Quiet Roomは近年、美術館や大規模な美術展などで設けられている、外部の光や音の洪水から守られた空間のこと。視覚や聴覚のダイバーシティという点から始まった試みだが、その背景として、現代の高度なテクノロジーを活用した実験的な映像作品や、非日常的な音響空間が生み出されていることも見逃せない。さらに、現代アートの一つの方向性として、今日の地域社会の課題を巡って、アーティストと鑑賞者がディスカッションをするなど、活発なコミュニケーションが展示室の中で展開されることも多い。かつてのような、完成した絵画を黙って鑑賞するものとは別の、積極的なアクションが求められている。
それゆえ、実は多くの来場者にとって、光や音に充ちた展示室からひととき距離を置くためのこのQuiet Roomは、より腰を落ち着けた鑑賞には貴重なスペースと言えるのだ。実際、穏やかな光の室内に入ると、人びとは思い思いにリラックスした姿勢で眼をとじ、静かに時を過ごしている。
VRのゴーグルやiPhoneのイヤホンを身に着けると、日常空間とは別の世界に没入することは容易かもしれない。一方で、ほんの数分眼をとじるだけで、私たちはバーチャルな視覚イメージよりはるかに遠い想像力の飛翔に身を任すこともできるし、直前に感覚を通して受け止めたものを、深く反芻(すう)することもできる。
キャンパスで小さなスクリーンに疲れたら、少し眼をとじてみることも悪くない。教室で音が遮断されることはめったにないが、視覚の遮断にもっとおおらかであってよいのかもしれない。もちろん意識が覚醒されていることを前提として。
(N.S.)
第1132回