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月経周期とウエイトマネジメント

早稲田大学スポーツ科学研究センター 研究助手
公認スポーツ栄養士 亀本佳世子

アスリートが、競技力向上のための体づくりや試合に向けたコンディションの調整を行ううえで、体重や体組成は重要な指標のひとつです。減量または増量のための取り組みとして、まず考えられるのが運動や食事量の調整ですが、月経を有する女性アスリートは、月経周期を考慮することが、より良いウエイトマネジメントにつながる可能性があります。

アスリートの月経周期と体重・体組成

日本の女性トップアスリートを対象とした調査によると、7割以上のアスリートに月経(生理)前数日から月経開始直後にかけて体や心に様々な不調を起こす「月経前症候群(Premenstrual Syndrome: PMS)」の症状があり、そのうち最も多かった症状は体重増加であると答えています1)。このことから、多くの女性アスリートは体重・体組成管理を行ううえで、月経周期を考慮する必要があると考えられます。それでは実際に、月経周期で体重や体組成は変化するのでしょうか、さらになぜこのような現象が起きるのでしょうか。

月経周期は、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)濃度が低い卵胞期、エストロゲン濃度が上昇する排卵期、エストロゲンとプロゲステロン濃度が上昇する黄体期に分けられます。体重の増加が報告されている黄体期に血中濃度が上昇するエストロゲンとプロゲステロンは、水分の再吸収を促す働きのあるホルモン、レニンの活性を高めることが報告されており2)、体内の水分貯留の増加が黄体期の体重増加の要因のひとつとして考えられています。また月経周期によって体重の変化を感じる学生アスリートを対象として、月経周期と体重の変化に関する検討を行ったところ、卵胞期、排卵期、黄体期で対象者の平均体重に変化は認められませんでしたが、個人で見てみると最小値が0.2㎏、最大値が1.9㎏と、個人差が大きいことが明らかとなりました3)。以上のことから、月経周期による体重の変化は主に水分量の変化によるものであり、さらにその変化は個人差が大きいと考えられます。そこで、まずは自分の体重が月経周期の影響を受けやすいかどうかを、選手自身が確認することをおすすめします。そのためには日々同じタイミング(起床時、排尿後が望ましい)に体重測定を行い、月経周期によってどの程度変化するのかをチェックします。その結果を踏まえてウエイトマネジメントの計画を立てましょう。

月経周期と食欲

月経前から月経開始後にかけて食欲が亢進する、甘いものが食べたくなるなど食欲の変化を感じたことがある女性は、少なくはないのではないでしょうか。ウエイトマネジメントを行ううえで食欲のコントロールは重要な課題です。ところが月経周期による女性ホルモン濃度の変化が食欲やエネルギー摂取量に影響を及ぼすことが、多くの研究によって明らかになっています。実際に1日のエネルギー摂取量は、卵胞期より黄体期に増加することが多くの研究によって報告されています4)。月経周期によってエネルギー摂取量が変化するメカニズムは明らかとなっていませんが、エストロゲンやプロゲステロンがエネルギー代謝や摂食調整に関わっている可能性が考えられます。エストロゲンは、脳内の視床下部において摂食抑制ニューロンに作用し、摂食を抑える働きがあることが明らかとなっています5)。一方、プロゲステロンは摂食亢進ニューロンの活性を促す作用をもつことが報告されており6)、エストロゲンとプロゲステロンは中枢神経におけるエネルギー出納の調整に関して、拮抗する働きをもつ可能性が示されています。さらにプロゲステロンは胃の働きを亢進する働きがあり、卵胞期よりも黄体期に胃内容排出時間(食物が胃から腸へ移行する時間)が短い、つまり消化が早いことが報告されています7)。このように一時的な女性ホルモン濃度の上昇が脳や消化器などに影響を及ぼし、食欲を亢進させる可能性があるのです。

月経周期によるエネルギー摂取量や食欲の変化は、個人差や個人内変動(食欲の変化を強く感じる時とそうでない時があること)があります。まずは、選手が自分の月経周期と体重や食欲の変化についてチェックしてみましょう。自分自身の“リズム“を把握することで、練習や食事の計画が立てやすくなるはずです。

参考文献

1)
能瀬さやか,土肥美智子,難波 聡,秋守恵子, 目崎 登,小松 裕,赤間高雄,川原 貴: 女性トップアスリートの低用量ピル使用率とこれからの課題, 日本臨床スポーツ医学会, 22: 122-127, 2014.
2)
Stachenfeld NS, Taylor HS. Effects of estrogen and progesterone administration on extracellular fluid. J Appl Physiol (1985) 96(3): 1011-1018, 2004. doi: 10.1152/japplphysiol.01032.2003.
3)
須永美歌子, 亀本佳世子, 山田満月: 月経周期のフェーズを利用したウェイトコントロールプログラムの開発, デサントスポーツ科学, 38: 132-140, 2017.
4)
Dye L, Blundell JE. Menstrual cycle and appetite control: implications for weight regulation. Hum Reprod 12(6): 1142-1151, 1997. doi: 10.1093/humrep/12.6.1142.
5)
Gao Q, Horvath TL. Neurobiology of feeding and energy expenditure. Annu Rev Neurosci 30: 367-398, 2007. doi: 10.1146/annurev.neuro.30.051606.094324.
6)
Stelmańska E, Sucajtys-Szulc E. Enhanced food intake by progesterone-treated female rats is related to changes in neuropeptide genes expression in hypothalamus. Endokrynol Pol 65(1): 46-56, 2014. doi: 10.5603/EP.2014.0007.
7)
Campolier M, Thondre SP, Clegg M, Shafat A, Mcintosh A, Lightowler H. Changes in PYY and gastric emptying across the phases of the menstrual cycle and the influence of the ovarian hormones. Appetite 107: 106-115, 2016. doi: 10.1016/j.appet.2016.07.027.

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