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全ては「家業を継ぐため」に 魚屋になるまでの人生の泳ぎ方【2021年度卒業記念号】

どんな経験も自分の武器にして、最大限生かしていく

株式会社寿商店 常務取締役 森 朝奈(もり・あさな)

魚屋の森さん」として発信するYouTubeは100万回再生を何度も突破。講演会やメディア出演でも人気を博す、名古屋の鮮魚卸・株式会社寿商店の二代目、森朝奈さん。早稲田大学を卒業後、楽天株式会社を経て家業を継いだ彼女は、「魚屋を継ぐ夢は小さな頃から一度もブレませんでした」と語る。森さんは早稲田大学や企業での学びや経験を今、家業にどう生かしているのだろうか?

学業も留学もアルバイトも「将来、家業を継いだときのため」

学生時代に仲の良かった同級生と(右から3人目が森さん)

「英語を学びたかった私にとって、魅力的な留学制度があったことが国際教養学部を志望した一番の理由。準備の段取りが悪く、計画性の大切さを痛感したことも含め、ニュージーランド留学は学生時代の大切な財産の一つになりました」

このように留学を振り返る森さん。ただ、志望動機である「英語力向上」も、元をたどれば“家業のため”という理由だった。

「『寿商店』は私の父が創業した会社で、その仕事ぶりをずっとそばで見てきた私は、気が付いたときには『大きくなったら父と一緒に魚屋をやる』と強い使命感を持っていました。そんな父がある日、『いつか海外で店を開いてみたいな』とポツリ。私はそれを聞いて勝手に、『英語を勉強しなきゃ』と決心したんです」

何事にも“家業のため”という使命感を持っていた学生時代の森さん。だからこそ、英語以外の面でも「将来、継いだときに生かせるか」という視点からブレず、授業では経営学を主軸に選択。また、経営者の仕事を間近で見るため、ベンチャー企業でのインターンシップも経験。卒業後、楽天に入社したのも、将来を見据えてのことだった。

「父は『今後、インターネットで魚を売る時代が来る』と、魚屋としてはかなり初期からネット通販を始めましたが、未知のことばかり。『お前、若いんだからこういうの分かるか?』と質問されても、何も答えられない悔しい経験がありました。でも、そこで考えたんです。大学を卒業して家に戻っても、自分はすぐに魚を捌(さば)いたり、寿司を握れるわけではない。それなら、父が学びたくても学べないことを社会に出て学ぶべきじゃないか。これが楽天を志望したきっかけです」

楽天では社長室に配属になり、多様な事業の最先端に触れた。

「ものすごいスピードで物事を判断すること、固定概念や先入観に捉われずに新しい価値観を創出することなど、さまざまなことを学ばせていただきました。今、私自身『常務取締役』という仰々しい肩書で、事業計画を考える立場にありますが、楽天時代に経験した『判断スピード』と『固定観念の打破』はいつも意識するようにしています」

現在は、アプリを用いたオンラインサロンも実施。全国に魚好きを増やすことを目標に日々コンテンツを提供している

ピンチをチャンスに コストを付加価値に

自ら市場に足を運び、魚の目利きを身に付けた

楽天を退職し、いよいよ小さな頃からの夢だった、“家業を継ぐ”道に踏み出した森さん。ただ、意気込みとは裏腹に、当初はうまくいかないことばかりだった。

「実際に家業を始めると、慣れないことばかりで大変でした。それぞれの業界で『常識』は変わり、私が早稲田や楽天で身に付けたことは一度捨てて、また一から勉強しなければいけないんだ…と気付くまでにも時間が掛かりました」

そんな森さんが自信をつかんだきっかけは、コロナ禍での業績悪化という窮地。まさに、ピンチをチャンスに変えたのだ。「コロナの影響で売り上げは半減し、創業して初めての額の赤字を計上することに。そんなときに考案したのが『鮮魚BOX』という魚の詰め合わせセット。下処理を済ませた魚を、お客様のニーズに合わせて発送するサービスを始めたんです。その結果、コロナ禍以前の150%の売り上げを記録し、大きな自信になりました」

写真左:鮮魚boxの一例。一つ一つの商品におすすめの食べ方を書いている
写真右:2021年から、新たな店舗形態としてバーガーショップを展開

また、コロナ禍を契機に、YouTubeやInstagramなど、これまで以上にSNSを使った情報発信にも力を注いだ。

「おいしく魚を食べていただくには、たくさんのプロセスと手間がかかります。それは『コスト』でもありますが、うまく変換できれば私たちの会社の『絶対的な付加価値』にもなる。だからこそ、そのプロセスや手間をしっかり伝えたいという思いが根底にあります。また、魚の食文化を守り、育てることは業界全体のベースアップにもつながるはず。その点もしっかり心掛けて、日々、情報発信しています」

小さな頃からの“家業を継ぐ”という夢をかなえ、初志貫徹した森さん。その過程で出合ったもの、経験したことを自分の新たな武器に転換してきた。そんな森さんだからこそ卒業生に向けて伝えたいことは、「自分が持つ武器を最大限生かす」ことだった。

「在学中以上に、卒業してからの方が『早稲田』のつながりやご縁を感じることは多く、間違いなく自分の強みになっています。例えば、今いる名古屋で早稲田の卒業生に会うと、新しい仕事のきっかけになることもあるんです。そんな形で、自分で培った『早稲田ブランド』をぜひ生かしてほしい。そして、自分の価値観や人生軸を見つける上でも、その軸をさらにブラッシュアップするためにも、先入観を持たずにさまざまな価値観を持った人と触れ合うことをおすすめしたいです」

父(写真左)と実施したマグロの解体ショー

取材・文=オグマナオト(2002年、第二文学部卒)

【プロフィール】

愛知県出身。2009年早稲田大学国際教養学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社し、社長室に配属。家業を継ぐために名古屋に戻り、父が創業した、鮮魚販売や飲食店を展開する株式会社寿商店に入社。2017年常務取締役就任。YouTubeチャンネル「魚屋の森さん」を運営するYouTuberでもある。

Twitter: @asana1220
Instagram: @asanamori

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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