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女性アスリートの貧血と食事

日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士 鈴木いづみ

貧血はアスリートのパフォーマンスを低下させる

貧血とは赤血球およびヘモグロビンが少なくなった状態を言います。WHO(世界保健機関)が公表している判定基準1)によると、血液1dlあたりのヘモグロビン量が成人男性13.0g以下、成人女性12.0g以下で貧血と判定されます。貧血になると、立ちくらみ、めまい、頭痛、疲労感などさまざまな不調に見舞われます。酸素運搬に働くヘモグロビンが少なくなり、体内が酸欠状態となったためです。アスリートの場合は、運動中に骨格筋が大量の酸素を必要とすることから、血中ヘモグロビン量の低下はパフォーマンスの低下につながりやすくなります。特に有酸素的にエネルギーを生み出す持久系アスリートは貧血の影響を強く受けるため、貧血予防を心がける必要があります。

アスリートはなぜ貧血になりやすいのか

アスリートが貧血に陥りやすい原因は大きく2点で、ヘモグロビンを構成する鉄の損失量増大と鉄供給不足です。アスリートは、激しいトレーニングによる消化管出血、汗への鉄の流出、ジャンプなど物理的衝撃による溶血、筋肉の損傷等で体内鉄を失いやすい状況にあります。そのため十分な鉄供給が必要です。しかし、アスリートは鉄供給不足に見舞われやすくなっています。それは、減量のための食事制限や、ハードなトレーニングによる食欲不振等の理由により食事量が少なくなることがしばしばあるためです。これに偏食や朝食の欠食習慣が追加されれば鉄不足に追い打ちをかけます。さらに、ハードなトレーニングが続くことによって消化吸収能が低下し、食べているのに吸収されないという問題も起こりやすくなります。これらのことから、アスリートは貧血のハイリスク者といえます。

貧血を予防するための食事

貧血予防のために十分に摂取したいのは、ヘモグロビンの材料となる鉄とたんぱく質です。また、造血に関わるビタミン(ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸)や鉄吸収を高めるビタミンCの摂取も重要です。しかし、貧血予防のために重視すべきことは、エネルギー(糖質)をしっかりとることと、動物性たんぱく質の摂取量を増やすことなのです。

ごはん(米)をちゃんと食べる

よいトレーニングを行うためにはそれに見合ったエネルギーが必要です。そのエネルギー源はごはん、パン、めん類などに多く含まれる糖質です。ところが太ることを恐れて、主食となるこれらの食品を極端に減らしてしまう女性アスリートは少なくありません。その結果、トレーニングに必要なエネルギーの一部を体タンパク質から賄うことになります。これではせっかくのたんぱく質を造血にまわすことができません。また、造血時にもエネルギーが必要であり、糖質由来のエネルギーが使われます。しかし、ごはんを少なくしている、あるいはまったく食べないアスリートは燃料不足により血液を十分に作ることができません。かつて、1日3食ひじきだけ食べているという女性アスリート集団がいました。その理屈は、太りたくないからごはんは食べない、でも貧血になりたくないから鉄はとる、というものでした(ちなみに最近のひじきは加工時に鉄釜ではなくステンレス釜を使用するため、鉄含有量は少なくなっています)。しかしその努力も虚しく、後に貧血者が続出するという結果に終わりました。これは、鉄だけとってもエネルギー不足では貧血を予防できないということのわかりやすい事例です。血液検査をして赤血球やヘモグロビンが低値である場合は、まずは「ごはんをしっかり食べているか」を確認することが大切です。

魚や肉をちゃんと食べる

体内の鉄を増やすための定番食品といえばレバー、ほうれん草、大豆製品でしょう。しかし興味深いことに、魚介・肉類からの鉄摂取量と貯蔵鉄の指標となる血清フェリチンが正の相関関係にある2)という報告があります。ほうれん草やひじきをとることも大切ですが、「魚や肉を継続的に食べることも大事」ということです。著者のサポート事例では、全国大会出場レベルの高校生女子バスケットボール選手において、たんぱく質の総摂取量に占める動物性たんぱく質の割合を示した動物性たんぱく質比が50%に満たない者ほどヘモグロビンが低い傾向にありました。

以上のことから、貧血予防のために食事で気を付けることは何か特別なことをしたり、特別なものを食べたりするのではなく、実はいたってシンプルです。ごはんをちゃんと食べること、魚・肉の主菜をちゃんと食べること、欠食しないこと、この3点に尽きます。それらがしっかりできているか、いま一度食生活を振り返ってみましょう。

潜在性の鉄欠乏を監視することが大切

貧血になってから食事改善をしても体内鉄を回復することはできません。鉄剤の内服等の医療介入が必要であり、少なくとも半年間はかかります。そうなると競技復帰までに時間がかかるため、その前に手を打つ必要があります。食事改善をして体内鉄を回復できるのは鉄欠乏性貧血の一歩手前である「潜在性鉄欠乏」の段階です。これはフェリチンやトランスフェリン飽和度(血清鉄(Fe)÷総鉄結合能(TIBC)×100)を評価することで確認することができます。ヘモグロビンが正常でもこれらが低下傾向にあればいずれ貧血になる可能性が高くなります。その時点ですぐに、ごはんをちゃんと食べているか、肉・魚をちゃんと食べているか、欠食していないかを確認し食事改善を図りましょう。もちろん鉄摂取量を増やすことも忘れずに。

参考文献

1)
WHO Scientific Group on Nutritional Anaemias & World Health Organization. Nutritional anaemias: report of a WHO scientific group [‎meeting held in Geneva from 13 to 17 March 1967]‎. World Health Organization, Switzerland, 1-37, 1968.
2)
亀井明子, 石田裕美, 上西一弘, 鈴木久乃: くり返し測定による血中の鉄関連指標の変動と長期間の鉄摂取量との関係ー若年成人女性の場合ー, 栄養学雑誌, 61(2): 99-108, 2003.

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