コンディショニングと栄養

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アスリートと食欲調節

早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授
宮下政司

 運動と食欲との関係を検討した実験室で実施された多くの研究によると、運動後のアンケートによる主観的食欲度は一時的に低下すると言われています1)。この現象は「運動誘発性食欲不振」と呼ばれています。個人の日常活動レベルや体力レベルが研究間で異なっているため、実験の結果を単純に比較できませんが、体力を把握する上で一つの指標とされています最高酸素摂取量の60%以上の運動強度で運動を行うと、その後主観的食欲度の低下を確認しています1)。ただし、レジスタンス運動では有酸素性運動と比較し、運動後の主観的食欲度の低下の程度は小さく2)、かつ一貫した結果が得られていません1)。運動後の主観的食欲度の低下は、概ね運動30分から60分後に運動前の値に戻ります。よって、「運動誘発性食欲不振」は、一時的な生理応答であり、主に消化管から分泌される食欲関連ホルモンにより調整されています1)。しかし、有酸素性運動やレジスタンス運動を実施した同日のその後の食事摂取量については、運動を実施しない場合と比較し変化しないと報告されています3)。このことは、運動によるその後の食事摂取量を増加させることなく、運動を実施していない日と比較して、一日全体のエネルギー摂取量は減少することを示唆しているため、体重管理を目的とした運動の有用性を示す根拠となりますが、アスリートにとって運動後の素早い栄養補給が難しい状況を意味し、さらにコンディショニングや回復のための望ましい栄養摂取ができていないことを表しています。

 ここで、具体的な例を一つ挙げます。スポーツ現場における調査では、運動後に十分な食事量を摂取できていないことが報告されています。例えば、ボート選手である男女を対象に4週間のトレーニング前後における、エネルギー消費量、安静時の代謝量、体組成、運動パフォーマンスおよび疲労感を検討した研究において、エネルギー消費量が増加しているのにもかかわらず食事摂取量に変化はみられなく(相対的エネルギー不足の状態)、安静時の代謝量や体重の低下、さらに主観的疲労度の増加や運動パフォーマンスの低下も併発したことを報告しています4)。つまり、日々の強度の高い運動かつ長時間の運動に伴い食事摂取量が低下し、運動パフォーマンスの抑制や疲労回復の遅延が引き起こされやすいことを表しています。

 アスリートにとって、運動後に一時的な食欲の低下を招く状態でもあっても運動後の素早い栄養補給は、活動筋におけるグリコーゲン(筋肉に蓄えられている多糖で、エネルギー源となります)の回復や筋タンパク質の合成を促進するという観点から「運動直後からその後2時間まで」に摂取することが望ましいとされているため5)、重要です。この運動後の一時的な食欲の低下を抑制するための打開策として研究が行われています。例えば、運動を行う環境を低温にする寒冷暴露は、運動後の食事摂取量において、高温環境下に比べ高値を示すと報告されています6)。また、食事前の飲料の温度を冷水でなく、温水を摂取することで、その後の食事摂取量が高値を示すと報告されています7)。ただし、アスリートを対象として運動後の食欲を増加させる取り組みについて、十分な学術的データの蓄積が不足しているため、有用性を示すことができる打開策の検討がさらに必要です。

 運動後の一時的な食欲不振の状態をいち早く回避し、運動で消費したエネルギーを食事で十分に補うことが、アスリートにとって肝要です。

参考文献

1) 
Dorling J, Broom D,Burns S, Clayton D, Deighton K, James L,King J, Miyashita M, Thackray A, Batterham L, Stensel D. Acute and chronic effects of exercise on appetite, energy intake, and appetite-related hormones: The modulating effect of adiposity, sex, and habitual physical activity. Nutrients 10(9):1140, 2018. doi: 10.3390/nu10091140.
2) 
Broom D, Batterham R, King J, Stensel D. Influence of resistance and aerobic exercise on hunger, circulating levels of acylated ghrelin, and peptide YY in healthy males. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 296: R29-R35, 2009. doi: 10.1152/ajpregu.90706.2008.
3) 
Deighton K, Stensel D. Creating an acute energy deficit without stimulating compensatory increases in appetite: Is there an optimal exercise protocol? Proc Nutr Soc 73: 352-358, 2014. doi: 10.1017/S002966511400007X.
4) 
Woods A, Garvican-Lewis L, Lundy B, Rice A, Thompson K. New approaches to determine fatigue in elite athletes during intensified training: Resting metabolic rate and pacing profile. PLoS ONE12: e0173807, 2017. doi: 10.1371/journal.pone.0173807.
5) 
Kerksick C, Arent S, Schoenfeld B, Stout J, Campbell B, Wilborn C, Taylor L, Kalman D, Smith-Ryan A, Kreider R, Willoughby D, Arciero P, VanDusseldorp T, Ormsbee M, Wildman R, Greenwood M, Ziegenfuss T, Aragon A, Antonio J. International Society of Sports Nutrition Position Stand: Nutrient timing. J Int Soc Sports Nutr 14: 33, 2017. doi: 10.1186/s12970-017-0189-4.
6) 
Wasse L, King A, Stensel D, Sunderland C. Effect of ambient temperature during acute aerobic exercise on short-term appetite, energy intake, and plasma acylated ghrelin in recreationally active males. Appl Physiol Nutr Metab 38: 905-909, 2013. doi: 10.1139/apnm-2013-0008.
7) 
Fujihira K, Hamada Y, Yanaoka T, Yamamoto R, Suzuki K, Miyashita M. The effects of water temperature on gastric motility and energy intake in healthy young men. Eur J Nutr 59: 103-109, 2020. doi: 10.1007/s00394-018-1888-6.

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