平成30年度(2018) 早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点
機能強化支援事業

サイレント映画鑑賞会とシンポジウム

八千代座に甦る無声映画たち
報告

2018年9月1日、熊本県山鹿市の芝居小屋である八千代座にて、サイレント映画鑑賞会とシンポジウム「八千代座に甦る無声映画たち」を開催した。10時から18時半まで長時間にわたり、のべ360名以上の方々にお越しいただいた。

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第1部は熊本大学の山田高誌准教授の司会のもと、演劇博物館の児玉竜一副館長、熊本大学の山﨑浩隆准教授の挨拶により始まった。まず山鹿市文化協会の木村理郎会長が、山鹿市内の八千代座や日昇館などの映画館における映画上映の歴史を紹介した。次いで、片岡一郎の語りによる『不如帰』、山内菜々子の語りによる『チャップリンの放浪者』が上映され、会場を沸かせた。音楽はどちらも湯浅ジョウイチ氏の楽曲とギターと古橋ゆきのヴァイオリンにより演奏された。第1部の最後には、中村青史元熊本大学教授が、現代の感覚から理解しきれない『不如帰』の境遇の背景を、作者・徳富蘆花自身の出生と重ねて説明し、明治期の習俗の同時代的な位置とともに、その現代的な意義を捉える講演を行った。

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休憩後の第2部のシンポジウム「大正時代の映画と演劇の劇場風景」では、近世から近代にいたる熊本での芝居上演・映画上映文化が多角的な切り口で議論された。まず私は、演劇博物館所蔵の映画チラシ資料群「鶴田コレクション」や楽譜資料群「ヒラノ・コレクション」をもとに、サイレント時代の東京の映画館と熊本の映画館の音楽文化の類似性と影響関係について考察を行った。神戸学院大学の上田学准教授は、統計資料などに基づいて1930年代のトーキー時代にこそ地方では映画館数が増大したことを示し、北九州の興行師が熊本県の人吉に進出した際の資料を紹介しながら、映画史のなかでの中央と地方の位置づけの変容を浮かび上がらせた。次いでお茶の水女子大学の神田由築教授は、時代を遡って江戸期の玉名・山鹿での芝居上演の資料を紐解き、熊本藩内での芸能者たちの活動のあり方を考察し、明治期の芝居興行に触れながら映画館興行にも引き継がれる劇場文化の重要性を指摘した。最後に演劇博物館の児玉竜一は、第3部で上映する『忠次旅日記』のフィルム発掘から作品の意義までを紹介したうえで、同作主演の大河内伝次郎を、大河内も所属した澤田正二郎の新国劇における国定忠治の伝統を踏まえて考察した。多彩な話題によるこのシンポジウムは、地方における演劇・映画文化の多彩さも照らし出した。現在の地方の映画文化は、映画館から映画祭まで様々な問題に曝されつつ試行錯誤のなかにあるが、歴史を紐解くと、映画文化・演劇文化はかつてより脈々と息づいていたことが浮かび上がってきた。

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第3部では、早稲田大学演劇博物館所蔵の楽譜資料「ヒラノ・コレクション」の楽譜を用いた『忠次旅日記』の弁士の語り・生演奏つきの上映を行った。片岡一郎氏の語りとともに、東京と熊本の音楽家による特別編成で、ピアノ、ヴァイオリン、フルート、三味線の和洋合奏によって伴奏がつけられ、『忠次旅日記』の魅力が存分に引き出された上映となった。第4部のディスカッションではパネリスト内での質疑応答を経て、会場からのコメントを受け、山鹿での映画体験の紹介や『忠次旅日記』上映への感想などが披露された。

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主催:熊本大学教育学部、早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点、一般財団法人山鹿市地域振興公社
後援:熊本大学、熊本県教育委員会、山鹿市教育委員会
協賛:千代の園酒造(株)
協力:KONJIKI PROJECT、亀寿し、熊本市電気館、湯宿湶、国立映画アーカイブ