「變屈原と日本の兵隊」の詳細

整理番号 426
識別番号 XJM-49
見出し 變屈原と日本の兵隊
ふりがな
ふりがなの有無 なし
作成組織 E
使用言語 日本語
絵の色
絵柄 あり
紙の色
写真 なし
本文
【ビラ本体画像1】
變屈原と日本の兵隊

 昔支那に屈原といふ劍客があつた。自分の仕へてゐた王様の敵を暗殺して、大に功名を樹てんと志した。
 斯くて屈原はひそかに敵地に入りこんたが、謀破れ目的を達し得なかつた。そこで彼は生きて自分の國に歸を恥ぢ、汨羅といふ河に身を投げて自殺した。
 支那の歷史家は屈原を忠臣烈士の中に數へてゐる。
 だが日本の常識者は屈原の非常識さをあざけり
 「死なずとも、よかる汨羅に、身をすてゝ
   へん屈原の、名をのこしけり」

【ビラ本体画像2】
などとひやかした狂歌師すらあった。この狂歌は有名な狂歌である。
 敗軍ときまつた無用の戰をつゞけて、無益に生命をすてつゝある日本の兵士諸君は右の狂歌をよんで何と思ふか。
 諸君が戰死することによつて、天皇陛下に忠誠を盡す所以であると思つてゐるかも知れぬが、それはとんでもない違ひだ。
 陛下は昭和十六年十月初旬宮中に御前會議を召集あそばされ、陸海軍の巨頭に向つて「日本が此の大戰に參加して英米を敵とすることは斷じて相ならぬ」と仰せられた。狡猾なる軍閥は此の事實をかくして、國民を欺き、忠良なる兵士を誑かし、恐れ多くも天皇の御名を濫用して日本を戰火の中に投げこんだ。
 故に、諸君は陛下及び祖國に忠ならんとして戰つてゐるかも知れぬが、實は陛下の大御心にそむき、祖國の利益に背反して戰つてるのだ。
 諸君はビルマの荒野に戰死することは、天晴れ忠臣烈士の行爲だと思つてゐるが、それは死なずともよかる汨羅に身をすてゝへん屈原の名をのこすと同じことだ。
 常識ある後生の日本人は、諸君の惡戰苦闘を無用、無意味と判斷する。無用無意味の戰に身を殺す諸君は阿房者だと判斷する。
 後世の狂歌は諸君の戰死をよんで
 「死なずとも、よかるビルマに、身を殺し、
   馬鹿兵隊の名をのこしけり。」