「日々の疑問やモヤモヤは、意外にジェンダーの話につながっています」
文化構想学部 4年 大西 慧(おおにし・けい)

戸山キャンパス戸山の丘にて
文化構想学部でジェンダー(※1)について学びながら、「ナミセン」というPodcastチャンネルを立ち上げた大西さん。“ジェンダーについてくっちゃべる”をテーマに、週に1回PodcastとYouTubeで配信。学内では、GSセンターにて他のスタッフとともに300人規模のイベントを企画するなど、精力的に活動しています。ジェンダーに興味を持ったきっかけや活動の様子、今後の展望について聞きました。
(※1)社会的、文化的に作られた性差
――ジェンダーに関心を持ったきっかけを教えてください。
小さい頃からすごくハキハキと自己主張をしていたので、周りから「気が強いね」「たくましい女の子だね」と言われることが多かったんです。「どうして男の子は言われないのに、私は意見を言っただけで『気が強い』と言われるのだろう」という思いをずっと抱いていました。大学への進学先を調べているときに、子どもの頃に言語化できなかったモヤモヤを解決できるものがあるらしい、それはジェンダーといって早稲田大学の文化構想学部で学べると知りました。そこから志望校を早稲田に決め、晴れて入学。ジェンダーを学び始めることができました。
――実際にジェンダーを学んでみてどうでしたか?
ジェンダーについて学んでみると、今までのモヤモヤが一転、視野がくっきりと晴れたような気持ちになりました。早稲田には、熱田敬子先生(文化構想学部非常勤講師)、森山至貴先生(文学学術院准教授)、岩川ありさ先生(文学学術院准教授)、草野慶子先生(文学学術院教授)など挙げ始めたらきりがないぐらい、ジェンダー、フェミニズム、クィア・スタディーズを専門にされている先生が多く在籍していて、いろいろな授業で自分以外の複数の視点に触れることができます。「自分の考えが絶対的じゃない」「自分の考えが誰かにとっては加害的かもしれない」など、多角的な視点から自己内省ができるようになったのは、早稲田の先生方のおかげだと思っています。

パソコンにはALLY(支援者のこと。GSセンターではセクシュアルマイノリティー支援者のことをALLYと呼ぶ)を表明するものなど、たくさんのジェンダーにまつわるステッカーが
――そして、今は自身でジェンダーについてPodcastやYouTubeで配信しているそうですね。
2020年に入学したのですが、ちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めた頃でした。入学式は延期となり、授業はオンラインと、自分が想像していた大学生活とかけ離れていました。そんなとき、「メディア論1」の講義の中で岡室美奈子先生(文学学術院教授)がおっしゃった「この状況だからこそできることを見つけたら、生活は豊かになりますよね」という言葉に衝撃を受けたんです。確かに起きたことは仕方ないし、この状況でしかできないことをやってみようと思い、1年生の終わり頃から始めたのが「ナミセン」というPodcastチャンネルです。“ジェンダーについてくっちゃべる”をテーマに、週に1回PodcastとYouTubeで配信しています。
配信を始めるにあたり「一緒にPodcastやってくれる人いませんか」とInstagramでメンバーを募集したところ、興味を持ってくれた中高時代や大学の友達、さらに友達の友達が集まり、現在は8人の大学生で運営しています。難しい学術的なことではなく、テレビドラマ、ディズニー、マッチングアプリ、お正月の帰省など身近なトピックで話しているので、いろいろな人に聞いてほしいですね。ジェンダーやセクシュアリティー(※2)についてたくさんの人に関心を持ってもらえたらうれしいです。
(※2)性的指向などの性のあり方。
第70回 「最近読んでいる漫画について」。日常で感じるふとした疑問やモヤモヤは、意外とジェンダーやセクシュアリティーの問題につながっているという
――「ナミセン」チャンネルの配信で特に印象的だった回を教えてください
以前、「ナミセン」チャンネルでセルフプレジャー(※3)について語った回(第45回「セルフプレジャー①」)があったんですが、この回が非常に高い再生回数で驚きました。日本社会では、今でも女性が性欲について語るのはタブー視されがち。私も話すときは恥ずかしかったんですが、でもそういう気持ち自体が、女性の性欲は隠すべきものやなかったことにされたりと、社会的に作られてきたものだと思うんです。反対に男性だったら性欲があって当たり前、といったこともステレオタイプの刷り込みで、それぞれ個人の本心とはかけ離れたものかもしれない。本当は関心があるけど今まで誰とも話せなかった事柄を、有識者の方や有名なインフルエンサーではなく、普通の大学生が「そういえばさ」と、普段の話題の一つとして話すことに意味があると思っています。「ナミセン」チャンネルを通じて、今まで人と共有することは難しいと思ってきたセンシティブな話題も、もっと普段から話していいんだという新たな視点が増えればうれしいです。
(※3)自分の性器や感じやすい部分を自分で触って快感を得る行為のこと。性欲を満たすだけでなく、リラックスやストレス解消、美容や健康にもメリットがあると言われている。

