シつかはんに有ルにかひなき漂白の身と武勇烈敷大将の身を悔たる御ン詞駿河亀井も諸共に無念の拳を握りける是は〱有
地:刀,ウ:刀地/ウ
ハル:持てハル
ウ:門のウ
ウ:死ウ
色:起色
詞:亭主め詞
地:庭なる,ハル:庭なる地/ハル
ウ:微塵にウ
ウ:暴風にウ
ウ:尻にウ
フシ:跡をフシ
地色:ホヽウ,ウ:ホヽウ地色/ウ
ハル:たばこ盆ハル
中:引中
詞:何と詞
地色:女夫が,中:女夫が地色/中
ハルフシ:もれハルフシ
中:聞へてや中
ウ:一間ウ
ハル:義経公ハル
ウ:旅のウ
色:やつれ果たる色
色::果色:
フシ:御顔ばせフシ
地色:駿河,ウ:駿河地色/ウ
ハル:立ハル
ウ:こはウ
ウ:夫もウ
色:さぐれば色
詞:隠すより詞
地色:武士に,ウ:武士に地色/ウ
ハル:有にハル
ウ:武勇ウ
ウ:身をウ
入:悔たる入
中:御詞中
ハル:駿河ハル
スヱ:無念のスヱ
詞:是は詞