駿退駿殿
駿退駿殿
身をもはなさず持たれ共又あふ迄のかたみ共思ふて朝夕なぐさめと渡し給へば手に取今迄はさり共と思ふ願ひもつなも切鼓をひしと身にそへてかつぱとふして泣ゐたる亀井六郎すゝみ出長詮義せんぎに時うつり土佐坊が残党ざんとう原討て来らば御大事と重清にいさめられ涙とともに立給へば静は其儘我君の御袖にすがり付わし一人ふり捨られこがれ死に死よりふち川へも身をなげて死る〱と泣さけべば人々も持余もてあまあやまち有ては我君の御名のきずとせん方駿河次郎立寄会釈ゑしやくもなく取て引退のけのしばりなはと鼓のしらべ引ほどき静の小がいな手ばしかくあやまちさせぬ小手しばり道の枯木こぼくに鼓とともにがんじからみにくゝり付サア邪魔じやまはらふたりいざゝせ給へと諸共に道をはやめて急ぎ行跡に静は身をもがき我君のうしろかげ見ては泣ないては見ヱヽどうよくな駿河殿情にてかけられたしばりなはがうらめしい引悲しやおかたみの鼓がそこねう何とせうほどいて死せて下されと声をはかりに泣さけぶは目も当られぬ次第也落行義経のがさじと土佐が郎等ろうどう逸見はやみの藤太数多あまた雑兵ざうひやうめい〱松明たいまつ腰挑燈こしちやうちん道をてらして追かけしが枯木こぼくのかげに女の泣声何者ならんと立寄てサアこいつこそ音に聞義経がおもひもの静といふ白拍子しらびやうし縄迄かけてあてがふたはうまし〱此鼓も義経が重宝ちやうほうせし初音といふ鼓ならん此道筋に判官も隠れ居るにうたがひなし福徳の三年

ウ:身をも

中:持たれ共

ウ:筺共

ウ:なぐさめ

ハルフシ:渡しハルフシ

地:手に,ウ:手に地/ウ

上:今迄は

ウ:思ふ

ウ:綱も

ウ:鼓を

スヱ:かつぱとスヱ

中:泣

地色:亀井,ハル:亀井地色/ハル

色:すゝみ出

詞:長

地:重清に,ウ:重清に地/ウ

ハル:立ハル

ウ:静は

ウ:御袖に

ウ:こがれ

上:渕川へも

ウ:身を

ウ:死る

ウ:人々も

色:持余し

詞:過

ウ:何と

ウ:駿河

ハル:立寄てハル

中:引退

ウ:幸の

ハル:引ほどきハル

ハル:ほどきハル

ウ:静の

中:手ばしかく

ウ:過

ハル:道のハル

ウ:がんじからみに

色:くゝり

詞:サア

地:いざ,ウ:いざ地/ウ

ハル:諸共にハル

フシ:道をフシ

ハルフシ:跡にハルフシ

中:身を

地色:我君の,ウ:我君の地色/ウ

ハル:見てはハル

上:ヱヽ

ウ:どうよくな

ウ:情に

ウ:何と

ウ:ほどいて

ウ:声を

中:目も,フシ:目も,ノル:目も中/フシ/ノル

地色:落行,ウ:落行地色/ウ

ハル:逸見のハル

ウ:数多の

ウ:めい〱

ウ:道を

色:追かけしが

ウ:枯木の

ハル:何者ならんとハル

色:立寄て

詞:こいつこそ

地:福徳の,ウ:福徳の地/ウ