『第63回デモに行ってみよ♪』YouTube「ナミセン」チャンネルの配信画像(大西さんは上段右)
――大学ではGSセンターの学生スタッフとしても活動をしているんですよね。

イベントで使用したポスター。当日は司会を務めた大西さん。「緊張しましたが、映画やLGBTQ+に興味がある人が一堂に会し、真剣に語り合えたのはとても貴重な時間でした」と話す(画像提供:GSセンター)
GSセンターは、性的マイノリティーなどLGBTQ+を含めた学生や、ジェンダー・セクシュアリティーに関心のある全ての人々の居場所として、誰もが自由に利用できる場所です。授業以外でもっと何か学びを深められないかと思っていたときにGSセンターの存在を知り、たまたま学生スタッフを募集していたので応募しました。ここでは、自分の興味のあることと絡めたイベントを企画できるなど、私の世界がぐんと広がった場所です。
これまでいくつもイベントを企画しましたが、その中でも印象に残っているのは、2022年に開催した『トークセッション 監督と研究者で考えるこれからの映画とLGBTQ+』というイベントです。「ALLY×映画」をテーマに定め、ALLYという立場で映像作品を見るというのはどういうことなのか、考えるきっかけを提供することを目的に、他のスタッフとともに企画・開催しました。
ゲストとして、映画『片袖の魚』(2021年公開)で監督・脚本を手掛けた映画監督の東海林毅さん、岩川ありさ先生(文学学術院准教授)、久保豊先生(金沢大学人間社会学域准教授)に登壇いただきました。参加者は300人にものぼり、多くの人と、自分の興味のある映画や、映像関係の仕事をしていきたいという自分の夢につながる話をできたのは、本当に幸せな時間でした。
「気になると思ったらふらっと気軽にGSセンターに遊びに来てほしいです」(提供:GSセンター)
――これからの夢や展望を教えてください。
もっと次の世代が安心して暮らせるような国にしたいし、今の社会もより良くしたい。ものすごく抽象的だし、大きすぎるかもしれませんが、それが私の夢です。私にできるの? って感じですが、おしゃべりが持つ伝播する力ってすごく強いと感じているんです。
卒業後も、日常の中でのふとした疑問やモヤモヤを共有できる場として、「ナミセン」チャンネルを続けていこうと思っています。この配信で、世の中の流れが少しでも良くなるきっかけを提示していきたい。「自分たちの社会をこうしていきたいとか、こんな国になってほしい」など日々思うことを話していくことで、ジェンダーや政治、社会の問題に興味を持ってくれる人が増えることを願って、活動を続けていきます。
第860回
【プロフィール】
東京都出身。洗足学園高等学校卒業。趣味はPodcastとラジオを聞くこと。それぞれお勧めの番組は『Y2K新書』、『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』(以上、TBS Podcast)、『ジェーン・スー 生活は踊る』、『武田砂鉄のプレ金ナイト』、『荻上チキ・Session〜発信型ニュース・プロジェクト』(以上、TBSラジオ)など。ハマっていることは、往年のテレビドラマを探して見ること。
「ナミセン」チャンネル
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