「暮らしとアートの共存を目指したい」
文学部 4年 田島 史也(たじま・ふみや)

戸山キャンパスにて
2024年7月に埼玉県本庄市で行われた、空き家を舞台とした学生主体のアートイベント「静脈街区」を企画・運営した田島史也さん。文学部の演劇映像コースで映画学を専攻する傍ら自主映画の制作にも取り組み、複数の映画祭にノミネートもされています。そんな田島さんに、「静脈街区」のプロジェクトについてや自身の映画制作にまつわる話、今後の展望などを聞きました。
――「静脈街区」とはどのようなプロジェクトですか?

「静脈街区」のメインビジュアル
空き家に学生アーティストを呼んで自由に作品を制作してもらい、芸術祭をやってしまおう、という企画です。“空き家”というエネルギーが枯渇して使われなくなった場所に、“学生”という酸素を送り込むというイメージが、酸素を取り込んだ新鮮な血液を運ぶ肺静脈と重なり、プロジェクト名を「静脈街区」と名付けました。
――プロジェクトを立ち上げる以前は、どのような活動をしていましたか?
大学1~2年生の時は出身地の埼玉県本庄市から通学していたので、通学時間が長くサークルなどに入ることは難しかったのですが、昨年都内に引っ越したら時間に余裕ができたんです。
そこで何かやろうと思い立ち、最初は自分の学んでいる映画に関係する『ぴあフィルムフェスティバル』にボランティアとして参加しました。その後自分でも映画を作って出してみたらノミネートされ、受賞者としても映画祭に参加、その他『TOHOシネマズ学生映画祭』にも実行委員として参加したりと、気付いたら映画祭人間になっていました(笑)。今度は自分でイベントを企画してみたいと思っていた頃に、参加した映画祭で、後に「静脈街区」の共同代表を務めることになる美大生と出会ったんです。
写真左:『TOHOシネマズ学生映画祭』で実行委員を務めた時の写真
写真右:自主制作映画『シャボン玉とんだ』が2023年『渋谷TANPEN映画祭』、『鶴川ショートムービーコンテスト』 にノミネート。写真は『渋谷TANPEN映画祭』のレセプションパーティーでの挨拶の様子。右が田島さん
―― その出会いから、プロジェクトを立ち上げるに至った経緯を教えてください。
彼が「学生アーティストが学外で活躍できる機会があまりない」と口にしていたことがきっかけで、共同プロジェクトを始めることにしました。美術大学の多くは都内近郊に位置していて、上京して通学している学生も沢山います。しかし、都内は場所代が高く、また実力がないと自分の作品を展示できる機会になかなか恵まれないというのです。
もう一つのきっかけは、今後国内の3分の1の住宅が空き家になるだろうというニュースを見たことです。地元のシャッター街の風景とリンクし、どうにか空き家を有効活用できないかと思案していました。そこで、美大生が地方にUターンし、空き家を展示会場として活用すればいいのではと思い付き、今回のプロジェクトが生まれました。

イベント当日に取材を受けている様子。一番左から共同代表・アーティストの大加眞資さん、田島さん、実行委員・アーティストのマスダゲンタさん。 地元に空き家を提供してくれる知り合いがいたことで、本庄市で開催するに至った
――いつ頃から企画し、資金や参加アーティストはどのようにして集めましたか?
2024年の3月ですね。クラウドファンディングで資金を集めました。また、さまざまな企業に協賛のお願いをしに行ったのですが、断られた所もかなり多く…、 精神的に疲れたポイントです。最終的には、本庄市を拠点とする設備工事会社や食品会社に協賛いただくことができました。協賛企業からの応援に応えたいという気持ちがモチベーションにつながったと思います。アーティストについては、関東圏の美術系の大学や専門学校40校に直談判してポスターを送付して参加者を募り、15組の方に参加してもらえました。

参加したアーティストの作品の一部。六つの空き家で展示が行われた
実際開催してみたら、地域住民の方やInstagramで活動を追ってくださっていた方、協賛企業の社長さんや美術系の大学教授など、幅広い層の方に来ていただくことができました。参加したアーティストからも「このような環境で制作できる機会はあまりなく面白かった」と言ってもらえて、最後までやり遂げることができて良かったと感じています。また、今回のイベントがきっかけで本庄市役所の方から「今後のイベントの装飾などを監修してもらえないか」という話もいただけました。街が抱える課題に対して芸術面からできるアプローチを今後も模索していきたいです。

イベント開催時の様子。左上から時計回りに、購入者の名前が刻印された招待券、受付でリストバンドを渡す様子、パンフレット、展示会場
――そもそも映像を好きになったきっかけは何ですか? また、文学部の演劇映像コースに進学した理由を教えてください。
元々大のテレビっ子でした。特に「世界」というワードが付いている番組が好きで、よく見ていましたね。映像が未知のものを自分に教えてくれたり、自分が体験したことのないものを追体験させてくれるような感じが面白かったんだと思います。
文学部の演劇映像コースに進んだのは、出身の早稲田大学本庄高等学院で3年生の時に選択した美術の授業の影響が大きいです。卒業制作で絵を描いたのですが、絵の真ん中にQRコードを置いて、それを読み込むとその絵で表現している世界の映像が流れるという仕掛けを作り、併せて映像制作もしたんです。そこで映像作りが面白いと感じ、映像についてもっと学びたいと思い進学しました。
今は主に映画の歴史や理論について学んでいて、映画の始まりから撮影の手法など、学問の観点で映画を鑑賞しています。ただ、インプットの量に対して相応のアウトプットをしていきたくなり、大学3年生の時から自分でも映画を撮り始めました。
――今後の展望を教えてください。
在学中にもう一度スタッフとして映画祭に参加する予定です。最近はIllustratorを触ることにハマっていて、今後は映画祭広報用のビジュアル制作に取り組もうと思っています。また、自主映画をテーマに卒論を執筆しているので頑張りたいですね。私みたいに大学1~2年生で何もやっていなくても、「やろうと思えば3年生からでも何かしらできます!」ということを皆さんにも伝えたいです。
第882回

取材中の様子
【プロフィール】
埼玉県出身。早稲田大学本庄高等学院卒業。マイブームはアニメ鑑賞で、制作会社ごとに一気見しているそう。好きな食べ物はマルセイバターサンド。 静脈街区Instagram:@jyomyaku_gaiku