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~マレーシアから早稲田へ~知的な旅をより豊かに

学際的な学びと人間的な成長を育むことに全力を注ぎ、知的な旅をより豊かなものにしていきたい

大学院アジア太平洋研究科 博士後期課程 1年 ヌル アディラ

実は、日本で勉強することは私の人生設計にはありませんでした。しかし、初めて東京に来た2022年、日本の首相や数多くの政治家を輩出していることで有名な早稲田大学を訪れたとき、私の中で全てが変わりました。

振り返れば、私がいかに多くの出来事によってこの大学に導かれたかを思い知らされます。早稲田大学専門部政治経済科(当時)に在籍した、母国マレーシアで最も著名な思想家の一人、ウンク・A・アジズ(早稲田大学名誉博士)の自伝を高校生の頃に読んだのもきっかけの一つだったように思います。それから10年以上がたち、今、この大学の学生の一員となっています。

私は、日本政府から贈られた桜で有名なワシントン大学の学部を卒業しました。桜の繊細なピンクの花びらは、まるで雪の結晶のように咲き誇り、シアトル中の人々を引きつけています。花の命は一瞬ですが、1年を通してキャンパス中の人々の心に、桜の花の思い出と幸福感を刻み込みます。米国の端にあるワシントン州と日本列島というとても離れた場所にある2つの地域が、私には少しの隔たりもなく近くに感じられ、外交における友好の素晴らしさを実感せずにはいられませんでした。

学問的にも個人的にも、早稲田は私の興味の中心にあります。ジェンダーと社会科学の学者を志す私にとって、アジア太平洋研究科は学際的で素晴らしい教育を提供してくれていますし、早稲田の人々が生み出した日本・東アジア文学や作家についての豊かな歴史にとても感謝しています。もちろん、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)は、世界文学の活気をたたえることを目的とした施設であり、キャンパスで今最も気に入っている場所です。

早稲田大学はまた、学際的な研究やリベラルアーツ、国際的な言説の強さでも有名で、それは学内で開催されるさまざまなイベントにも表れています。その一つ、ウクライナ戦争で被災した人々の体験談を『戦争語彙集』(岩波書店)としてまとめたイベント『そうやって、私たちは生き永らえたのです 〜ウクライナの避難者の声から言葉 の「今」を考える国際フォーラム』に、学生スピーカーの一人として参加する機会に恵まれました。この集団討論会の一員になれたことは、深い意味のある経験でした。しかし、私が日本の平和を享受している一方で、想像を絶する苦しみに耐えている人たちが世界中にいることを思い知らされ、心が痛んでいます。

2024年1月18日、早稲田大学国際会議場で開催された『そうやって、私たちは生き永らえたのです 〜ウクライナの避難者の声から言葉 の「今」を考える国際フォーラム』。 約330人の聴衆の前で意見を述べました(筆者は左から3人目)

~日本に来て驚いたこと~

日本人が桜の美しさに夢中になっていることを私は知っています。実際私も、ワシントン州シアトルでも東京でも、桜の花が満開になる頃に美しさを鑑賞できるような地域に住んでいました。しかし、私が最も驚いたのは、散っていく桜の一時的な美しさが、日本では“死”を意味することもあるということです。

死は常に残酷で、全ての終わり、暗黒の世界そのもの。そして人類は死を恐れ、美しいわけがなく、悪であるはず…。ところが日本では無常と死がロマンチックに扱われ、美として認識されているのでは? と気付きました。しかし、日本における桜と死の意味について、私の中での先入観との矛盾を考えるのにはとても時間が掛かりました。このことについての私の考えは、日本人の友人たちと議論した会話も含め、『死して桜の木になる(原題:Kematian Tumbuh Menjadi Pohon Sakura)』と題し、マレーシアの文芸誌に掲載されました。

桜の木陰で、美とは必ずしも美しいとは限らないことを学びました。早稲田大学で、そして日本で、学術面での学びと人間性での成長を育むことに全力を注ぎながら、知的な旅をより豊かなものにしていきたいと思っています。

写真左:友人のユカとケイコ、夫と一緒に、鹿児島県の磨崖仏群(まがいぶつぐん)で有名な清水岩屋公園で。水辺の向こうに桜が見えます
写真右:桜の名所、小田原城の前で。城外の博物館(小田原城NINJA館)の映像で、忍者が戦いの中で斬られ、体が倒れて地面の一部となり、桜の木として生まれ変わるシーンがありました。それを見て初めて、桜が日本文化において死を象徴することを知りました

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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