テーマ研究9「寺山修司の創作―一次資料から明らかにする活動実態―」

    研究代表者 岡室美奈子(早稲田大学文学学術院教授)
    研究分担者 竹本幹夫(早稲田大学文学学術院教授)
          梅山いつき(日本学術振興会特別研究員PD)

 ○研究成果概要(平成25年度)
 2013年4月から2014年3月まで、演劇博物館が田中未知氏の寺山コレクションを寄託する運びとなり、資料の大部分がオランダの田中氏の自宅から演劇博物館に移送された。演劇博物館は寄託を記念し、企画展「いまだ知られざる寺山修司」展を11月26日から2014年1月25日にかけて開催することになった。そうした動きを受け、本研究では移送された資料を用い、特に十代、二十代の頃の初期活動に関係する資料を調査した。
 初期作品は俳句、短歌、詩などの文学作品、ラジオ、テレビ、映画といった放送作品が中心を占める。寺山の初期文学作品については、田中氏が近年調査に力を注いでいる分野である。そこで、企画展開催期間に2度ギャラリートークを開催し、初期文学作品について、寺山と言葉という観点からお話しいただいた。大学中退後、寺山は放送作家として歩み始めるとシナリオライターとして数々の賞を受賞する。シンポジウム「いまだ知られざる寺山修司―ドキュメンタリーとフィクションのはざまから―」では、今野勉氏(テレビマンユニオン取締役最高顧問)をはじめとするテレビ業界で第一線を走るプロデューサー、研究者をお招きし、寺山が構成したテレビ番組の実験性や社会的意義について検証した。
 本研究は寺山がどういった過程を経て作品の完成に至ったかを調査するものだが、そのためには実践の立場からの検証も必要である。そこで、演出家・劇作家・作家である宮沢章夫氏と批評家・佐々木敦氏、そして本研究代表者・岡室による鼎談「テラヤマシュージ・リローデッド」を開催し、寺山の演劇理論と創作手法をめぐって議論し、その今日的意義を確認した。また、初期演劇作品『毛皮のマリー』を演出家・桐山知也氏の指導のもと、早稲田大学の学生と作品分析を行い、その成果報告としてリーディング公演を開催した。
 今回調査対象としたのは、寺山の創作において原点に位置する作品群であり、言葉を表現手段にしていた時代にあたる。俳句から出発し、放送作品、そして後に演劇へと表現手段は変容を遂げていくが、言葉は創作の重要な一要素であり続けた。プライベートなものとして書き綴っていたノート類やスクラップブックの調査からは、どういった思想や作品から影響を受けて文体が形成されたのか、またどのような交友関係が寺山の文章を育てたのかの一端を知ることができた。このように本年は資料調査に加え、有識者を招いた研究集会を開催することで検証を深めると共に、研究成果の一般公開を行った。