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女性アスリートと睡眠

早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授
西多昌規

はじめに

日本の女性アスリートの活躍はめざましく、夏期オリンピックにおける女性アスリートのメダル獲得数は、2012年ロンドン大会で17個、2016年リオデジャネイロ大会では18個と、着実に増えてきています。冬期オリンピックでも、2018年平昌大会では、スピードスケート、カーリングにおいて女性アスリートの活躍が目立ちました。

こういった活躍の裏には、女性アスリートが男性アスリートと比べて不利な点があることも、見逃せない事実です。男性と異なる発育過程やホルモンの分泌、月経、骨格系のアライメントなど、身体生理的な課題があることも明らかにされています。近年では、健康な体で長期的に高い競技力を継続する研究が行われており、女性アスリートの睡眠にも、注目が集まっています。

女性は男性に比べて眠れない?

睡眠においては、女性は男性に比べて損をしています。日本において一般人では、女性は男性に比べて睡眠時間が少ない傾向が報告されています。また、女性の方が男性に比べて主観的な睡眠の質が低いことが知られています1)。女性が感じる主観的な睡眠の質の低さは日本に限ったことではなく、世界中の多くの国で女性の方が不眠の頻度が高いことが報告されています2)

女性に睡眠の問題が多い理由として、抑うつや不安などの症状が多い、月経周期に伴う睡眠構造の変化、女性ホルモンが睡眠に与える影響などが考えられています。月経に伴う貧血も、睡眠の質の低下に関連している可能性もあります。

女性アスリートでは無月経や月経異常、運動性貧血が生じることも少なくないため、こういった身体的要因が睡眠に影響を与えている可能性も考える必要があります。特に重度の月経困難症の女性は入眠潜時(寝つくまでの時間)が長く、睡眠効率(寝床で過ごした時間と実際に眠っている時間の比率)が低いことが知られています3)

女性アスリートと睡眠

国立スポーツ科学センターの星川らは、2014年に韓国・仁川で開催された第17回アジア競技大会の日本人選手817人(男性449人、女性368人)を対象にした主観的な睡眠の質の調査行いました。単変量解析において、性差が睡眠の質の低下に関連し、女性においては起床時間と中途覚醒が、女性特有の因子であることがわかりました4)。順天堂大学の川﨑らが行った調査では、女性215人のアスリートのうち48.8%が睡眠の質の低下を認めることを明らかとなりました5)。また、就寝2時間以内の入浴、飲酒習慣、睡眠時の騒音、月経異常の有無が、睡眠の質の低下と関連があることも見出しました。

トップレベルの女性アスリートが睡眠に悩んでいる様子がわかりますが、背景には競技に伴うプレッシャーだけではなく、月経にまつわる問題もあると考えられます。国立スポーツ科学センターの報告によれば、日本の女性アスリートにおいて、40.7%が月経異常、さらに19.1%が無月経であったとされています6)

女性アスリートの月経異常の発生率が高いのは、female athlete triad(女性アスリートの三主徴)として知られています。摂取・消費エネルギーのバランスが崩れ、視床下部性無月経を引き起こし、長期的には骨粗しょう症にまで至ってしまいます。著者が作成した、現状で考えうるfemale athlete triadと睡眠との関連を模式化した図を示します。

Female athlete triadと睡眠との関連

図1. Female athlete triadと睡眠との関連(著者作成)

このように、女性アスリートは男性アスリートに比べて睡眠の質は低く、背景には月経異常など婦人科的問題の存在が考えられます。しかし、月経異常と睡眠の質の低下との相関はあると考えられますが、因果関係については議論の必要があるテーマです。ただ、アスリートの無月経に関してはエネルギーバランスが影響するため、無月経に関連した睡眠の問題については、特に初期段階においては、エネルギーバランスの改善など栄養面からのアプローチも選択肢に入ると考えられます。

おわりに

女性アスリートは男性アスリートに比べて睡眠の質は低く、競技力の向上も不十分であり、疲労回復も十分に行われていない可能性があります。個人になるべく適したトレーニング環境やスケジュール、就寝環境を整える必要があるでしょう。さらに、女性アスリート特有の問題であるfemale athlete triadおよび月経異常は、睡眠に影響し合うと考えられます。女性アスリートのコンディショニングにおいて、栄養と合わせて、睡眠への介入も重要になってきています。

参考文献

1) 
Lindbdberg E, Janson C, Gislason T, Björnsson E, Hetta J, Boman G. Sleep disturbances in a young adult population: can gender differences be explained by differences in psychological status? Sleep 20(6): 381-387, 1997. doi: 10.1093/sleep/20.6.381.
2) 
Zhang B, Wing YK. Sex differences in insomnia: a meta-analysis. Sleep 29(1): 85-93, 2006. doi: 10.1093/sleep/29.1.85.
3) 
Woosley JA, Lichstein KL. Dysmenorrhea, the menstrual cycle, and sleep. Behav Med 40(1): 14-21, 2014. doi: 10.1080/08964289.2013.829020.
4) 
Hoshikawa M, Uchida S, Hirano Y. A Subjective Assessment of the Prevalence and Factors Associated with Poor Sleep Quality Amongst Elite Japanese Athletes. Sports Med Open 4(1): 10, 2018. doi: 10.1186/s40798-018-0122-7.
5) 
Kawasaki Y , Kasai T, Koikawa N, Hanazato N, Suda S, Murata A, Ozaki R, Nagai S, Matsumura Y, Kaneko H, Kubo M, Osawa A, Nojiri S, Ogasawara E, Sakuraba K, Daida H, Kitade M, Itakura A. Sex differences in factors associated with poor subjective sleep quality in athletes. J Sports Med Phys Fitness 60(1): 140-151, 2020. doi: 10.23736/S0022-4707.19.09875-X.
6) 
能瀬さやか, 土肥美智子, 難波聡, 秋守惠子, 目崎登, 小松裕, 赤間高雄, 川原貴:女性トップアスリートの低用量ピル使用率とこれからの課題, 日本臨床スポーツ雑誌, 22(1): 122-127, 2014.

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