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外国にルーツを持つ子どもの教育環境とICT【アジア太平洋研究科】

言語の壁と、相互的な文化理解の壁

大学院アジア太平洋研究科 修士課程 2024年9月修了 小林 雅治(こばやし・まさはる)

外国にルーツを持つ子どもとは、外国出身の親や祖父母、祖先が少なくとも1人以上いるなど、血縁関係や文化的な背景が国外にあるだけではなく、幼い頃に海外から移住してきた子どもも当てはまります。中学2年生の夏、私は家族の都合で米国のジョージア州へ移住することが決まり、米国に住む人にとって、私も外国にルーツを持つ子どもになりました。

米国へ渡ってから数ヶ月間、英語をうまくしゃべることができず、思春期だったことも相まって、学校にうまくなじめない自分に対して嫌悪感や孤独感を抱いていたことを覚えています。そんな感覚を思い出したのは、大学3年生の時でした。大学1年生の時に始めた学童保育施設のアルバイトで、外国にルーツを持つ子どもと出会ったのです。

その子は外国から日本に来て間もなかったため、他の児童との間に言語や文化的な壁があり、コミュニケーションを取ることにストレスを感じているようでした。ですが、私の経験と異なるのは、現在は小学校にもICT教育が普及し、タブレットなどの電子端末が児童たちに支給されているという点でした。そして、これらの電子端末を活用すれば、翻訳機能を使ったり分からない言葉を即座に調べたりできるため、言語や文化の壁を乗り越えやすいのではないかと思うようになりました。このような経緯から、私は大学院に進学し「ICTと外国にルーツを持ち課題を抱える子どもたちへの教育―日本の教育環境の変化と今後の課題について―」というテーマで研究をすることに決めました。

ICT教育のイメージ

まず先行文献からは、日本では外国にルーツを持つ子どもの数が近年急増していることや、その多くが学校でのイジメや居場所の無さ、教員とのコミュニケーション不足といった課題を日本人児童よりも多く抱えていることが分かりました。また、電子端末の普及により音声翻訳などの翻訳機能を気軽に使えるようになっており、教育現場における言語的な支援環境はそれなりに整ってきていることも分かりました。

私自身の研究としては、外国にルーツを持つ子どもやICT教育の実態を調査するために、小中学校の教員の方々へのインタビュー調査および授業の参与観察(※)を行いました。在留外国人の数が多く、ICT教育を積極的に導入している地域かつ、日本語指導を必要としている児童は公立学校に多いというデータから、神奈川県内の公立学校を中心に調査を開始。しかし、教員の方々とのスケジュール調整が難航する上、児童のプライバシー保護の関係もあり、調査対象を探すのに大変苦労しました。そんな中ご協力いただいた方々には感謝の気持ちでいっぱいです。

※調査者自身が調査対象である社会や集団に加わり、長期に接して観察すること。

PCのそばにある書籍は、先行文献として重宝した『ニューカマーと教育:学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』志水宏吉、清水睦美編集(明石文庫)、『外国人の子どもと日本の教育:不就学問題と多文化共生の課題』宮島喬、太田晴雄編集(東京大学出版会)

調査の結果、外国にルーツを持つ子どもの課題は、言語的な壁による影響と並んで、日本の教育環境において日本以外の国の文化を学ぶ機会が少ないことから引き起こされる相互的な文化の理解不足や、教員が外国にルーツを持つ子どもの家庭環境や移住理由を知る機会が少なく、他の児童と同じ接し方をしてしまっていることが大きく影響していると分かりました。

一方、ICT教育の効果としては、電子端末で自分の興味があることを簡単に調べられるようになったため、外国の文化を理解しやすくなったことがあります。またICTを利用することで、教員が児童の意見を可視化でき、授業内容を理解している児童とそうでない児童を確認しやすくなった点が挙げられます。さらに、児童にとってはお互いの意見を確認でき他人の考えを学ぶ機会になっていることが、コミュニケーションの改善につながっていると分かり、外国にルーツを持つ子どもと日本で生まれ育った子どもとの相互理解が深まっていることも判明しました。

アジア太平洋研究科のある早稲田キャンパス19号館のラウンジで課題に取り組んでいるところ

大学院での生活と研究を通して、「教育」が人の人生を大きく左右するものだということを改めて強く感じました。そして、それらの教育を受けた人が集まることで、社会は形成され動いていきます。だからこそ、「教育」は社会の土台だと言っても過言ではありません。微力なものだとしても、今回の研究が今後の教育の支えになることを願っています。また、私自身も今後の教育を支えられるような存在になっていきたいです。

ある日のスケジュール
  • 08:00 起床、朝食
  • 10:30 授業
  • 12:00 昼食
  • 13:00 授業
  • 17:30 夕食(授業がある日はクラスメートと食べに行くことが多いです)
  • 18:30 課題
  • 19:30 お風呂(課題で行き詰ったときには気分転換になります)
  • 20:30 課題・研究活動
  • 22:00 趣味(映画やアニメを見たり、小説を読んだりしています)
  • 24:00 就寝

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