「囲碁は答えが一つじゃないところが面白い」
社会科学部 4年 加藤 優希(かとう・ゆうき)

戸山キャンパス 戸山の丘にて
2021年、女子学生棋士の日本一を決める「第57回全日本女子学生本因坊決定戦」で初優勝し、女子学生本因坊に輝いた加藤優希さん。幼い頃から囲碁を始め、さまざまな大会でタイトルを獲得するなどその才能を発揮してきました。2023年1月には女流棋士特別採用試験に1位で合格し、現在はプロの女流棋士として学業と両立しながら大学生活を送っています。今後の活躍が期待される加藤さんに、囲碁を始めプロを目指したきっかけや困難だったこと、そして将来の展望などを聞きました。
――まず、囲碁を始めた経緯を教えてください。
4、5歳の時に習い事の一つとして始めたのがきっかけです。幼い頃から負けず嫌いな性格だったので、それをよく知る両親から勝負事に向いているのではないかということで、囲碁を勧められました。名古屋に引っ越した小学1年生の時に『ヒカルの碁』(集英社)という漫画に影響を受け、囲碁を打つ人が集まる近所の碁会所にも足を運ぶようになりました。
当時、他にも「中村本因坊」というプロを目指す子たちが集まる教室に通っていたこともあり、切磋琢磨しながら競い合う環境の中で、中学2年生の時には自分も囲碁のプロを目指そうと思っていました。

中学生の時に世界大会に出場した加藤さん
――大学1年生の時に「全日本女子学生本因坊決定戦」で初優勝した際のことを聞かせてください。
この大会で優勝できなければプロになれないと思っていたので、まず、ホッとしたことを覚えています。決勝戦では終盤まで不利な展開が続いたのですが、あえて局面を複雑にするような手を打ち、形勢逆転することができました。この対局を見ていたプロ棋士の友人から「いい手を打ったね」と言われた時はうれしかったですね。
今までで1番緊張したのは高校生の時に優勝した全国大会だったのですが、その時の経験が強いプレッシャーに耐え抜く精神力につながり、逆転勝利をつかむことができたんだと思います。
――その後、どのようにしてプロ棋士になったのですか? 他にも、競技人生で特に印象に残っている出来事はありますか?
囲碁のプロ試験が受けられる年齢制限は22歳までなので、プロを目指すと決めた中学生時代から挑戦し続けてきました。大学2年生の7月からは東京の名門囲碁道場である「洪道場(ほんどうじょう)」に通い、詰めの囲碁を意識して練習するなどより高いレベルで実力をつけることができました。その結果、自分の力を出し切って大学2年生の1月にプロ試験を突破できた経験は、私にとって成長につながる大きな糧になったと思います。プロ試験に合格した時は、家族や友人、道場の先生からたくさんお祝いの言葉を頂きました。

大学2年生の1月、プロ試験合格後に「洪道場」にて
――早稲田大学社会科学部に進学した理由や、進学して良かったことについて教えてください。
元々、高校2年生のうちに棋士になれなかったら大学に進学しようと決めていました。プロ試験は毎年冬に実施されるので、高校3年生でのプロ試験と大学受験が重ならないように、自己推薦での受験を選択しました。
社会科学部を選んだ理由は、同学部出身で数多くのタイトルを獲得し、世界一にも輝いた先輩棋士の一力遼先生の存在が大きいです。また、当時学びたい分野が決まっていなかったので、社会科学部はさまざまな分野を幅広く学べると思い、選びました。入学後に法律の授業を受講したのですが、憲法の仕組みの面白さに気付くなど興味がなかった分野を知ることができ、自分の世界が広がったことが良かったと思っています。

興味のあった地理について学べることも社会科学部を選んだ決め手になったそう
――囲碁の活動と学業をどのように両立してきましたか?
プロになってから、対局は月曜と木曜にあるのでその曜日に授業を入れないよう調整したり、オンデマンド授業を取って効率よく勉強したりするなどを心掛けてきました。大変だったのは、大学1、2年の1月頃にプロ試験を受けた期間でしたね。大学のレポートと期末テスト期間が重なるので、レポートは課題が発表される12月中に書き上げるようにして乗り越えました。同世代の棋士で大学に通う人は本当に少ないので、自分は囲碁の勉強ができず周りに後れを取ってしまうのではと不安に思うこともありました。ただ、そんなときにも上京してから一緒に暮らして生活面をサポートしてくれる祖父母や、対局で負けて落ち込んでいるときに電話で励ましてくれる母や家族の支えなどもあって、ここまで頑張ることができたと思います。
――今後の展望について聞かせてください。
2025年3月に卒業する予定なので、今までよりも囲碁に専念できる時間が増えると思います。プロになって1年ほどたちますが、まだまだ自分は実力不足だなと感じる部分も多いので、女流の5大タイトル獲得を目標に練習や研究により一層励みたいと考えています。先日出場した韓国の世界大会では惜しくも敗退してしまったのですが、予選で自分よりも上級の棋士に勝利できたことは、今後のプロ活動を意識する上で大きな自信につながりました。

2024年の8月に世界大会で韓国へ赴いた加藤さん(左)
また、早稲田大学ではさまざまな分野を学んできたので、その学びをどのように生かせるかはまだ分かりませんが、ゆくゆくは日本の囲碁界を支える日本棋院という団体の活動に役立てたいという思いもあります。あとは、子どもが好きなので、今後子どもたちに囲碁を教える活動にも関わりたいですね。
第881回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
社会科学部 4年 堤 壮太郎
【プロフィール】

読売巨人軍(ジャイアンツ)のユニホームを着ている加藤さん
東京都出身。名古屋大学教育学部付属高等学校卒業。趣味は本や漫画を読むこと。大学に入ってからは村上春樹や伊坂幸太郎の小説をよく読んでいる。他にもピアノや散歩などが趣味。野球観戦がマイブームで、よく読売巨人軍(ジャイアンツ)の応援に赴いている。中学高校時代は将棋棋士の藤井聡太さんと同級生だったそう。