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アスリートと免疫

早稲田大学スポーツ科学学術院 教授
鈴木克彦

免疫とは、ウイルスなどの病原体が体内に侵入してきたときに、 それに抵抗して打ち勝つ能力を指します。免疫系はストレスに弱く、アスリートの身体にはストレスがかかるため影響を受けやすいとされています。一般に適度な運動によって感染症のリスクは減少しますが、激しいトレーニングは逆に感染を引き起こしやすくなるという複数の調査結果を踏まえて、運動と感染リスクとの関連については「Jカーブモデル」が提唱されています(図1)1)

アスリートは、くしゃみ、鼻汁、咽頭痛を主症状とする上気道感染症(Upper Respiratory Tract Infection: URTI、かぜ症候群)の頻度が一般人より3倍も高く、特にマラソンのような持久系競技では、競技終了後2週間以内に50~70%の選手がかぜ症状を呈し、そのリスクは通常の2~6倍にもなると報告されています2)。またアスリートの遠征時にしばしばみられる嘔吐・下痢症はウイルスや細菌に対する抵抗力が低下し、急性胃腸炎を起こしやすいために発症すると考えられています3)。さらに、アスリートは団体行動や集団生活を行う機会が多く、病原体が伝播しやすい環境にあることも感染症を起こしやすい要因です。

今年は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による外出自粛等で、運動やトレーニングをする機会は減り、体力の低下とともに免疫機能の低下が懸念されています4)。感染症予防のために大切なことは、しっかりと休養と睡眠をとって身体をリカバリーさせること、そして十分な栄養補給をし、免疫機能を低下させないことです5)。また感染リスクを少しでも減らすためには、マスク着用や手指消毒などの対策、冬の時期は気道の乾燥を防ぐため加湿器の使用を励行し、さらに免疫が低下しないように過不足のないトレーニングに配慮するといった基本的な対策が重要です。

参考文献

1)
Nieman DC. Exercise and upper respiratory tract infection. Sports Medicine, Training and Rehabilitation 4:1–14,1993. doi:10.1080/15438629309511960
2)
Gleeson M. The scientific basis of practical strategies to maintain immunocompetence in elite athletes. Exerc Immunol Rev 6:75–101,2000. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10919063
3)
Boggess BR. Gastrointestinal infections in the traveling athlete. Curr Sports Med Rep 6:125–129,2007. doi:10.1007/BF02941154
4)
Khoramipour K, Basereh A, Hekmatikar AA, Castell L, Ruhee RT, Suzuki K. Physical activity and nutrition guidelines to help with the fight against COVID-19. J Sports Sci 1–7,2020. doi:10.1080/02640414.2020.1807089
5)
鈴木克彦, 運動と生体防御, 管理栄養士講座 改定 感染と生体防御, 酒井徹, 鈴木克彦編, 建帛社, 東京, 2018 https://www.kenpakusha.co.jp/np/isbn/9784767906324/

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