「次の世代につなげられるダンサーになりたい」
法学部 4年 桑原 巧光(くわはら・たくみ)

早稲田キャンパス8号館にて
2021年に日本で誕生した世界初のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」(以下、Dリーグ)。Dリーグでは、11チームが年間12回のラウンドを戦い、チャンピオンシップを経てシーズンチャンピオンを決定します。 参加チームの1つ「CyberAgent Legit」(以下、レジット)のリーダーを務めるのは、TAKUMIとして活動する桑原巧光さん。大学入学以前から、国内外の大会で数々の成績を残してきました。現在はプロダンサーとして活動しながら、法学部生として勉学に励む日々を送っています。そんな桑原さんに、ダンスを始めたきっかけやDリーグでの活動、学業との両立、そして今後の目標について聞きました。
――ダンスに興味を持ったきっかけを教えてください。
僕は小学4年生まで、地元の福島で野球をやっていたのですが、東日本大震災の影響で続けることが難しくなってしまいました。屋内でできるスポーツを探す中、姉が通うダンススタジオを見学することになったのが、ダンスとの最初の出合い。スタジオで踊る人たちを見た途端、自分も踊ってみたくなり、それからはすっかりダンスに夢中になっていったんです。

桑原さんの得意ジャンルは、ロボットダンスのような動きが特徴のポップダンス。
写真は2017年に「高校生ダンスバトル選手権」で2連覇を達成したときの様子
――桑原さんはこれまでに全国規模の大会・コンテストで数多くの成績を残しています。その中でも特に印象に残っているものはありますか?
米国・ニューヨークのアポロ・シアターで行われている、アマチュア歌手やダンサーが出演するイベント「アマチュアナイト」です。あのときの感動は今でも忘れられません。2016年、僕の所属していたダンスチーム「FORCE ELEMENTS」は「DANCE CUP」というストリートダンスコンテストで優勝しました。そのときの副賞が、ニューヨークへの7日間ダンス留学の権利。ダンスの本場へ赴くまたとない機会を最大限生かしたい。そんな思いからみんなで話し合い、留学中にアマチュアナイトに挑戦することにしたんです。
初めてのアポロ・シアターでは緊張でガチガチ。自分たちのダンスが世界で通用するのか、ステージに立つまで不安で一杯でした。しかし、実際にパフォーマンスを終えると、待っていたのはまさかのスタンディングオベーション! そのときの光景は、映画のワンシーンのように感じられるほど鮮烈で、ダンスを続けてきて良かったと心底思いました。

「FORCE ELEMENTS」のメンバーとアポロ・シアターにて。「アマチュアナイト」では、忍者をモチーフにした振り付けを考案・披露し、週間・月間チャンピオンに輝いた(右が桑原さん)
――現在、桑原さんはプロダンサーでありながら法学部の学生でもありますが、早稲田に入学した理由は何でしょう。また、学業との両立はどうしているのでしょうか。
早稲田に入ったのは将来を考えてのこと。高校生の頃からプロダンサーの夢はありましたが、ダンスだけで生計を立てていく自信はあまりなかったんです。もちろん、ダンスを生業(なりわい)としている方はいらっしゃいますが、自分もそうなれるのかどうか…。また、もし就職するなら、弁護士になるか総合商社で働きたいという思いもあり、将来の選択肢を広げるために、法学部への進学を決意しました。
いざ入学すると大学の学問レベルは高く、初めはダンスと学業の両立に相当苦労しました。2年生になってからは、新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン授業が中心に。それによって、練習の合間に授業を受けたり、移動中にオンデマンド動画を見たりと、隙間時間で勉強を進められるようになりました。
――大学に入学してからは、どのようにダンスに取り組んできましたか?

