コンピュータ援用電磁工学研究

若尾 真治
早稲田大学 大学院先進理工学研究科 電気・情報生命専攻・教授

産業革命以降、人類は化石エネルギーを大量に消費することで技術を発展させ社会を築き上げてきました。 しかしながら、有限である化石エネルギーの残存量は豊潤なものではなく、その代替エネルギー開発の重要性が近年特に指摘されています。 このまま何の対策もたてずに化石エネルギー依存の経済成長を続ければ、将来、深刻な事態になるのは確実です。 使いたいエネルギー量と使えるエネルギー量との間に差異が生じる、いわゆる“エネルギーギャップ”が発生することになります。 また、化石エネルギーの大量消費の代償として、CO2排出による地球温暖化、異常気象などによる被害も既に顕在化しています。

この環境エネルギー問題は、現代社会の根幹に関わる極めて複雑かつ困難な問題であり、一つの特効薬で一挙に解決するようなものではありません。 スポーツの柔道に例えると、“技あり”を地道に積み重ねて何とか判定勝ちに持っていく・・・・そのような試合運びで解決していくしかないのです。 様々な技術分野において“技あり”となりうる術(すべ)をいくつも掛け合わせて行くことが重要です。 単発では十分でなくとも、これらを協同させることではじめて大きな効果を生むことができるのです。

以上のような背景のもと若尾研究室では、電磁エネルギーの応用分野において“利用効率を上げてエネルギー消費・環境負荷を抑える技術開発”、“低炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの利用技術開発”を軸に研究活動に取り組んでいます。いずれの研究テーマにおいても、高速大容量の計算機を用いた大規模シミュレーション(CAE: Computer Aided Engineering)技術を最大限に活用していることが、当研究室の最大の特長です。

現在、大きく二つの班に分かれて研究を行っています。

 

【利用効率を上げてエネルギー消費・環境負荷を抑える技術開発】

従来、電気機器の設計において所望の機器性能を実現するために、基本原理を踏まえながら蓄積技術を駆使し、装置を創造する努力がはらわれてきました。近年、計算機能力の目覚ましい発達により、工学・技術分野へのCAE技術、すなわち数値解析の適用が必須となっています。このCAE技術を機器開発・システム設計段階における特性把握に応用することで、従来の実験や理論解析では得られなかった詳細な情報を抽出することが可能となり、機器の高効率(省エネ)化・信頼性向上・開発コストの削減などが実現できます。

当研究室では、特に、複雑な電磁現象を大規模かつ高精度にシミュレーションできる数値解析技術の開発に取り組んでいます。また、考案した数値解析技術により様々な電磁エネルギー機器の開発・最適化設計を行っています。

 

【低炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの利用技術開発】

自然エネルギーをはじめとする化石燃料の代替エネルギーに関する開発は、未来への持続可能な社会の実現に不可欠な最重要課題です。また、東日本大震災以降、エネルギーセキュリティー向上の視点でも、自然エネルギー利用の重要性は高まっています。このような状況下で、特に太陽光発電に対しては、災害時の自立運転による防災対応電源としての役割以外にも、平常時の電源インフラとして今後どのような役割を担うことが可能なのか、議論が活発化しています。

当研究室では、CAE技術を駆使して、気候に大きく左右される太陽光発電が大量導入されたエネルギーネットワークを対象に、電力貯蔵制御なども含む最適なエネルギーマネジメント手法の開発、統計推測・機械学習の技法も導入した日射予測手法の開発、自然エネルギー利用型分散電源と異種電源とを組み合わせたハイブリット発電システムの開発などを行っています。

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若尾 真治

わかお しんじ

早稲田大学 大学院先進理工学研究科 電気・情報生命専攻・教授

プログラム担当者
専門:電磁エネルギーシステム工学

KEYWORD
利用効率を上げてエネルギー消費・環境負荷を抑える技術開発
低炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの利用技術開発
略歴
1989年 早稲田大学理工学部電気工学科卒業
1993年 早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了・博士(工学)
1993年 早稲田大学理工学部助手
以後、専任講師、助教授を経て
2006年 早稲田大学理工学術院教授
2016年 早稲田大学先進理工学部長兼研究科長 現在に至る