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パフォーマンス発揮のためのメンタルコントロール

早稲田大学スポーツ科学学術院 助教
平尾貴大

プレッシャーによりパフォーマンスが低下する現象は「あがり」と呼ばれます。今回は、脳の機能局在を利用した、誰でも手軽に試すことができる斬新なあがり防止策を一つ紹介させていただきたいと思います。その方法とは、スポーツパフォーマンス遂行直前に、左手でゴムボールを繰り返し握ることです1)

右半球には、スポーツ動作に重要な「空間認知」に関する脳部位が存在します。一方、左半球には「言語野」が存在することが知られています(言語に関する脳活動は、あがりの生起と関係することが示されています)。左手でボールを反復把握すると、把握後に、左半球よりも右半球の活動が増強した状態が持続します2)。この持続した相対的な右半球優勢状態が、あがりの原因となる言語に関連した脳活動を抑制し、スポーツ動作に必要な脳部位を優勢に働かせると考えられています。高強度で長時間把握した際に、把握後にも、右半球優勢な状態が顕著に現れるため2)、なるべく強く長く把握することが、あがり防止効果を得るためには重要だと考えられます。

現在のところ、このあがり防止法には、まだ検証すべき問題も存在します。具体的には、限られた競技場面(テコンドー、体操競技、サッカーのペナルティーキック、バドミントンのサーブにおいて効果が認められています)での検証にとどまっていること、ボールを左手で握るのがなぜあがり防止策となるのか、そのメカニズムについて不明瞭な点が残っていること、といった問題が挙げられます。しかしながら、ボールを握るという簡単な動作だけであがり防止効果が得られることは魅力的であり、今後研究が進むことで、これまでにない簡便で効果的なあがり防止策が確立されると期待されます。

参考文献

1) 
Beckmann J, Gröpel P, Ehrlenspiel F. Preventing motor skill failure through hemisphere-specific priming: Cases from choking under pressure. J Exp Psychol Gen 142(3): 679–691, 2013. doi: 10.1037/a0029852.
2) 
Hirao T, Masaki H. Effects of Unilateral Hand Contraction on The Persistence of Hemispheric Asymmetry of Cortical Activity. Journal of Psychophysiology 33(2): 119–126, 2019. doi: 10.1027/0269-8803/a000215.

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