ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所 第三回研究会報告


2010年4月3日「中世ヨーロッパの異端と神秘主義」と題して、早稲田大学で第三回研究会が開催されました。
プログラムは以下の通りです。
(それぞれのお名前は報告要旨記事にリンクしています。)

第一部:西欧の神秘主義
司会 甚野尚志(早稲田大学文学学術院)

報告 
細田あや子(新潟大学)「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの救済論―ヴィルトゥテスのモティーフを中心に―」
村上 寛(早稲田大学大学院博士課程)「自由心霊派とマルグリット・ポレート」

第二部:ビザンティン・ロシアの異端
司会 益田朋幸(早稲田大学文学学術院)

報告 
草生久嗣「ビザンツの「神秘思想」と「異端」:コンスタンティン・クリュソマルロスの事例(1140)を題材に」
三浦清美(電気通信大)「中世ロシア異端の系譜と古儀式派」


第一部では西欧の神秘主義をテーマに細田氏、村上氏よりご報告いただきました。

細田氏は、ヒルデガルトのヴィルトゥテスvirtutesの概念を、その救済論、宇宙論、世界観と関連させて考察されました。ヴィルトゥテスは神から発して天上と地上を往来し、人間をはじめとする被造物が神による宇宙全体と調和するために働きます。写本挿絵に描かれたそのモティーフは図像学上でも興味深いテーマであることが明らかになりました。





村上氏は、1310年に在俗女性宗教集団(ベギン)の一人として処刑されたマルグリット・ポレートの思想と、当時の異端運動であった自由心霊派との関係を報告されました。双方の資料に論理的な構造上の共通点が見られる一方で、個人の魂と神との関係性においては完全に発想を異にすることが指摘され、ポレートはベギンとともに自由心霊派の形成に巻き込まれたと結論付けました。


第二部ではビザンティン・ロシアの異端について、草生氏、三浦氏よりご報告をいただきました。

草生氏は、12世紀半ばにクリュソマルロス(生没年不詳)の遺著が異端断罪された事例を巡り、当時の神秘思想や異端の定義付けを検証されました。その著作に正統派の新神学者シメオン(949-1022)の引用があることから、異端の断罪は、教会制度の教義的な偏向によってではなく、社会問題を解決する方法の一つとして行われたと結論されました。





三浦氏は、ロシア正教における異端の系譜を10世紀から17世紀まで詳細な資料とともに紹介されました。ロシアの異端活動は、色濃く残るスラヴ的な伝統を背景に、中世共和都市の興隆や修道院勢力の拡大、典礼の改革期など、社会が危機的状況を乗り越え、一端崩壊した秩序から新しい秩序が生まれ出ようとする時期に現れることを指摘されました。



今回は異端をキーワードに東西の具体的な事例が明らかになりました。
質疑が相次ぎ、時間切れになってしまったことが残念でなりません。

新学期明けという多忙な時期であったにも関わらず、先回に引き続き盛況でありましたことをご報告するとともに、足をお運びくださいました方々に、改めて深く御礼申し上げます。


                                        (文責:毛塚)

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