リーグ戦での1枚。ダンスが楽しいと思う瞬間は、音楽を聴いて浮かんだイメージ通りに踊れたときだそう
初めは、国内外でパフォーマンスを行ったり、バックダンサーやインストラクターなどの仕事を個人でこなしたりしていました。Dリーグのお話をいただいたのは2020年の冬ごろ。Dリーグは多くの企業を巻き込んだ、ダンス業界でも指折りの一大プロジェクトでした。チームリーダーとして誘っていただいたときは本当にうれしかったです。
Dリーガーになってからは、肩書だけでなく自分自身にも変化があったように思います。それまでは、大会に勝つとか、もっとうまくなりたいとか、とにかく自分のために踊っていました。しかし、Dリーグでの活動はスポンサー企業をはじめ、多くのサポートがあってのもの。ここ数年は、プロとしての責任やファンの応援に応えたいという思いが、自分の中で大きくなっているのを感じます。
――現在、桑原さんはリーグ最年少リーダーとしてレジットを率いています。チームやDリーグでの活動、リーダーとして意識していることについて教えてください。
レジットには9人のダンサーが所属しており、ダンス&ボーカルユニット「RADIO FISH」のメンバーとして知られるFISHBOYさんがディレクターを務めています。チームの面々はとても個性的で、得意なダンスもバラバラ。ですが、それ故にチームの層が厚く、さまざまなジャンルを得意としているんです。
シーズン中は隔週で試合があり、衣装・曲・ダンスは試合ごとに制作するのがルールです。レジットでは1ラウンドにつき1人のショーディレクターを決め、その人を中心に作品を作っています。ショーディレクターは、チームメンバーがなることもあれば、外部の振付師の方に依頼することもあります。試合ごとに異なる雰囲気をぜひ楽しんでもらいたいです!
レジットの公式YouTubeチャンネルでは、Dリーグでのパフォーマンスの様子も掲載している
実は、自分のリーダーとしての在り方にずっと悩んできました。力強く引っ張っていくというのはもちろん大事ですが、無理に統率するのも違うと思っていて。チームメイトはこれまで個の力で活躍してきたので、できるならその個性をとことん生かしたい。その思いから、個人の良さを引き出すには統率力のあるリーダーよりも、「寄り添えるリーダー」になるべきだと考えるようになりました。自分が積極的になる場面もありますが、今はメンバー一人一人に合ったアプローチで、みんなの個性を引き出せるようなリーダーを目指しています。

レジットのメンバーと。メンバーとは昔から大会などで戦ってきた、幼なじみのような関係
――最後に、桑原さんの今後の目標を教えてください。
引き続きDリーガーとしての活動に注力していきたいです。Dリーグの誕生で、今まさにダンス業界が活気づいています。一選手として、これまで以上にDリーグを盛り上げていくこと。そして、この勢いを次の世代にもつなげるため、ダンス業界全体に貢献できるようなダンサーになることが今の目標です。
将来的には、ダンサーとしての肩書にこだわらず、多方面で活躍していきたいとも考えています。例えば、舞台演出にも興味があります。きっかけは、米国・ラスベガスで観たシルク・ドゥ・ソレイユの舞台。抜群に面白く、平日の昼間でも会場が満席になるほどの人気ぶりで、初めて公演を観たときにとても感銘を受けました。それ以来、多くの人を魅了するような舞台を自分でも演出してみたいと思うようになったんです。また、演出だけでなく運営の手腕を身に付けるため、経営の勉強にも現在取り組んでいます。在学中に経営学の授業も受けたいですね。
第814回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
法学部 3年 佐久間 隆生
【プロフィール】
福島県出身。県立福島高等学校卒業。趣味は読書とMLB観戦。小学4年生からダンスを始める。現在、Dリーガーとしてだけでなく、ダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS」の振り付けを担当したり、ディーン・フジオカのバックダンサーをしたりと個人でも活躍中。好きなダンサーはSlim Boogieさん。音の取り方の細かさに衝撃を受けて、憧れるようになった。ダンスの魅力は、言語を越えて観る人を感動させることができるところだと話す。
Twitter: @legi_TAKUMI
Instagram: @beatelements_takumi
YouTube: takumi_beatelements