「昨年はShohei Otaniの大活躍により学院でのマエケンの存在は薄くなってきた。しかし切れ味鋭いスライダーは健在であり、生徒からの笑いにおいても多くの空振りを取っている」
生徒主体で制作している雑誌に掲載された私の「教員紹介」からの抜粋である。この後の部分で、同姓同名の野球選手ではなく、私の方を「ホンモノ」と評しているあたり、学生の気遣いを感じるが、〈空振り〉という表現が気になる。「この〈空振り〉というのは良い意味なの?」と記事を書いた学生に訊(き)くと「はい」と笑顔で答えた。
確かにスーパースターの存在は強烈だが、野球人気の低迷が嘆かれる中であっても、彼の不思議な体操を知る者は多く、超一流の世界で日々、一本の刀で戦い続けている(もっとも彼は打撃も得意だ)。彼はマエケン界の誇りである。
自らの領分に目を移せば、国語は好きでも嫌いでもない科目の筆頭とされて久しい。さまざまな〈オモチャ〉は若者を魅了し、一カ月に一冊も本をよまない〈不読者〉は増える一方だ。例えば「星新一の作品をよんだことがある人?」と問えば、40人の教室で2、3人しか手があがらない。「小説ってなんの役に立つんですか?」と尋ねてくる生徒も現れてきた。
私は一流どころか二流ですらないが、それでも球を投げ続ける。見逃し三振ではダメだ。あくまで、空振り。時々、ヒットを打たれる。それでも球を投げ続ける。いつか、ホームランが出る。私からも笑みが漏れる。しかしそれも一瞬のこと。次はもっと切れのあるスライダーを投げなくてはならない。
(M.K.)
第1142回