Waseda Weekly早稲田ウィークリー

News

ニュース

早稲田大学における女性専任教員の草分け 故秋永一枝名誉教授

この度、第一・第二文学部(文学部・文化構想学部の前身)で教壇に立たれた故秋永一枝名誉教授の関係資料が、ご遺族の鳥越明日香氏から大学史資料センターと図書館に寄贈された。早稲田大学女性専任教員の草分けの一人であった秋永氏の足跡と、寄贈された資料の紹介を兼ね、秋永氏に師事した上野和昭教授(文学学術院)に寄稿いただいた。(大学史資料センターより)

方言アクセントとアクセント史研究

文学学術院 教授 上野 和昭(うえの・かずあき)

早稲田大学名誉教授、秋永一枝(1928~2017)は旧東京市本所区(現 墨田区)両国の生まれで、桜蔭高等女学校を卒業した後、戦後すぐに帝国女子医薬理学専門学校(現 東邦大学)で学んだ。早稲田大学に入学したのは、その後のことで、昭和24(1949)年、第一文学部国文学専修に編入学し、同26年3月に卒業論文「清少納言について」(主査 岩本堅一教授)を提出して卒業した。

卒業後は三省堂出版株式会社編修所の嘱託として『明解国語辞典』『明解日本語アクセント辞典』の改訂や編集にも携わり、昭和31(1956)年に再び早稲田大学大学院文学研究科に入学することになる。

同研究科に提出した修士論文は「平安・鎌倉文学作品における声点本の研究―古今集を中心に―」(主査 岡一男教授)である。「声点本(しょうてんぼん)」とは、漢字や仮名の四隅に点を差して、その音調(高低)を注記した伝本のことである。日本語学では、主にアクセントの歴史を解明するための資料として用いられるが、本来は古今伝授の実態を伝える貴重な文献であり、日本古典文学の研究には欠かせないものである。この研究が、後の博士論文『古今和歌集声点本の研究』全4冊(1972~91)として結実する。秋永はこの研究で第10回新村出賞(1991)を受賞した。

大学史資料センターに寄贈された資料の一部

秋永の学問は、その師である金田一春彦の学風を受け継ぎ、実際に耳に聞くことのできる方言アクセントの研究と、過去の文献によるアクセント史研究を、両方ともに行うことを目指していた。方言アクセントの研究には、日本各地の実地調査が欠かせない。秋永は自身の生育地である東京はもちろんのこと、沖縄や瀬戸内の島々にまで出掛けては、方言アクセントの聞き取り調査を続けた。その一方で、全国各地の図書館や貴重書の所蔵者を訪ねて、そこに蔵される古文献を調べていたのである。

秋永の方言調査は、精緻な調査項目もさることながら、協力者(被調査者)との間に交わされる言葉のやり取りにも他の追随を許さない巧みさがあり、人々の生活の言葉を聞き出しては即座に記録するというものであった。その一方で、秋永がひとたび古文献を前にすると、その表情までがあらたまり、寸分もゆるがせにしない厳しい目で文献を読み、そこから過去のことばの音調を解明していった。

いま振り返ってみると、古文献の中に秋永が見ていたものは、それを書写し伝えた人の営みであったろう。そのときの古文献を扱う秋永の姿勢と、方言話者に対するときの謙虚な様子との間には、たしかに通底するものがあった。

和歌山県龍神村方言調査。龍神綾氏(右)と(1988年)(筆者提供)

さて、秋永は早稲田大学における女性専任教員の草分けとして昭和37(1962)年に第一・第二文学部の専任講師に着任し、同44(1969)年には助教授、同49(1974)年には教授に昇任した。そして第一文学部、第二文学部の両方で日本文学専修主任を務めた。かつて学生運動の盛んなころには、男性教員と同じように夜間の校内巡回もしたということであるが、秋永にとってはむしろ当然のことであったに違いない。退職は平成11(1999)年のことで、その後も研究に意欲を示していたが、2017年9月29日に老衰のため帰らぬ人となった(享年89)。

早稲田大学第一・第二文学部日本文学専修送別会(1999年3月)(筆者提供)

このほど早稲田大学図書館に寄贈のあった文献は、江戸期の版本を中心として15点余であるが、中には飛鳥井雅康(宋世、1436~1509)が奥書を記した『和歌会席事』1巻も含まれている。また『四座講式』元禄版は不鮮明な影印が知られるばかりで、今では版本を見る機会の少ないものである。他に斎藤茂吉旧蔵の石塚龍麿『古言清濁考』などもある。また、秋永の卒業論文や修士論文は、その他の証書類と併せて、ご遺族により大学史資料センターに寄贈された。この記録を、大学が保存して後世に伝えるということは意義深いことである。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/weekly/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる