2024年3月に早稲田大学を卒業・修了する皆さんへ、各学術院長・学校長からのメッセージを贈ります。これらの言葉を胸に、夢に向かって歩んでください。
始めは全体の半分
政治経済学術院長
齋藤 純一(さいとう・じゅんいち)
「始めは全体の半分」。プラトンやアリストテレスも引いている古代ギリシアのことわざです。何事かをなそうとするなら、ともかく始めなければなりません。とはいえ、この格言が含意するように、「全体の半分」まで行くこと自体、そう容易(たやす)いことではありません。他の人から助力を募り、その助力を引き出す、逆に、何かを始めようとする人には惜しまずに力を貸す。そうした相互の関係を築くことが鍵になりそうです。この社会はいろいろな面で行き詰まりを見せています。皆さんそれぞれの新たな始まりに期待します。
Next One!
法学学術院長
田村 達久(たむら・たつひさ)
誰(画家ピカソか、喜劇王チャップリンか)の言葉であるかはともかく、あなたの最高傑作は何か、との問いかけへの回答が、「Next One!(次回作!)」であったといわれる。現状に満足せず、さらなる高みを目指すとの心持ちを表現した言葉だ。皆さんが今まさに飛び出さんとする日本の経済社会はイノベーションを声高に求める。これを成功させるには新たなものを積極的に取り入れるという心構え、すなわち、進取の精神が大切ではなかろうか。この精神を涵養(かんよう)された皆さんのいっそうの活躍を願い、この言葉を贈る。
その無駄が世の中の潤滑油になってンだよ
文学学術院長
高松 寿夫(たかまつ・ひさお)
小津安二郎が監督した映画『お早よう』における佐田啓二の台詞(せりふ)。父親から「子どものくせに余計なことを言いすぎる!」と 叱(しか)られた中学生が、大人たちの「コンニチハ」「オハヨウ」…だってみんな余計なことだと反論したという話を面白がって、この台詞を発する。大学で身に付けたことには、いつか思わぬ場面で良い潤滑油になるものが多いはず。それを楽しく使いこなして大いに活躍してください。この台詞に対して佐田の姉役の沢村貞子は「そのくせ、大事なことはなかなか言えない」と応じる。これもまた箴言(しんげん)めいている。
時間こそは、最もユニークで乏しい資源(ピーター・ドラッカー)
教育・総合科学学術院長
箸本 健二(はしもと・けんじ)
経営学者ピーター・ドラッカーの言葉です。間違いなく時間は珠玉のもの、一寸の光陰軽んずべからずです。とはいえ、タイム・パフォーマンスにばかり気を奪われていると大切なことを見落としがちです。時間は人間のためのもので、人間が時間のために存在している訳ではありません。寄り道や途中下車をすることが、しばしば豊かな経験への入り口となるものです。たまには各駅停車に揺られて、普段よりゆっくり過ぎ去る風景を眺め、車内のさざめきに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。そこには何らかしら豊かな発見がある筈(はず)です。
至人は行を留めず(荘子)
商学学術院長
横山 将義 (よこやま・まさのり)
これは荘子の言葉であり、創意工夫による前進の必要性を説くものと解されています。パンデミックから続くパラダイムシフトの中、皆さんが立ち向かう新たな社会では変革が余儀なくされ、既成概念にとらわれることなく行動することが求められます。これからはおそらく trial and error の繰り返し、場合によっては error and error の繰り返しになるかもしれません。学生生活の中で培った知的探求心を活用し、未知の世界を楽しみながら自らの可能性に挑戦してみてください。皆さんのご活躍を心よりお祈りします。
私は失敗したことがない(トーマス・エジソン)
理工学術院長
菅野 重樹(すがの・しげき)
電球を含む数多くの発明品を生み出したトーマス・エジソン。彼の技術者としての哲学を象徴する名言として広く知られています。原文は“I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.”(私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ)。大切なことは、何事もポジティブに捉えること、そして努力することです。私は、常に前を見て前進することをモットーにしています。皆さんが、新しい科学技術、新しい社会を創るために前向きにチャレンジすることを期待しています。
教育は人生の準備ではなく、人生そのものである(デューイ)
社会科学総合学術院長
早田 宰(そうだ・おさむ)
アメリカの哲学者、教育者の言葉です。激動の時代の変化が加速しています。学びは一生です。大学を卒業したら勉強する機会は自分から作らなければどんどん遠ざかってゆきます。学び直しが楽しければ人生も楽しく、学びが豊かになれば人生も豊かになります。早稲田大学は生涯学習のコミュニティープラットホームです。学生時代から自分のことをよく知ってくれている仲間、これからも励まし合い成長し合える仲間を大切にしてください。学びによるつながりをさらに大きく育ててください。早稲田でお会いしましょう!
人と人、知識と知識をつなぐ
人間科学学術院長
三嶋 博之(みしま・ひろゆき)
人間科学は、加速度的に進む社会の発展の中でともすれば閑却とされる人間性を深く尊重しながら、分断された専門性を自由に横断しつつ多元的な方法を用いてそれらを架橋し、現実の多角的・包括的な理解をもって社会に貢献することにあります。人間科学部・研究科での人と人との出会いや知識と知識の融合は、個別の知識を獲得するだけでは見いだせなかった新しい時代の価値を発見するための礎となるはずです。早稲田での出会いと学びが皆さん自身の幸福と、さらに皆さんを取り巻く世界の幸福に結実することを願います。
自分ができること以上のことに挑戦しなければ、成長はない(ラルフ・エマーソン)
スポーツ科学学術院長
松岡 宏高(まつおか・ひろたか)
“Unless you try to do something beyond what you have already mastered, you will never grow (Emerson).” 皆さんは大学生活の中で、それまで自分ができなかったことに数多く挑戦したことと思います。だから、成長できたのではないでしょうか。ただし、ここで止まらないでください。これからも、やったことのないこと、できないこと、小さくても構わないので新たなチャレンジを続けてください。そして、それを達成したときの喜びを感じ続けてください。卒業してからも、皆さんには成長する可能性が大いにあります。
Imagination will often carry us to worlds that never were. But without it we go nowhere. (カール・セーガン)
国際学術院長
稲葉 知士(いなば・さとし)
カール・セーガンの言葉です。現在、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、イスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突など、世界は一瞬たりとも未来を予測することが困難な状況にあります。早稲田大学での学びを生かし、多様な国の価値観を理解し、自分の選(え)り好みの判断を超えた地球上に生きる一人の人間として、自分が社会に対して良いと思うことは進んで実践してください。いろいろな人と出会って大いに議論し、自分と仲間の可能性を信じ、世界に貢献するリーダーとして、ご活躍を期待しています。
「まだ半分あるぞ」
芸術学校長
古谷 誠章(ふるや・のぶあき)
吉阪隆正が大学紛争中の1969年7月に理工学部長として発した告示。グラスに半分のワインを手に「まだ半分残っているぞ」とニコニコする男と、「もう半分しかないや」と悲しがる男が描かれている。吉阪はこのニコニコする男の説に従いたいと言っています。同じ状態でも見方よってポジティブにもネガティブにも捉えられる、ということを示していますが、吉阪はこんなことも言っています。「夜中にベッドから布団が落ちて目が覚めたとき、布団をかけ直すか、落ちた布団に潜り込むか」さて皆さんはどうしますか?